第7話
ワンピースにカーディガン、いつもジーンズが普段着の愛実にしたら、頑張ってお洒落をしてみた。髪の毛ををアップにして、ワンピースと同色のリボンをつけてみる。
梨香の快気祝いに行くための用意なのだが、あまり気取りすぎても……という気持ちと、初めてのおうちだしきちんとした格好のほうが……という気持ちから、リボンをつけたり外したりしていた。
リップはつけたほうがいいだろうか?
高校生になり、バッチリ化粧している同級生もいるが、愛実はかろうじて眉を整えているくらいで、化粧っけはないほうだった。色つきリップクリームをつけるかつけないかで迷っているくらいで、口紅すら持っていない。
愛実は、鏡を見てうーんとうなる。
これが、梨香だけなら悩まない。たぶん、リボンをつけリップも塗っているだろう。俊もいるのが問題だった。
お洒落をしていると思われたくなかった。
愛実自身気がついていないが、意識しているように見せたくないと逆に意識していた。
「愛実ー。俊ちゃんが来たわよ」
母親に呼ばれ、愛実はリップをつけることなく鞄にしまい、そのまま玄関へ向かった。
「ほら、これ、おうちの方に渡すのよ」
母親がお菓子の詰め合わせを愛実に持たせた。
「行ってきます!」
愛実は紙袋をつかむと、サンダルを急いではいて玄関をでる。
「ワンピース、似合ってる。髪型も可愛いね」
俊が耳元で囁いた。
「だーかーら、それ止めなさいっての」
愛実は、俊をグッと押しやると、赤い顔を見せないように早足で歩き出す。
やっぱり普段着のほうが良かったかも!
俊は、重くもない愛実の手荷物を持つよと、さりげなく愛実の手から受け取り、愛実の横に並んで歩く。
「梨香、昨日帰ってきたんだけど、今日愛実が遊びにくるって、かなり興奮してたぞ。梨香の母親も、愛実がくるからって、かなりはりきって料理してたな」
「そうなの? 」
「梨香の母親、料理研究家で、作るのもプロ並みだから、かなり期待していいぞ」
愛実の家から十五分ほど歩いた場所に、高級住宅が連なる一角がある。その地区は、芸能人の家もあったり、百坪以上の豪邸が軒を連ねていた。ほんの十分十五分の距離なのに、愛実の家の回りとは景色が全く違う。
「この辺って、きたことなかったけど、凄い豪邸ばっかなんだね。うわっ! 凄い庭! うちが三軒くらい入りそう」
「ここだよ」
愛実が驚いた広い庭の豪邸、そこの門を開けて俊は中に入っていく。
ここ?
「こんな家に住んでるの? 」
「ああ、梨香の両親があれだから。まあ、会えばわかるよ」
愛実は、気後れしながらも門をくぐった。
門をくぐると、芝生の生えた広い庭があり、奥に白い洋館が建っていた。愛実の家の玄関の五倍くらいある玄関から洋館に入ると、吹き抜けの玄関ホールになっており、その奥のリビングは何畳あるのかわからないくらい広かった。
「愛実ちゃん! いらっしゃい」
梨香が、笑顔で出迎えてくれた。
梨香は白いフワフワのワンピースを着て、編み込んだ髪の毛を無造作に白いリボンでまとめていた。
「梨香ちゃん可愛い! 」
思わず口をついてでてくる。
「ありがとう、でも子供っぽいでしょ? パパの趣味なの」
梨香は、愛実の腕をとってリビングに招き入れる。
「パパ、ママ、愛実ちゃんよ」
リビングのソファーに座っていたのは、俳優の斉藤勲だった。斉藤勲の妻は、美人料理研究家でテレビにもでている斉藤美希子のはず。
ということは、梨香ちゃんの両親は芸能人?
「えっ? えっ? 」
愛実は挨拶することも忘れ、梨香と勲を交互に見た。
「そうか、愛実ちゃんに言ってなかったね。パパは俳優やってるの。斉藤勲って知ってる? 」
愛実はブンブンと首を縦に振る。
「はじめまして。梨香と仲良くしてくれてありがとう。この子は身引っ込み思案でね、なかなか友達ができなくて心配してたんだよ。友達の話しも聞いたことなかったし」
「そうなの。でも、最近は愛実ちゃんの話しばかりしてるのよ」
母親の美希子が、料理を運んできながらにこやかに微笑んだ。
テレビで見るより、凄い美人だった。
「これ、愛実からもらったよ。」
俊が、愛実の母親がもたせたお菓子の詰め合わせを美希子に渡す。
「あら、ここのクッキー大好きなの。愛実ちゃん、ありがとうね」
「いえ、あの、お招きありがとうございます。ごめんなさい、びっくりしちゃって、挨拶もしてなかったですね」
「あらあら、そんなにかしこまらないで」
「愛実ちゃん、ここ座って。」
テーブルの上は、まるでホテルのビュッフェのように沢山の種類の料理が並んでいた。
愛実達はジュースで、大人はシャンパンで乾杯すると、美希子の手料理を食べ初めた。
料理は本当に美味しく、いつもは食べる量を気にしていた愛実も、ついつい食べすぎてしまったくらいだ。
料理を食べ終わる頃には、すっかり愛実の緊張も溶けていた。
「愛実ちゃん、私の部屋に行こう。見せたいものがあるの。俊ちゃんも」
「うん、でも、片付けないと」
愛実は、高そうな皿を重ねて運んでいいものか悩みながら、食べ終わった器をキッチンに運ぼうとした。
「あら、大丈夫よ。置いておいてね。後でお部屋にお紅茶持って行くから」
梨香に引っ張られ、愛実は二階の梨香の部屋へ行く。
梨香の部屋は、なんとも乙女チックだった。薄いピンクの花柄の壁紙、シャンデリアはキラキラしていて、天蓋付きベッドはフリフリでお姫様仕様だ。大きなクマのぬいぐるみが、今はそのベッドを占領している。部屋の真ん中には、繊細な模様が彫られた白いテーブルがあって、同じ模様の椅子が二脚置いてあった。
「可愛らしい部屋だね」
「これもパパの趣味なの。女の子は、白とかピンクとかフリフリとかが好きだって思い込んでて。私はもっとシンプルなほうが好きなんだけど」
梨香は、ベッドの上のクマを床に移動すると、ベッドの上に座った。
「愛実ちゃんも、ここ座っていいよ。その椅子固いから。俊ちゃん、あっちの棚のアルバム取って」
「はいはい」
俊は、梨香に言われた通り、白いアルバムを取ってきた。
アルバムには、梨香の赤ちゃんのときからの写真が貼ってあり、赤ちゃんモデルになれそうなくらい可愛らしい。
「うわっ! これあの女優だよね。名前なんだっけ? これはお笑いの? 」
芸能人が梨香を抱いて写っている写真がゴロゴロでてくる。
「そんなんじゃなくて、見せたかったのは……」
梨香は、アルバムをペラペラめくり、幼稚園くらいのときの写真で手を止めた。
「さて、どっちが私でしょう? 」
写真には、そっくりな愛らしい子供が二人並んで写っており……。
これ……?
胸がズキンとなる。
愛実は、右側の子供を指差した。
「フフ、残念」
「そっちは俺だな」
「えっ? 」
本当にそっくりな二人。
斉藤俊に斉藤梨香。
従姉妹だけど同じ名字の二人。
愛実のトラウマが……。
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