8話「姉弟の下校風景」
生徒玄関、俺の方が近かったからだろうか、先に着いてしまった。明日美の姿はまだない。生徒会室は6階だし、明日美はエレベーターを使いそうにないし。それで他の生徒に見つかりでもしたら、面目丸つぶれだろうから。なので俺は明日美が来るのを気長に待つことにした。
「お、来た来たこっちこっち!」
それからそう長くはない時間で、明日美が遠くからやってくるのがわかった。今度は俺がさっきみたいに手招きしながら、明日美を呼ぶ。
「ごめん! 待った?」
「ううん、大丈夫。行こっか」
その合図とともに俺たちは肩を並べ、共に学園を後にする。
「――今日はありがとね」
それから雑談しながらしばらく歩いたとこで、明日美は軽くお辞儀をして、そう感謝をする。
「いや、いいよ別に。俺が望んでやったことだし」
「でも、凄いよね! 全部勝っちゃうなんて!」
生徒会に予算が入って嬉しいのか、はたまた違う理由なのか定かではないがやたらテンションが高い明日美だった。
「そうでもないよ、それにここの運動部弱いし」
実際問題、ここは進学校。スポーツより勉強がメインが学園だ。強いと言ってもバスケぐらい。それも修二のおかげが
「でも何よりカッコよかったのは、ポーカーのときかな?」
「なんで?」
「いやだって、ロイヤルストレートフラッシュだよ!? 65万分の1の確率だよ!?」
明日美は興奮しているのか、目をキラキラさせながらそう言った。確かに滅多に見られるもんじゃないからね、ロイヤルストレートフラッシュなんてさ。
「まあ、そりゃ凄いけどさ……それもたまたまだと思うよ」
なんて嘘をつく。たぶん、もう一回ポーカーをやってもかなりいい役が揃うと思う。しっかし、あの時の長の顔は最高だったなー今思い出しても笑けてくる。まさに絶望そのものの顔だったからな。
「それでもだよー! あの時の煉のすました顔、カッコよかったなぁー」
さっきのことを思い出して弟のことだというのに、
「おいおい、照れること言うなって……」
いくら俺の姉でも、元を辿れば普通の女の子。そんなこと言われたら、普通に照れてしまう。
「あっ、そうだ! ご褒美しなくちゃね!! 何がいい?」
「何でもいいよ、明日美の好きにして」
元々その判断は明日美に
「そう? じゃあ、何がいいかなぁー……あっ、そうだ! 日曜日にデートしよっか!」
だけれど明日美のくれるご褒美には、どうやら間違いはあったようだ。言っとくけどそれ、俺へのご褒美ではなく、明日美自身へのご褒美になっているから。どうせデートっつても自分のショッピングと自分の行きたいカフェに行くんだろうし。
「えぇー……? いいよ恥ずかしいし、それに俺たち恋人じゃないし」
「えーいいじゃーん、デートしようよぉー! ……ダメ?」
明日美は俺の腕を揺らしながら駄々っ子のようにせがんだ後、今度は
「わかったよ、デートするよ」
なので男らしく、その誘いを受けることにした。そもそもこれは俺へのご褒美なわけだし、明日美も明日美で自分ばかりではなく、ちゃんと俺にも得のあるようにプランニングしてくれるだろう。ただ、恋人でもない
「やったー!」
明日美はまるでおもちゃを買ってもらった子供のように喜んでいた。ホント、俺といる時だけはとことん子供っぽいところを見せる明日美だ。こんな姿した人がウチの生徒会長さんなんだから。これを知ったら、さぞウチの生徒たちは驚くことだろう。
「じゃあ日曜日、広場の噴水で待ち合わせしようよ!」
「なんで待ち合わせなんてすんの? 別に家から二人で行けばいいじゃん」
「はぁー……なんも分かってないなぁーこういうのは気分が大事なんだよ!」
俺に呆れるようにため息をつき、そんなことをボヤく明日美。
「そんなもんかなぁー」
「そんなもんです!」
「わかったよ、じゃあ何時に待ち合わせる?」
「んー……朝の8時ってどう?」
「えっ、早すぎじゃない?」
相変わらず俺は朝に弱いから、ちょっとそれはちょっとキツい。それに休日の日曜日の朝だから、俺の体内時計がちゃんと起きてくれるか不安だ。目覚まし時計を使っても、ちょっと怪しいかも。
「えー、早くないよーそれにそっちのほうがいっぱいデートできるじゃん!」
「でもさすがに8時は……せめてもうちょっとぐらい遅くても……」
「いいの! もう決まりね!」
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