第6

 俊と恋人のフリを始めて二週間、そろそろ関係性は定着してきて、クラスの中でも公認になっていた。

 そして、なぜかそれは学校内だけのことではなくなってきていて……。


「俊ちゃん来てるわよ」


 学校へ行く仕度をしてリビングダイニングに顔を出すと、愛実の母親と和やかに紅茶を飲む俊が座っていた。

 ここ一週間、俊は愛実と登校するようになっていて、……というか俊が勝手に愛実の家まで迎えにくるようになり、なぜかうちにまで上がり込むようになっていた。彼氏として……。


「朝ごはんはちゃんと食べなよ。」

「言ってやって! この子ったら、高校生になってから、朝ごはん抜くようになっちゃって。ガリガリより、少しくらいぽっちゃりしてたほうがいいわよね? 」

「そうですね。健康的でいいと思います。愛実さんは、太っていても痩せていても可愛らしいと思いますけどね」

「あら、ご馳走さま」

「ほら、行くよ! 」


 愛実は俊を引っ張る。


「紅茶、ご馳走さまでした」

「はい、いってらっしゃい」


 愛実の母親は、にこやかに二人を送り出す。

 すっかり俊は母親のお気に入りになっていた。

 俊は最初に挨拶にきたとき、しっかり髪の毛を整えてきて、イケメンぶりを振りまいたのだ。しかも丁寧に挨拶までし、見た目だけじゃなくしっかりした好青年とポイントアップ。

 今のボサ髪も、女の子避けと説明し、それも彼氏としては好印象を与えたらしい。

 愛実と違い、ジャニーズ好きな母親は、すっかり俊のファンになっていた。


「なんで、わざわざ家までくるのよ?! 」

「通り道だし、一緒に通学したほうがラブラブに見えるだろ? 」

「もう十分だって。私達が付き合ってるの浸透してるし、なにもうちの親にまで嘘つかなくたっていいじゃない」

「まあいいじゃん。そうだ、来週だけど、梨香が退院してくるんだ。お祝いするから、うちにこない? 」

「梨香ちゃんからもラインきたよ。お祝いに行くよ。俊君のニセ彼女としてじゃないからね」


 梨香のお見舞いには、すでに数回行っていたし、ラインではほぼ毎日会話していて、すっかり親友になっていた。


「学校も編入できるようになったみたいだし、梨香のことよろしくな」

「俊君に頼まれなくたってフォローするわよ。友達なんだから。でも、試験はどうしたの? 」

「中学の成績で、なんとか入れるらしい。ただ、一年は文系クラスになるみたいなんだ」


 文系……、梨香ちゃんをイジメていた泰葉がいる。しかも、校舎も愛実達と違う。


「大丈夫かな? 」

「わからん。でも、なんとかするさ」

 俊は、梨香のことをいつも凄く気にかけている。


 従姉妹って、結婚できるんだよね?


 俊の梨香に対する感情は、従姉妹に対するというより、もっと特別なものに思えた。


 二人なら、美男美女でお似合いなのに……。


 俊の横を歩きながら、愛実は俊の横顔をチラチラ見た。そんな愛実に、俊は髪をかきあげて笑いかけた。愛実は、そのイケメンぶりに思わず顔を背ける。


「愛実は、俺の顔見ても態度があまり変わらないよね? っていうか、なるべく見ないようにしてない? 」

「ああ、私イケメン好きじゃないから」


 愛実はそっけなく答えた。


「えっ? 」

「子供のときのトラウマかな、どちらかというと苦手なの」

「イケメンが苦手……。じゃあ、どんなのがいいわけ? 」

「普通!とにかく普通な人。地味で目立たなくて……。そうね、実は俊君の顔見るまでは、俊君はタイプだったかも。ほら、地味で目立たないようにしてたじゃない?

なのに声は超良くて、ギャップみたいなのも萌えたかな」

「地味で普通……」

 なぜか俊はショックを受けたように、その後は上の空になってしまった。



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