25話「たのしい昼食」
お昼休み、心待ちにしていた時間がいよいよやってきた。俺はすぐさま渚に指定された中庭へと向かおうとする。がしかし、昨日みたく相変わらず空気の読めない
「あれ、
「や、今日は先着がいるんだよ」
「は!? またぁー? 」
修二は呆れるような顔をしながらそう言った。
「悪いな」
そう軽く謝って、すぐさま立ち去ろうとした時――
「昨日は
なんて修二は鋭いところをついてくる。というか、なぜか昨日汐月と帰ったことがバレている。結局、俺たちのあの行動は無意味だったようだ。アイツが後をつけてきた、とうことはないだろうから、持ち前のリサーチ力だろう。それに加え、今日のお相手まで当ててる始末。まるで探偵みたいだな、なんて思いながら空気の読めない修二に若干だがムカついていたので、聞こえないフリしてさっさと中庭へと向かうことにした。
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中庭に着くと、もう既に諫山姉妹が芝生の上にシートを敷いて俺を待っていた。俺に気づいたようで、手招きしている。
「悪いー、待たせたな」
「ううん、私たちもさっき来たばっかだから」
「よし、じゃあ食べよっか」
中庭に着いて気がついたことなのだが、朝の天気が嘘だったかのように雲がどこかへと消えてしまったいた。お天道様も空気を読んでくれたのだろうか。そんなことを思いつつ、気持ちのいい青空の下、その渚の合図で弁当を広げ始める。
「でも、いいよねこういうのって」
「そうね、外で食べるのってあまりないし」
「天気もよくなってきたしな」
「そういえばそうねー朝はかなり曇ってたのに」
「今日は変わりやすい天気だっていってたよ」
「へぇー」
そんなごく普通の世間話をしながら食事の用意は終わり、みんなでその弁当を食べ始めることにした。
「「「いただきまーす!」」」
「――どう? おいしい?」
俺が一口頬張ったところで、なぜか
「うん、めっちゃおいしいよ!」
当たり前っちゃ当たり前だが、渚の料理はとてもおいしい。たぶんだが、渚の好みは俺のそれに近いのだろう、俺好みな味に仕上がっている。だからより一層、おいしい。こういった部分を加味すれば、下手すると普通に明日美より上かも。
「えへへー、やった! 煉に褒めてもらえた」
渚は可愛らしく微笑み、とても嬉しそうに喜んでいた。
「俺に褒められてそんなに嬉しいか?」
「だって、煉みたいな料理のうまい人に褒めてもらえるんだもん」
「や、渚の方がうまいだろ」
「いやいや、そんなことないってー――あっ、澪、口に米粒ついてるよ」
「えっ? えっ? どこどこ?」
それを指摘された澪は慌てて自分の顔を、ついてる場所とは全然違う場所を触っていた。俺はその光景が、なんとなく朝の渚を思い出してしまい、ちょっと笑い出しそうになっていた。
「ほら、こーこっ! もっと落ち着いて食べなよ」
そんな光景を見て、渚は澪についてる米粒を取ってあげる。なんか、こういう風景をみるとやはり渚が姉なのだと改めて実感する。
「えへへ、ゴメン。あまりにもお姉ちゃんの料理が美味しいから」
「もー、おだてても何も出ないわよ。てか、いつも食べてるでしょ?」
「そういやさ、言っちゃ悪いかもだけど、お前らってあんまり似てないよな。渚は料理できるけど、澪はできないし」
ふと、2人のやり取りを見ていてそんなことを思い、訊いてみる。渚と澪は確かに姉妹と言われれば納得がいくが、双子と言われると……ちょっと意外かもしれない。体格や、髪型が違うからかもしれないが、一般的な双子のイメージってもっと見分けがつかないくらいだから気になった。
「まあ、私たちは二卵性双生児だからねー普通の姉妹と殆ど変わらないのよ」
「へぇー、そうなんだ」
俺たちはそれからも食事をしながら、相変わらずの世間話をしていた。それから食事が終わり、昼休みももう終わりを迎えようとしていた。弁当の片づけをすませ、俺たちは各々の教室へ一緒に戻ることにした。
「――なぁ、でもよかったのか? こんなにしてもらっちゃって」
帰る道中、今更ながらそんなことを訊いてみる。言ってしまえば、タダ飯を食わせてもらっているわけだし。
「いいのよ、別に約束したことなんだし。澪も楽しかったわよね?」
「えっ、うん、楽しかったよ」
「でも、その約束も結構冗談だったんだけどな」
「まあ、いいじゃない。それでも納得いかないなら、煉がお返しに弁当作って来ればいいことだし」
「はぁ!? 俺が?」
「澪も煉の弁当食べたいよね?」
そんな余計なことを澪に振る渚。こいつ、完全に作ってこさせる気でいるな。まさか、今日のこれも俺に恩を売っておいて弁当を作ってこさせるための策だったとか? それだと、売るってより『押しつけ』って言葉の方が似合いそうだけど。
「うん、食べたいな」
予想通り、澪はそれに頷き、そう言ってしまう。
「うっ…………じゃあ、気が向いたらな」
そう言われてしまったらもう断ることはできない。あまり気が乗らないが、今日のお礼にでもいつか作ってくるか。ホント、気が向いたらいつかな。
「うふふ、期待しないで待ってるわ」
「楽しみだなー、煉くんの料理」
そんな風に嬉しそうにしながら、俺の弁当のハードルをあげる澪。その天使の微笑みが、悪魔のようにみえるぜ。そう言われたら、腕によりをかけなければならない。そうなると時間がかかる。つまりもっと朝早く起きなければならない、だからはたして俺は出来るのか不安だった。
「澪、あんま期待すんなよ……出来たらだから……」
「ふふ、でも待ってるから」
「おう、いつかな」
そんな話をしてるといつしか、もう教室の近くまできていた。俺は渚と澪に別れを告げ、料理のことを考えながら教室へと入っていく。どうするか。渚にあれだけのものを振る舞われて、そのお返しの料理。澪にもあんなにハードルを上げられてしまったし、それ相応のものを用意しなければ。でも朝が弱い俺に、それができる気が全くしない。まあ、それこそ気が向いたら考えるか。そんな楽観的に考えながら、午後の授業の準備を始めた。
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