7話「地獄の勝ち抜き戦―運動部→文化部編―」

 体育館へと向かうその道中、約束をしていた修二しゅうじが現れた。その後ろには、集められた精鋭せいえいが何人かいた。そいつらはいかにもスポーツできそうな、ガタイのいいヤツ、タッパがあるヤツ、腕のリーチが長そうなヤツなど様々な面々がいた。これだけでもう勝てそうな気がしてくるから、不思議だ。


「よっ! どうよ調子は?」


 修二はそんな軽い呑気なノリで訊いてきた。いいよなぁ、こいつは気楽で。ちょっと羨ましい。


「今んとこ全勝」


 俺はわざとらしくVサインを作り、勝ち誇った顔で全勝の喜びをアピールする。


「ほえー凄いな、お前」


「そんなことより、早くいこうぜ体育館。早く帰りたいしさー」


 それから体育館で活動する男女バスケ、男女バレーなどを修二の力を借りながら勝ち、それから男女卓球、男女バトミントン、剣道、柔道、弓道に勝っていった。これで全ての運動部に勝ったことになる。いやー実に長かった。全てに勝つのに2時間もかかってしまった。ここの学園はバスケが異常に強いので危なかったが、流石はスポーツ推薦で入った修二、こいつのおかげでなんとか勝つことが出来た。ホント調子いい奴だけど、やっぱり持つべきものは友だな。


明日美あすみ、次は?」


「次はね、囲碁と将棋部」


 いよいよ文化部のターン。体を動かさない競技だからいいものの、今度は頭を使う競技なわけだ。


「うぇー……その前に1回休憩という名のシャワー及び着替えを」


 それにさらに憂鬱ゆうつな気分になりつつ、汗をかいたのでそろそろいい加減シャワーを浴びたかった。もう既に汗で気持ち悪いことになっているし。


「いいよ、行ってきな。文化部の人たちには言っておくから……ただし! 逃げちゃダメだからね?」


「はいはい、わーってますよ」


 そんなに信用がないのだろうか、姉にまで疑われるとは。ちょっと残念というか、悲しい気持ちになりながら、俺は体育館近くにあるシャワールームへと足を運んだ。そして制服に着替え、文化部の部室がある特別教室棟へと向かった。



 対戦の結果は――俺の勝利で幕を閉じた。これでようやく全ての部活が終了し、俺も無事解放となった。いやーこれでようやく帰れる!


「じゃあ次は……」


 と思った矢先、明日美は次の部活の話を始めだす。


「ちょっとまって、もうこれ以上部活なんてないでしょ?」


 もはや勝負事ができる部活なんてないはずだ。まさか、最後の最後に生徒会と勝負とかあるまいに。


「まあ、正確には部活じゃないんだけど、まだあるよ」


 そうか、同好会とかか。同好会なら顧問を必要としないから、得体の知れないのがうじゃうじゃいるわな。


「うげぇー……じゃあ次は何?」


 まだ長くなりそうだ、と思いながらも次の対戦相手を訊くことに。


「トランプゲーム同好会」


「なにそれ?」


 それは俺が全くもって聞いたこともない同好会だった。あらかた名前で何をする同好会なのかは、予想はつくけれど。


「トランプゲームをする部活らしいよ」


 それは同好会にするほどのものなのだろうか。詳しく内容を知らないからなんとも言えないけど、ただトランプで遊びたいだけじゃないかな。家でやれよ、と思うのは俺だけだろうか。


「じゃあ、ちゃっちゃと行って終わらせよっか」


「うん、ちなみに朗報だけど、これでラストだから。頑張ってね」


 どうやらこれで終わりらしい。俄然ふぁぜんやる気が出てきた。なので俺は早足で、トランプ同好会が待つ教室へと向かった。


「――おっ、来たな、じゃあ早速やろうか」


 教室に入ると、そこにはおさと思われる人が1人座っており、その他会員たちは彼を囲むようにして立っていた。おさらしき人がそういい、俺をおさの対面の席へとうながす。それに誘導されるがまま、俺はその席に座る。


「ちょっとまった、なにをやるんですか」


 流石にトランプゲームと言っても、色々と数はあるので、何をするのかをまず訊いた。


「ん? ポーカーだよ、聞いていないのか?」


 会員さんたちも含め、おさも事前に伝えてあって当然かのように、当たり前な顔をしている。俺はそれに対し、事情を訊くためとりあえず責任者の明日美の方へと向く。


「ごめん、忘れてた!」


 すると明日美は手を合わせ、申し訳なさそうに謝ってきた。


「まあいい、早速やろうではないか」


 それから明日美がトランプの山をきり、両者に5枚のカードが配った。たぶん明日美が配る係をやっているのは、お互いに不正がないように配慮した結果なのだろう。もっとも俺と明日美は近親者だから、グルで小細工できる可能性も否めないと思うけれど、やはり生徒会長とか、人望が厚いとかの理由で信頼されているから、その役を務めているのだろうか。


「おっ、おおお! 今日はついてるな、カードは交換しないよ」


 配られたカードをいよいよ確認していくと、彼は驚いたような顔をして、その役がよっぽどいいものだったのか自信満々な顔を見せてそう言った。ただ思うに、こういうのってそう簡単に自分の手の内をバラしていいものなのだろうか。もちろんこういうトランプゲームには『駆け引き』ってものも重要だからアリなのかもしれないが。


「俺もしなくていいです」


 そんなことを考えつつ、俺もカードを交換することはなかった。なので、すぐさまお互いの手札を公開しあうこととなった。まず相手の方からドヤ顔をしながら自分の手札を見せてくる。スートは全てスペード、数字は小さい順に6、7、8、9、10のストレートフラッシュであった。その配役が明かされた瞬間、周りは『よっしゃっ!』とか『勝った!』とかもはや勝利したような感じで喜んでいた。俺はその歓声に出しづらさを感じつつも、俺の手札を公開していく。そしてその役は――


「なっ、ななな、何!? まさか、嘘だろ……おい!?」


 おさだけでなく、この場に居合わせた全員が彼と同じ顔をして俺の手札を凝視ぎょうししていた。ぶっちゃけ俺もあの時はポーカーフェイスで何事もないかのように装っていたけれど、実際内心はめちゃくちゃ驚いていた。俺の手札はスペードの10、J、Q、K、Aのロイヤルストレートフラッシュであったのだ。


れん……すごい……」


 明日美もその役に感嘆していた。俺はこの手札に驚く反面、やはりなと思う所があった。というのも、俺はわかりやすく言えば『幸運体質』なのだ。じゃんけんは記憶する限り、一度も負けたことがない。だから今日の対決でも、先攻後攻等を決めるじゃんけんでは全勝だった。賭け事、と言えるほど大したものでもないが、そういったたぐいいのものでも負けたことがない。だから今日のポーカーもこんな結果が生まれたんじゃないか、って納得する部分があった。


「ロイヤルストレートフラッシュだと……65万分の1だぞ……しかも、手札を交換せずに……信じられん……」


 まずその確率に巡り合う人間はいないだろう。しかも彼の言ったとおり、最初の5枚で揃っているんだから。この同好会には悪いが、相手が悪かったってことだ。


「俺の勝ちですね」


 俺はあくまでもすました顔でおさにそう告げ、静かに立ち上がった。


「じゃあ対決は煉の勝ちということなので、予算の寄付はなしということで」


 そんな耳にタコができるほど聞いたセリフによって、この長ったらしかった対決はようやく終わりを迎えた。


「――よっし!! これで全部終わったー!!」


 俺は開放感に浸りながら、大きく伸びをしていた。気づくともう時刻は18時近くになっていた。もうすぐ完全下校時間になる時間だ。結局、そんなにも時間がかかってしまったというわけだ。数も多かったし仕方がないといえば仕方がない。ただ言えることは、もうこんなことは二度とやりたくない。というかそもそも、こんなことは運動できるりん先輩に任せておけばよかったのだ。文化部方面だってそれこそ学年主席の明日美がいるんだから、生徒会の面々だけでも十分に勝てただろう。


「煉、今日もうこれで仕事終わったから、二人で帰ろっ!!」


 明日美は特別教室棟から本校棟に戻る時に、こんなこと言ってきた。


「いいよー」


 もうこんな時間に残っている生徒なんていないだろう。修二だってもう帰ったろうし、諫山いさやま姉妹も同じだろう。1人で帰るのは退屈だし、たまには姉との時間を大切にするのもいいだろう。そんなわけで、今日は明日美とともに帰ることとなった。だがしかし、明日美はカバンを生徒会室に、俺も教室に置き忘れてきているので、一旦解散し、再び生徒玄関で落ち合うこととなった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る