6話「地獄の勝ち抜き戦―運動部編―」

 残酷にも時は一つ、また一つと進んでいき、いよいよ最悪の時間を迎えようとしていた。俺は嫌々ながらも体操着に着替え、明日美あすみが待つグラウンドへと向かった。まずは外で活動する部活と対決を始めるようだ。


「――あー来た来た! じゃあ、始めよっか」


 明日美は俺を見つけるやいなや、手招きしてこっちへ呼ぶ。俺はそれに軽く合図をしながら、明日美たちの場所へと向かう。


「えっ!? 俺たち、こいつと対決すんの?」


 俺の姿を見た野球部の部長らしき男は、意外そうな顔をしてそんなことを言っていた。


「そうだよ?」


「ハハハハ、これは勝ったな。やったぞ!!」


 部長と野球部員共々、俺を見ながら勝利を確信したような表情で笑っていた。俺はそれにちょっとムカッと来たので、こう提案をしてみた。


「じゃあそんなに自信あるなら、1点でも取った方の勝ちにしましょうよ」


 こうすればさっさと次の対決に移れ、結果的に全て終わる時間も早める事ができる。特に野球は9回まであるし、攻守の交代などとにかく時間がかかる。そんなに長い時間を野球部に使えるかっての。俺はいち早く終わらせて、とっとと帰りたいんだから。


「いいけど、逆にお前はいいのか? お前は自分で負けにいくようなもんだぞ!!」


 部長は小馬鹿にしたような感じで俺をあざわらっていた。正直な話、このやり取りで俺はこんな部には予算を入れたくはないと思った。こんな人を小馬鹿にするような奴らはそもそもスポーツマンシップの精神があるかも怪しい。それにここの野球部は県大会すら行けない雑魚だ。だから俺はこの部長にギャフンと言わせて、見返してやることにした。やっぱり売られたケンカはしっかりと買わないとね。


「ええ、構いません」


「ナメられたもんだな。じゃあ先攻後攻決めようぜ!」


 てなわけで、俺と部長さんはじゃんけんをすることになった。勝敗はやはりというか当たり前のように俺が勝ち、先攻を選ぶ。それから部員たちは自分たちの持ち場へつき、いよいよプレイボールとなった。


「――ふっ、よいしょっと!」


 初級はストレート。しっかしその球がまた遅いこと遅いこと。100キロちょっとぐらいしか出てないんじゃないか、と思えるほど遅かった。しかもその球は超ド真ん中。そんな球を放られたら、簡単に打ててしまうのは至極当然。ヒョイッと打った球は遠く遠くへと飛んでいき、まさかのホームランとなった。というわけで、野球部の対決はあっけなく終わった。あれだけ豪語ごうごしてたい人たちがこの程度とは、情けない。


「なっ、なに!? ホッ、ホームランだと……」


 部長は絶望した顔をして、そう言った。またその部長の顔が哀れなことこの上ない。正直、失礼だから抑えているが、俺の内心はその顔が面白くて仕方がなかった。その他の自信あり気な部員共も驚いたり、膝から落ちて悔しがってたり、ポカーンと呆然としていたりと三者三様だった。


「じゃあ対決は煉の勝ちということなので、予算の寄付はなしということで」


 明日美は事務的にそう告げ、俺とともに野球部の元を去る。


「明日美、次は誰と?」


 その道中、俺は次の相手を訊くことに。大方グラウンドを使っている部活なんだろうけど。


「サッカー部だよ」


「りょーかい」


 俺はそれからサッカー、男女テニス硬式と軟式、陸上と続々と勝っていった。みんな負けたときの顔は実に悔しそうだった。そりゃそうだ、帰宅部の俺に負けてんだから、プライドはさぞ傷つけられたことだろう。だがそれ以上に滑稽こっけいだと思ったのは、勝負する前は野球部の人間たちみたく少々俺をナメた感じであったそれぞれの部員たちが、勝負を後は手のひらを返したように俺を部活へと勧誘してきたことだ。明日美もその姿には流石に呆れている様子であった。もちろん俺は部活には興味がないので全て丁重にお断りさせていただいた。それにしてもこれだけ運動をすると、流石に疲れる。帰ったら即ベッドに入って眠れるぐらいには疲れている。もうホント早く帰りたい。そんな思いが俺の心を支配していた。


「明日美、そういや今ふと思ったんだけど、つくし先輩やりん先輩は?」


 グラウンドの水飲み場で軽い休憩をしている時、ふとそんなことを思い出し、明日美に訊いてみることにした。いつもなら3人でセットみたいなところがあるぐらい一緒なのに。そういや、昼の時もいなかったっけか。


「生徒会の仕事してるよーあれ、もしかして会いたい? 会わせてあげようっか?」


 明日美はイタズラ悪魔のような顔をして、そんなことを言って俺をからかう。わかってて言ってんだから、性格悪いよなぁ。


「結構です! それより、明日美は仕事しなくていいの?」


 生徒会の長がこんなところにいていいのだろうか。ただでさえ、クリパの準備もあるというのに。


「これが今日の私の仕事だから」


「あぁーそういうこと」


 随分と楽な仕事だなぁーなんて思いながら、疲れた体を癒やすべく再び水を飲む。


「そういうこと。あっ、そうだ! 今のうち言っておくけど、次は男女バスケだから」


「了解」


 ということは今度は体育館へと場所を移すわけだ。これでようやく3分の1といったところか。あー、かったるい。そんなことを思いながら、バスケ部のいる体育館へと向かった。

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