第17話
亮子:今度の定休日、毎年恒例のBBQをします。一泊二日で、オーナーの別荘をお借りする予定です。出欠をとりますので、参加不参加連絡下さい。ちなみに、社員からは私と店長の及川、パティシエからは長野が参加します。プール付きですので、水着持参で来て下さい。
矢島:参加っす!
静香:もちろん参加でーす。
店のグループラインに、矢島と静香は即既読の即返信だった。
それと別に愛実にラインが入る。
俊:バイトのライン見た?
愛実:見たよ。
俊:行こうよ!楽しそうじゃん。ミカドのオーナーって、事業家で有名な林田光治だよな。たぶん、凄い豪華な別荘だと思うし。
愛実は少し考える。
この夏休みはバイト三昧で、旅行はもちろん、プールにさえ行っていなかった。
それに、一般庶民の愛実にとって、普通の別荘も縁遠いものだけれど、プール付きとなると、一生のうちでまず足を踏み入れることはないだろう。
そう思うと、後学のためにも行ってみたいという思いと、俊の彼女役を旅行中しなければならない面倒くささ、また矢島や静香の無神経な追及もあるし……。
行くと送るべきか、行かないと送るべきか。
愛実:母親に聞いてみる。
愛実は、決定権を母親に任すことにした。
一応、俊は彼氏だと思われているわけで、二人っきりではないにしろ、年頃の女の子の母親ならこの旅行に難色を示すのではないだろうか? しかも、俊だけでなく男性のほうが多いのだから。
すると、またラインが鳴った。
譲:愛実ちゃん、グループライン見た? 俊君と二人で参加するのかな?
愛実:今、悩み中。
譲:どうして?
愛実:矢島さんや静香さんがね……。ほら、根掘り葉掘りしつこいから。
譲:ああ、確かにね。あの人達失礼だもんね。
譲:でもさ、別荘もすっごいゴージャスだけど、BBQの肉も食べたことないようなのでてくるし、行く価値はあると思うよ。これ、去年の写真。
外国なの? というくらいセレブ感の強い別荘や、予想以上の大きさのプールで戯れる矢島達、美味しそうなBBQ、楽しそうな写真が数枚送られてきた。
愛実:母親に聞いてみて、OKでたら行こうかな。
譲:行けるといいね。
写真を見てしまうと、行きたくなってくる。
愛実は自分の部屋から出て、台所にいるであろう母親に声をかけようとした。けれど、電話をしていたので待つことにした。
十分ほど話していただろうか、母親は受話器ごしに丁寧にお辞儀をして電話を切った。
「ママ、あのさ、バイト先のね……」
「ああ、行ってらっしゃい」
まだ旅行の話しをする前に、ご機嫌な様子の母親が振り返って言った。
「あの……一泊二日」
「だから、行ってくれば」
母親は、妙にご機嫌だ。
「旅行だよ? バイトの人達とだけど、俊君や他にも男の人達もいるんだよ」
「いいんじゃない? 俊君って、かなりなイケメンだと思ってたけど、斉藤勲の甥っ子だったのね。なるほどね、確かに彼の若いときに似てるかもだわ」
今の電話?
「なんでそのこと? 」
「今ね、斉藤美希子さんから電話があったの。バイト、紹介してもらったんですって? なによ、全然話さないんだから、ママ恥かいちゃったじゃない。きちんとしたバイト先だからって、説明してくださったの。ママ、芸能人と話したの初めて! 」
元がジャニーズ好きでミーハーな母親だから、美希子からの電話ですっかり浮かれてしまったらしい。
「あんたも、もう少しお洒落しなさいな。俊君に飽きられちゃうわよ。なんなら、既成事実作ってきたっていいのよ。有名人と親戚!なんてことになったら凄いじゃないの」
「ママ! 」
なんて親だ!
一言言ってやろうと思ったとき、愛実のラインが鳴った。
店のグループラインだ。
俊:参加します。愛実と二人です。
譲:僕も参加でお願いします。
将生:僕は残念ながら不参加で。
楓:僕は参加で。
新川:家族サービスしないとなんで、不参加で。残念です。
続々とラインが入るが、俊が愛実の参加を報告って!
さっきの電話は、俊が美希子に頼んでかけてもらったんだろう。
やることが早いというか、そんなことで美希子を煩わせて! と、愛実はプリプリしながら自分の部屋へ戻った。
さて、問題は……水着だ!
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