11話「サボり魔には制裁を」
「ただいまー」
「お邪魔しまーす」
「おっ、帰ってきたね、2人ともサボって何してたの?」
帰ってくると、まず玄関先で
「いや、電話番号変えに」
それに対し、俺はあくまでも事実だけを述べていた。ホントのことを言えば、怒られるのも最小限で済むだろう。
「なんで?」
「今日、
あくまでも俺の正当性だけを姉に訴え続ける。これは仕方がないことだったのだ。あのバカが全て悪いのだから。
「ふーん、じゃあなんで
「そ、それは……
委員長はたぶんこの空気感で察したのだろう、彼女の顔が珍しく怯えている。なんとかこの場をなだめようと委員長も必死になって明日美に弁明する。
「へぇー…………どれだけ心配したと思ってるのっ! ずっと探してたんだよ!」
ひと通り理由をきいた後、結局明日美は俺たちを怒鳴ってきた。たぶん急にいなくなったのをみんなが心配して、明日美にまでチクったんだろう。くっそ、修二の野郎、わざと事情を説明しなかったな。アイツならその話をしてたんだから、察しがつくだろうに。
「「ごめんなさいッ!!」」
俺と委員長は声を揃えて、頭を下げて謝った。心配をかけたんだから、ここは素直に謝るのが吉だろう。
「ホントに心配したんだから! 藤宮さんもクラスの人たちに一言ぐらい声かければよかったのに」
目頭に涙を浮かべつつ、その思いを俺に叫ぶ明日美。それで俺たちが行っている間、明日美がどれだけ心配したのか容易に想像がついた。おそらく探している間に
「彼に会ったのが生徒玄関でしたし、携帯も家に忘れてきたので」
おっとぉー?
委員長が嘘をついたぞ。朝の段階で、俺に電話してきているんだから最低限家には忘れてきていない。仮に教室に置いてきたのだとしたら、みんな探している間に確実に携帯に連絡入れるだろうから教室だと明日美たちにその発言が嘘だとバレてしまうし。それに確か俺の記憶じゃ、船に乗っている間、携帯を見てたような。
「じゃあ、しょうがないか……過ぎたことだし。あっ、そうだ! 藤宮さん
「いえ、もう外も暗いですし……」
「いいじゃん、上がってけよ。それに、俺が送っていけばいいし」
「…………じゃあ、お言葉に甘えて」
しばらく考えて、委員長はそう言った。それから、俺たちはリビングへと向かう。すると、もう既に夕食が出来上がっていた。
「明日美、作ってたんだ」
「うん、
そういや気づいてなかったけど、俺昼飯食ってないや。確かに、東京言っている間に軽食程度は食ったけど、所詮それは軽食程度に過ぎない。だから今日は
「そっか、じゃあ、食べよっか」
そう言って俺は自分の席に着く。明日美、委員長も各々席に着いた。
「いただきまーす」
明日美の号令で、俺と委員長も手を合わせてお決まりの挨拶をし、食べ始める。
「……んっ! 美味しいー!!」
明日美の料理をおそらく初めて食べた委員長は目を見開き、とても美味しそうに興奮している。
「だろ? 明日美の料理は最高だからな」
なんて大袈裟に明日美の料理を褒めてみる。正直、さっきあんなに怒られたから明日美にご機嫌取りしてるのは否めない。
「ふふ、おだててもなにもでないよ」
明日美は照れた様子で、軽く笑ってそう言った。その後、俺たちは学校の話をしながら、賑やかな食事をしていた。
「――ふぅー……食った、食ったーごちそうさまでした」
それから夕食も終わり、俺はそんなおじさんみたいなことをいいつつ、食後の余韻に浸っていた。
「ごちそうさまでした、美味しかったです」
委員長はとても満足そうな顔をして、そう感想を述べる。そんな顔をされると、弟の俺もなんかすごい嬉しい気分になる。
「はい、お粗末さまでした」
「ずいんぶんと長居しちゃったわね。じゃ、私はそろそろ……」
しばらくクリパの話で盛り上がった後、委員長が時計を見て、そう言い、帰る準備をし始める。
「じゃあ、送ってくよ」
それに合わせて俺もコートを羽織り、委員長と共に外へ出る。
「うぅー……寒っ!!」
もう辺りはすっかり暗くなっていて、街灯の明かりや、家の明かりがなければ人の顔も分からないぐらいだった。冬の夜、風はそれほど吹いていないが、空気は肌寒く感じられた。俺は腕をさすりながら、委員長と共に並木道の方へと歩いていた。
「だったら、送ってくれなくてもいいわよ」
その俺の言葉に、プスッとした顔でそんなツンケンしたことを言う。
「いや、夜道に女子一人じゃ危ないだろ」
実際の所、この島で事件や事故なんてものはまあ滅多にない。交番すら、道案内のための場所でしかないほど平和だから。でも、それで平和ボケになって委員長に何かあってからでは遅い。だから、たとえ委員長が嫌がっていても、ちゃんと見送らなくては。
それからしばらくの間、俺と委員長は言葉も交わさずに、委員長の家を目指していた。もっとも俺と委員長の関係は言ってしまえば、ただのクラスメイト。所詮はその程度の関係、話すこともそうないだろう。それに委員長は俺のこと嫌い……まではいかないんだろうけど、あまり良く思ってないみたいだし。
「そういやさ、何であの時、明日美に『携帯忘れた』って嘘ついたんだ?」
黙ったままというのもアレなので、俺はさっきの嘘をついた理由を訊いてみることにした。超がつくほどの真面目ちゃんな委員長が嘘をつく。この事実は俺にとっては結構意外なものだった。ああいった場面でも、バカ正直に話すようなイメージを勝手に持っていたから。
「えっ……嘘じゃないわよ、ホントに忘れたし」
それに対してつく必要もないのに、わかりやすい嘘をつく委員長。
「嘘つけ。フェリーに乗ってる時に、たしか携帯持ってただろ」
「あっ……や、だって、携帯もってるっていったら、秋山先輩に怒られると思って……」
痛いところをつかれ、正直に事の真相を話す委員長。でもよくよく考えてみれば、俺も俺で携帯自体は持っていたのだから、修二に事情を話して適当な嘘をついてみんなを騙してもらえばよかったな。ファンの子たちからの電話が大量に来るのが嫌で電源切ってて、それに気がつかなかった。それに委員長から逃げることばかり頭で考えていたのもあるかもしれない。
「まぁ、それもそうか……」
あの姉の怒りは俺が痛いほどに知っている。もちろん滅多に『怒り』までいくことはないが、だからこそ怒った時が怖い。今日のアレなんかは俺が選択を誤らなかったからか、はたまた理由が理由なだけにか、いずれにせよまだ可愛い程度だ。俺はそれよりも上を知っているから。
「そっ、そうだ! 秋山くん、新しい電話番号教えてよ!」
明日美の恐怖に1人で恐れおののいている
「なんで?」
さっきも言ったとおり、俺と委員長はクラスメイトでしかない。別に嫌なわけではないが、その意図がよくわからない。それにまあないとは思うが、そこから変な方向へ俺の電話番号が拡散してしまうのは避けたい。だからなるべく教える数は最小限に留めておいた方がいいのだ。
「クリパのことで話すときとかに必要でしょ?」
「まあ、一理あるけど……メッセとかでよくない?」
「あっ……いや、直接話したほうが感情が伝わるでしょ」
委員長はそこは盲点だったと言いいたそうな顔をして、そんな言い訳がましいことでそれを誤魔化していく。
「そうかなぁ……?」
「そうなの! 早く教えてよ!」
委員長はもう強引にそう言い、俺の方へと携帯を出して寄ってくる。先程の懸念もあるが、相手が委員長だし大丈夫だろう。彼女の日頃の行いから、俺は彼女を信じて新しい番号を教えることにした。たださっき委員長が言っていた『クリパのこと』で電話がかかってくることがあると思うと、今から憂鬱な気持ちになる。どうせ『仕事やれ』だの『休日に学園にこい』だの面倒な用件しか来なさそうだし。
「言っとくけど、他の人に教えんなよ?」
「分かってるわよ。じゃあ、もうここでいいわ」
「ここでいいの? なんなら家まで送るけど」
「悪いから、じゃあね!」
「おう、んじゃ」
俺も委員長のそれに合わせて軽く手を挙げ、別れの挨拶をする。委員長はそれから走って自分の家へと行ってしまった。俺はそれが見えなくなるまで見送り、暖かい我が家へ帰ることにした。その道中、俺は友達各所に新しい電話番号を教えた。当然それに『誰かに教える時は俺に確認をとるように』と付け加えておく。これで修二以外は大丈夫だろう。ただ2人分の乗船料と電話番号を変えたことで、財布の中がすっかり寂しくなってしまった。クリパ前だというのに思わぬ痛い出費だ。しかも明日は明日美とのデートも控えている。当然明日美がデート中全部の代金を奢ってくれるなんてことは夢のまた夢の話だろうから、財布が空にならないことただただ祈るばかりだ。
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