12話「ご褒美デート」
12月19日(日)
今日に備えて昨日は早めに寝たおかげか、もしくは早めにセットしておいた目覚まし時計のおかげか、想定していた定時通りに目が覚めることができた。今日はいつかの日みたいに、冬らしからぬ快晴の日だった。まさにデートするにはうってつけの日和だろう。俺は窓を開け、外の空気を入れる。日差しを浴びて意識を完全に覚ますためでもあったのだが――
「うぅ……さむッ!」
気温は残念ながら冬の気温だったようだ。外気が入ってきて室内の温度が一気に下がってしまった。俺はすぐさま窓を閉める。一応意識は完全に目覚めたが、体が冷えてしまった。なので俺はもうさっさと私服に着替え、出かける準備をすることにした。とりあえず一階へと降りていく。するとリビングには誰もいなかったが、食事が置いてあった。たぶん先に
「――あれ、明日美がいない……?」
待ち合わせ時間まであと5分を残して、俺は待ち合わせ場所である家の近くの公園の広場にある噴水に着いた。ここが待ち合わせの場所で間違いないはずなのだが、明日美の姿は見当たらない。明日美の性格上、5分前には来ていてもおかしくはないのに……何かあったのだろうか。いやそれは考えすぎか。もし仮になにかあったんだとしたら、何かしらの手段で俺に連絡が入るだろうし。それにまだ『あと5分』あるんだ。ここでどうこう言っていてもしょうがないし、今はとにかく明日美が来るのを待とう。遅刻したんならしたで、なんか奢ってもらえばいいし。そんな楽観的に考えながら、俺は明日美が来るのを待っていた。
「――んー……?」
それから時は流れ、いよいよ約束の時間となった……のはいいのだが、そのデート相手がやってこない。何度も言うが、明日美はそんな時間にルーズな人じゃない。だとするならば、本当に何かあったのではないかと心配になってくる。厄介なことに巻き込まれて、連絡できない状態にあるとか。様々な不安が俺の頭をよぎり始める。なのでそれを
「だぁーれだっ?」
なにが起きたのか困惑している俺をよそに、後ろから、おそらくこの手を覆った犯人の声が聞こえてきた。その活発そうな元気な声には聞き覚えがあった。その主は間違いなく
「凛先輩」
ぶっきらぼうに端的に最小限で答えを述べる。
「お、さっすがー」
正解した俺に感心しながら、後ろから回って来て、私服姿の凛先輩が現れた。凛先輩らしい動きやすいデニムのショーパン。そしてデニムのジャッケット。カッコいい系でバッチリと決まっていた。ただ男としては冬にショーパンは寒くないのだろうかと思う。下にタイツ等履いているわけでもないのに。そしていつものポニテもプライベートでは
「なにしてんすか」
ただ今は先輩にかまっている暇などない。明日美に意識を戻さなければ。こんな先輩とのやり取り中にもそれらしき姿はまるで見えない。いよいよホントに何かあったんじゃと心配になってくる。
「いや、煉くんがなんか考え事してたから。ちょっと遊んでやろうと」
「でも、俺これから用事があるんで……」
俺はそう言いつつも、時計を気にしていた。もう既に約束の時間はとっくに過ぎている。なのに未だに明日美は現れない。
「あ、そのことでちょっと煉くんに伝えたいことが……」
「えっ、なんすか?」
信じたくはないが、まさか明日美に何かあったのか。それを彼女が伝えに来たと……いやでも待て、それだとしたらこんな陽気なやりとりなんてしてる場合じゃない。すぐさま俺にそのことを話してくれるはずだ。てことは……うげぇー……まさか――
「明日美がちょっと用事があって来れないから、私とデートしよっ!!」
「凛先輩、多分それ違うっしょ」
「えっ! なんで?」
「大方、明日美がそのこと凛先輩に言って、凛先輩が『私もデートしたい』とかなんとか言って明日美に頼んだんでしょ?」
明日美はだいぶこのデートが嬉しそうだったから、たぶん生徒会にいる時に自慢がてらつい言ってしまったとしてもおかしくはない。それで凛先輩が迫ってきて、泣く泣く代わることになったってのが事の真相だろう。
「えへへ、ご名答」
照れたように笑いながら、そう言う。なんかあれだけ心配していた俺がバカみたいだ。ちょっと恥ずかしい。でも明日美が無事という事実は少し嬉しかったりする。俺の、言ってしまえば大切な家族なのだから。
「俺、やっぱり用事あるんで、これで」
どうするか一瞬で考えた結果、すぐさま答えが出た。そう、適当に嘘でもついてこの場から立ち去ること。凛先輩なんかとデートしたら、ろくなことにならない。それに疲れること間違い無し。それに明日美とのデート以上に俺にメリットが全くない。
「あぁーまってよぉー! 私とデートしようよぉぉー!」
そんな俺を凛先輩は手を掴んで制止し、そのまま俺の手を大きく揺さぶる。なんか明日美もこんなことしてた気が……流行ってるんだろうか。
「……分かりましたよ……いきますよ」
凛先輩に念押しされ、仕方なくそれを受け入れることにした。周りの視線もあるし、ここは受け入れておいた方が後々うるさくなさそうだ。だがそれにしてもまさか明日美とのデートがこんなにも恋しくなるとは思わなんだ。
「やったー!!」
それに凛先輩は子供みたいにはしゃいでジャンプして喜んでいた。これから俺は身体的にも、精神的にも疲れるだろうと覚悟を決めながら、とりあえず近くの商店街へ行くこととなった。
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