第22話

 愛実は部屋に戻ると、自分の水着に着替えてまたプールに向かう。

 プールに続くドアを開け、別荘から庭へ出ると、俊と譲がプールサイドに立っていた。

 声をかけようとして、なにか真剣に話しているようで愛実は立ち止まってしまう。

 そんな愛実に気が付いた俊が、愛実に向かって手を振った。譲も振り返り、ニコニコ手を振ってくる。何か剣呑な雰囲気に思えたが、いつもの二人だった。


「何話してたの? 」


 愛実が聞くと、俊は戸惑ったように口ごもり、譲は愛実に笑顔を向けた。


「別に……」

「俊君に、宣戦布告してたんだよ」


 宣戦布告って?


 愛実が俊を見ると、俊は愛実の横にきて愛実の手を握った。


「最初はさ、興味心だったんだ。俊君の彼女って聞いて、俊君が選ぶほどだから、よっぽどいい子なんだろうなって。気になって目で追うようになってさ。気がついたら、特別な女の子になってたんだ」


 真っ直ぐ愛実の方を見て言う譲に、愛実は戸惑ってしまう。なんか、今までの優しげでフワフワッとした譲の笑顔とも違い、意思の強そうな笑顔だったから。


「えっと……」


 これは告白だろうか?


 一応、俊の彼女ということになっているわけで、しかも俊は横にいて……。

 どう受け取ればいいのかわからず、俊を見上げる。


「今すぐ僕のことを考えて……とは言わないよ。俊君には負けちゃうもんね。これからアピールさせてもらうから、そういう意味での宣戦布告。じゃ、僕はBBQに行ってくるね」


 譲は、これからよろしくね! と愛実の手を取り握手をすると、にこやかにみんながBBQをやっている方へ歩いて行った。


「譲君って……、あんな感じだったっけ? 」


 可愛らしくて、穏やかで控えめ、そんなイメージだったけど……。


 去り際の笑顔は小悪魔的だったし、自分のことよく知れば自分になびくみたいな強気な一面も見れた。


「あんな感じ……だな。店のあいつは演技だから。けっこう気が強いし、負けず嫌いな性格だと思う。それに女好……、いやなんでもない。愛実は、譲君のこと気になる? 」


 俊は覗き込むように、愛実に顔を近づけた。そんな俊の真剣な視線に、愛実は思わず顔が赤くなる。俊は、そんな愛実を見て、かなり動揺したように、愛実の肩をつかんだ。


「そうなの?! 」

「違う、違う! 俊君があんまり近いからよ! 」


 明らかにホッとしたように、俊は愛実の肩から手を離すと、愛実の手を引っ張った。


「あっちにジャグジーついてたんだ。一緒に入ろうぜ」


 泳ぐ気もそがれ、俊に引っ張っられるままジャグジーに向かう。


「でも俊君、水着……なのか」

 俊は、水着の上にTシャツを着ていた。Tシャツを脱ぐと、愛実のラッシュガードに手をかける。


「そう。これ脱いで……、あれ?水着が違う」


 愛実は、自分でラッシュガードを脱いだ。


「さっきのは静香さんの。これが私の水着よ」


 ジャグジーに入ると、お湯は温かく、泡のマッサージが気持ち良かった。


「さっきのも凄く良かったけど、それはそれでシンプルで色っぽいかな」

「バカ! 」


 愛実は、手でお湯をすくって俊に投げつける。


「あ、けっこう温かいね」


 俊が愛実の横に入ってくる。


「近い、近い! 」


 俊は、お湯の中で愛実の腰に手を回す。

「ちょっ……と! 」

「ダメ。離してあげない」


 耳元で囁く俊の声に、心拍数が羽上がる。


「俺だけにドキドキしてよ」


 俊の息が耳元にかかるくらいの密着ぶりに、愛実はドキドキを通り越して、プチパニックに陥りそうになる。

 さらに俊の腕に力が入り、愛実の身体を引き寄せ、俊の片膝の上に座らせる。

 愛実の心臓の鼓動は大爆発だ。絶対に俊にも聞こえているはず。


「ねえ、俺のこと好……」


 俊が何か言いかけたとき、ゲラゲラ笑い声と数人の歩く音が聞こえてきた。


「なーにイチャついてんだよ。俺も入る! 」

「矢島さん?! 」


 矢島の声が頭上から聞こえ、いきなり水しぶきがあがる。

 矢島が服のままジャグジーに飛び込んだのだ。


「矢島君、あなた酔ってるでしょ? ダメじゃない。俊君、矢島君出して」


 亮子がやって来て、矢島を引っ張りあげようとする。


「亮子さんも入ろうぜ」


 逆に亮子が引っ張り落とされた。


「ちょっ……、洋服! 」

「亮子さん、大丈夫ですか? 」


 助けようとした楓も引きずりこまれる。

 矢島は大笑いだ。


「譲が、こっちで俊と愛実ちゃんがイチャこいてるって言うから見に来たぜい! 」


 俊は、愛実の腰に両手を回し、ムッとした表情を浮かべる。


「邪魔です! 」

「ダメ、ダメ! 高校生は清く正しく」

「あー、めぐちゃん! またそんな水着着て! 」


 ジャグジーの脇でしゃがんで見ていた静香が、目ざとく愛実の水着を指摘する。


「水着? おお、スクール水着!これもこれで萌えだね」

「矢島さん、人の彼女をイヤらしい目で見ないでください」

「だから、スクール水着じゃありませんって! 」


 いっきに周りが騒がしくなり、愛実は平静を取り戻した。

 まだ顔は赤いだろうが、ジャグジーの熱さのせいにできる。

「クソッ! 譲の奴……」


 俊が、聞こえるか聞こえないかくらいの声でつぶやいた。


「もう! プールもジャグジーも終了!! BBQが焦げちゃうから、みんな向こうへ行ってね! 」


 亮子がジャグジーから這い上がり、着替えをしに別荘の方へ向かいながら行った。


「私も着替えてくる」

「矢島さん、行きますよ」


 みな、ぞろぞろとジャグジーからあがる。

 俊だけが、ちょっと不機嫌気味にジャグジーに残っていたが、みんながいなくなると、ため息をつきながらジャグジーを上がった。


「かなりわかりやすくアピールしてるつもりなんだけど……」


 俊の苦悩の詰まったつぶやきだった。


 

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