第36話

「おっはようございまーす。今日からバイトに入りました沢井泰葉でーす」


 ドアがバタンと閉まり、愛実と俊は店の外で放心する。


「……そういえば、将生さんが急にバイト辞めたとかで、新人アルバイトの募集だしてたかも」


 俊は、少し前に亮子から、梨香がアルバイトする気ないか聞かれたのを思い出した。

 そのときは、梨香は身体が弱いからバイトは無理だと言ったのだが、将生がバイト辞めるから、すぐに代わりが欲しいと言っていたのだ。


「エエッ! 」

「おはよう。何を大声出してるのよ」


 愛実の背後からやってきた静香が、愛実の両肩に手を置いた。


「静香さん! 」

「新しいバイトのこと、聞いてますか? 」

「うん? なんか、女子高生らしいね。めぐちゃんときみたいに、教育係お願いって言われたけど」

「それが、新しいバイトって、私達の写真撮って貼り出した奴なんです」

「なになに? 」


 静香は店に入らず、愛実と俊を端っこに引っ張ってくる。

 たぶん若林から話しは聞いていると思ったが、静香に詳しく話した。


「へえ、そんなことがあったんだ。で、そいつがバイト先にも来て、俊君に手をだそうとしてるのね」


 静香は、面白がっているような表情で手を叩く。


「若林先生から聞いてなかったんですか? 」

「茂君、学校のことはあんまり話さないからな。それで、その子はもう中にいるのね? ちょっと待ってて、亮子さん呼んでくるから。亮子さんも写真のこと知ってるし」


 静香は一人で店に入ると、しばらくして亮子のみが出てきた。


「二人とも、何か話しがあるって? 」


 愛実は、静香に話したことを亮子にも話す。

 亮子は腕組みして聞いていたが、聞き終わると大きくため息をついた。


「なるほどね、トラブルメーカーが入ってきたってわけか。やっぱり、見た目で選ぶバイト採用方式を見直さないとだわね。ただ、一度雇ってしまったし、問題がない限り雇用解除はできないの。なるべくあなた達と重ならないようにシフト組むけど、金曜日は厳しいかも」

「わかりました」

「私もなるべくフォローに入るから、あの子には関わらないようにしてちょうだい」

「……はあ」


 関わりたくなんかないんだけど、向こうが突進してくる場合は、どうしたらいいんだろう?


「はい、じゃあ、着替えて仕事入って」


 愛実達が店に入るとき、泰葉と静香さんが、更衣室から店へ向かう廊下で、ギャーギャーやりながら歩いて行った。


「だから、シャツはボタンを上までしめる。着崩さない! 」

「えーっ、このほうが可愛いしぃ」

「語尾は伸ばさない! 」

「あたしぃ、普通に喋ってるしぃ」

「飲食だから、髪はまとめる! 」

「えーっ、あとついちゃうぅ」

「香水も禁止! 臭い! 」

「えーっ、臭くないですぅ。静香さん、鼻悪いんですかぁ? 」


 そのままホールへ続くドアを開けて行き、やりとりは聞こえなくなった。


「なんて言うか、あなた達のことがなくてもダメダメだわね。ちょっと今日は私もホールにでるわ。俊君、あなたは最初から販売に入ってちょうだい。愛実ちゃんはホールね」


 亮子さんは、更衣室からエプロンを出してつけると、ホールへ向かって行く。


「先に着替えるね」


 愛実は先に着替えると、俊の腕をポンと叩いて、ホールに向かう。俊は、心配そうに愛実の後ろ姿を見送り、慌てたように更衣室に入った。

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