第16話

 更衣室の外で俊を待たせ、愛実は急いで制服を脱いだ。

 そこへ静香が入ってきた。


「俊君、ホールで待ってるって。ねえ、実際のとこどうなの? 」


 静香は、制服を脱ぎながら、愛実の背中をツーッと撫でた。


「ヒエッ! やめてくださいよ。どうって……」


 愛実は急いでTシャツを着る。


「不思議なんだもん。私だって、あんなイケメンおとせないのに。矢島君は顔だけ男だし、さフリーターはちょっとね。譲ちゃんは可愛いすぎるて彼氏というよりペットだし、将生まさき君とかえで君は俊君と比べちゃうと、イケメンでもやっぱ格が下がるよね。新川しんかわさんは奥さんいるし、店長はダンディだけど、あのくらいの年だと恋愛より結婚かな。結婚ってなると重いし、やっぱ、俊君が一番かなって思ってたのに。ちょっと年下だけど」


 かなり下だと思いますが?

 なるほど、静香さん的には俊君をターゲットにしていたわけだ。


 店の男性陣を評価する静香を、呆れたように見ながら、愛実はつい聞いてしまう。


「バイトに何しにきてるんですか? 」

「決まってるじゃない。男探しよ。ここはイケメン揃いで有名だから、いい男がゲットできるだろうって思ったんだもん」

「静香さんなら、いくらだって彼氏できるんじゃ? 」

「そりゃ、いくらだって寄ってくるわよ。当たり前じゃない。そこそこのいい男ってのは、もう飽き飽きしたの。やっぱり狙うは極上のイケメンよ! 」


 下着姿で力説されてもね……。


 愛実は ジーンズに着替えようと、制服のズボンを脱いだ。


「ちょっとちょっと、なんなのそれ!? 」

「はい? 」


 静香は、愛実の下着を指差している。しかも、驚愕の表情で。


「なんで上下違うの? しかも、綿パンって……」

「ダメ……ですか? 」


 愛実はジーンズに素早く履き替える。


「ダメに決まってるでしょ! 小学生じゃあるまいし。俊君はそれでOKなわけ? 」

「なんで俊君がでてくるんですか! 」

「まさか……、まだなの? 」


 静香は、着替えるのも忘れ、下着姿のまま愛実に詰め寄る。


「なにがですか? 」

「セックスよ」

「ええっ?! 」


 静香は信じられないと、愛実の反応を見てよろめく。


「セックスなんて、知り合ったその日にするもんでしょ? 」

「しませんよ! 」


 どれだけ色キチガイなんですか!


「バージンで釣ってるわけ?それにしても、もう少し……」

「違いますって! もう、帰りますね! お疲れ様でした」


 愛実は、リュックを背負うと、まだ喋っている静香を置いて更衣室を出る。


 もう! どんなパンツだっていいじゃないの! 高一で経験しちゃってる子のが少ない……と思うわよ。


「俊君お待た……せ」


 愛実がホールに顔を出すと、俊は矢島にからまれていた。


 静香さんといい、矢島さんといい、ゲス過ぎる!


「なあ、実のところどうなのさ?愛実ちゃんと付き合っているのは、身体の相性がいいから? 俊くらいの年なら、猿同然だろ? 」

「矢島さんと違いますよ」

「草食系ってわけじゃないだろ? 」

「あ、愛実! じゃあ、矢島さん譲君、失礼します」


 俊は、愛実がきたのを見つけて、素早く愛実の元に走り寄る。


「お先に失礼します」


 店をでると、俊はさりげなく車道側を歩きながら、愛実のリュックを持った。


「いいよ、軽いし」

「男が身軽だと、みっともないからだよ。それにしても、矢島さんにも困るよな。最近、いつもあのネタを振られるんだから。まだ、キスもしてないのに……ね」


 俊の声で耳元でキスと囁かれ、愛実は必要以上に赤くなってしまう。

「あったりまえでしょ! フリなんだから」

「えーっ、スキンシップでよくない? 」

「バカなこと言ってないの! 」


 俊は、不満そうに口を尖らせる。


「静香さんとかは、それ以上もスキンシップらしいよ」

「そういうことしたいなら、恋人のフリを解消して、本物作ればいいじゃないの! いくらだって、俊君の彼女になりたい女の子いるでしょ」

「愛実がいいんだけど」


 俊の甘い声に、思わずうなづきそうになり、慌てて首を横に振る。


 本当に俊君はたちが悪い!


 この顔で、この声ってだけで、女の子なら絶対クラクラしちゃうのに、勘違いしちゃうようなことを平気で言うし、きっと愛実の反応を見て楽しんでいるんだと思った。

 いくらイケメンにトラウマがあった愛実とはいえ、男の子にこんなこと言われたら、やっぱり意識してしまう。

 そんなとき、愛実のラインが鳴った。

 愛実はスマホを出してラインをチェックする。

「あ、高宮君だ」

「譲君? なんで? 」


 俊が、愛実のスマホを覗き込む。


「なんか、店のグループラインあるって。俊君も入ってるんでしょ? 」

「ああ、でもなんで譲君から? 静香さんじゃなくて? 」

「あれ、グループじゃないや。あ、グループもきた」


 譲から、個人のラインとグループラインの招待が届いた。

 愛実は、よろしくお願いしますという文章と、スタンプを送信する。

 すぐに、矢島や静香、他のアルバイトの人達から、一言コメントとスタンプが届く。


「愛実、俺も教えて! 」

「何を? 」

「ライン、メアド、電話番号! 」


 そういえば、彼女のフリをしていたが、まだそういう交換をしていなかった。毎日会ってるみたいなものだし、特に必要性を感じていなかった。


「いいけど。」


 アドレス交換すると、俊は満足そうにスマホを眺め、なにやら操作し始めた。

 愛実のラインが鳴る。

 俊からハートいっぱいのスタンプと、チュッチュッとキスする男の子と女の子のスタンプが送られてきた。


 愛実:バカ


 愛実は一言送信する。


「愛実、冷たい! 」

「帰るよ」


 愛実はスマホをしまって歩き出す。

 これから、くだらないラインに悩まれそうだ。

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