第8話
「親父達が一卵性の双子で、俺達は親父似だから、小さいときはそっくりだったんだ」
「そうそう。母親達が面白がって、同じ髪型にさせたり、洋服もおそろいで着せたりさせてね。私達も小さいときは、双子だって思い込んでたくらい」
他の写真を見ると、幼稚園の制服を着ているものもでてきた。
その制服は、愛実もよく知っているもので……。
「愛実、ほら、これ、愛実だよな? 」
幼稚園の運動会のときの写真、二人の後ろでお遊戯している愛実が小さく写っていた。
「そうなの? 全然気がつかなかった」
梨香は、その写真をじっと見て、嬉しそうに手を叩いた。
「本当だ! 愛実ちゃんに似てる」
「私……だね。って、梨香ちゃん、同じ幼稚園だったの知ってたの? 」
「昨日、俊ちゃんから聞いたの。写真見てたら、なんとなく思い出したよ。すっかり忘れてたんだけどね」
愛実は、俊をじとっと睨む。
「俊君は、いつから気がついていたのよ? 」
「いつって……、最初から? 」
「なんで言わなかったの?! 」
「気がつくかな? って。なかなか思い出してもらえないから、昨日梨香に話したんだよ。で、俺達のこと、思い出した? 」
この間、夢にまで見ました。悪夢でしたよ!
とは言えず、愛実は曖昧にうなずく。
「双子だと思ってたから。」
俊君がよく耳元で囁いたり、妙に距離が近くてドキドキさせたりしてきたのは、なるほどイタズラの種類が変わっただけだったのか。
つまりは、小さいときからのイタズラ好きは変わってなかったってことね。
妙に納得できた愛実だった。
そのとき、内線電話がなり、俊はお茶とお菓子を取りにきてと呼ばれ、部屋を出ていった。
「私のイケメン嫌いの元凶だわ」
梨香と二人になった愛実は、写真の中の俊を見てつぶやいた。
「なにそれ? 」
「俊君が、よく私に虫を投げてきたり、泥団子で靴を汚されたりしたから、イケメンが苦手になったの。イジメかと思ってたわよ」
「やだ、それ、俊ちゃんの愛情表現だわ」
梨香が、嬉しそうにパンッと手を叩く。
「はあ? 」
意味がわからない!? と、愛実は梨香を見た。
「だって、俊ちゃん虫が大好きで、見つけると見せてもくれなかったのよ。いつも大事に手の中に入れて。泥団子も、どれだけまん丸に作るかを追求して、絶対触らせてくれなかったんだから。私の言うことはだいたい聞いてくれたんだけど、それだけはくれなかったわ」
なんじゃそりゃ?
凄まじく嫌がらせされていたと思っていたのに、トラウマにすらなっていたのに。
梨香はニッコリ笑った。
「俊ちゃんの初恋は愛実ちゃんだったのね」
「ええっ?! だって、俊君は、梨香ちゃんのこと凄く大事にしてて。こんなに可愛い梨香ちゃんを毎日見てたのに、私が初恋って有り得ないでしょ?! 」
梨香は、愛実に顔を寄せた。
「あら、見てよ。私達こんなにそっくりなのよ。ナルシストじゃあるまいし、同じ顔を好きになりゃしないわ。私達、兄妹だと思ってたくらいだしね。それに、私と俊ちゃんって、趣味が似てるの。好きな物がかぶることが多いのよ。だから、絶対俊ちゃんの初恋は愛実ちゃんだって! 」
確かに、写真の二人はそっくりで、同じ顔を好きになるか? と聞かれたら、そりゃないかもしれないけど。
ええっ?
そんなこと……。
それから愛実は、何を喋ったか覚えてないくらい動揺がおさまらなかった。
夕飯までご馳走になり、愛実は俊に送ってもらい家に帰った。
「あのさ、俊君は幼稚園のとき、私のこと嫌ってた? 」
愛実は恐る恐る聞いてみた。
「はあ? なんで? 」
俊は、驚いたように足を止め、愛実を見る。
「いやさ、よくイタズラされた記憶があるから……」
「まじで? イタズラなんかしたかな? 愛実がそっけなくてさ、一生懸命好かれようって、俺の好きな物を運んでたのは覚えてるけど」
なるほど、好みの相違から生じた食い違い……いやいや、普通女の子は虫ダメでしょ?泥団子見てうっとりはしないでしょ?
「俊君、あのね、私は虫大嫌いなの。昔も今もね」
「えっ? 」
「泥団子にも魅力を感じないわ。お山を作るのは好きだったけど、どちらかというと服や靴を汚したくなかったタイプかも。今よりも可愛い物が好きだったから」
「そうなの? 小学校のときとか、どれだけ硬く丸くするか、何日もかけて作らなかった? 」
信じられないといったように、俊は愛実に尋ねる。
「やらなかった。……だから、私、てっきり俊君は私のことイジメているんだって思っていたのよ」
「はあ? ……なわけないじゃん」
俊は、小さな公園を見つけると、愛実の腕を引っ張って中に入り、ベンチに座った。
「まじかあ……。もしかして、俺って嫌な奴だった? 」
愛実は、戸惑いながらもうなずいた。
「ウワッ! 最悪だ! まじでごめん! 」
「いや、まあ、子供のときのことだし、梨香ちゃんから聞いて、私の誤解だってわかったしね。アハハ、私のイケメン嫌い、俊君のせいだったんだぞ。こんな近場に元凶がいたなんてね」
ジョークにしようと、愛実はふざけた口調で言い、俊の腕をグーパンチした。
「誤解だってわかったんだよね?
」
俊が真面目な口調で言った。髪をかきあげ、端整な顔をあらわにする。
「まあ、なんとなく。でも、俊君ってイタズラ好きでしょ? 今だって、わざと耳元で話して驚かしたりするじゃん」
俊はため息をついた。
「あのね、昔も今も、そんなことをするのは愛実にだけなんだけど? 」
愛実の心臓がバクンと跳ねる。
いや、勘違いはダメだ。
「この意味、わからないかな? 」
俊はわざと耳元で囁く。
「もう! ふざけないで。ほら、帰るよ! 」
愛実は、赤くなった顔を見られないように立ち上がると、公園を出て家のほうへ歩いて行く。
「ならさ、イケメン嫌いは解消されたんだよな? 」
「まあ……、そうね。そうなるのかな? 誤解だったわけだし。でも、いきなり好みはかわらないって言うか……」
「ふーん、なら全力でいこう」
「……? 」
それから帰り道、愛実は俊に幼稚園時代のトラウマを洗いざらいぶちまけ、俊は弁解したり謝ったりした。
家につく頃には、愛実のトラウマはすっきりさっぱり解消されていたのだった。
家まで送ってもらい、玄関の前で別れるとき、俊がわざと髪をかきあげて顔を出した。その顔をグイッと近づけてくる。
「愛実、もう俺の顔見ても大丈夫だよな? ほら、顔見せるなって最初言ってたじゃん」
「まあ、そうだね」
愛実は一歩下がりながら答える。
「この顔見ても、嫌な気持ちにはならない? 」
さらに俊が一歩近寄る。
「……ならないと思う。もう、近いよ! 」
門にぶつかり、これ以上下がれない愛実は、俊を両手で押しやる。
「そっか、それだけ確認しときたかったんだ。じゃあ、おやすみ」
俊は髪をバサッと下ろすと、手を振って走っていった。
俊が角を曲がって見えなくなるまで見送ると、愛実は赤くなった頬をこすりながら家に入った。
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