第5話

 愛実:聞いてよー! 梨香ちゃんの従兄弟酷すぎ(;o;)

 梨香:どうしたの?

 愛実:恋人になれって言うんだよ!

 梨香:えーと、俊ちゃんいい人だよ。従姉妹の私が言うのも変かもだけど、優しいし、頼りがいあるし、おすすめだと思うけど。

 愛実:違う違う! フリよフリ! 恋人のフリしろって。女の子よけに。

 梨香:フリじゃなく、付き合っちゃえばいいのに。

 愛実:イヤ! カッコいい人は趣味じゃない。

 梨香:愛実ちゃんの趣味って?

 愛実:普通の人! 誰も振り返って見ないような、とにかく平凡な人がいい。斉藤君の顔見る前はいいかな? って思ったんだけど、顔見ちゃったら、恋愛対象からは外れたよ。

 梨香:愛実ちゃん、珍しい趣味してるね。

 愛実:そう? 普通が一番だよ。

 梨香:恋愛対象外の俊ちゃんから恋人のフリしてって頼まれて、困ってるの?

 梨香:恋人のフリは、とりあえずは引き受けたんだけど、なんかさ、昨日理沙ちゃんのお見舞いに一緒に行ったのを、クラスメイト達はデートだって勘違いしててさ、馴れ初めとか聞いてくるのよ。恋人のフリするって言っても、なんて答えたらいいかわかんなくて。

 梨香:俊ちゃんがベタ惚れしてることにしちゃいなよ。

 愛実:ベタ惚れって私に? そりゃ現実味ないっしょ。

 梨香:なんで? 愛実ちゃんは魅力的だと思うよ。

 愛実:ありがと。斉藤君と打ち合わせしないとだね。愚痴聞いてくれてありがと。

 昼休み終わるからまたね。

 梨香:うん。またラインしてね。授業頑張って(^^)v


 予鈴がなり、愛実はラインを終了して教室に向かった。

 教室には、すでに俊が戻っており、いつも通りスマホで音楽を聞いていた。


「愛実、聞いたよ! 」


 隣りの席の麻衣が、耳打ちしてきた。


「なにを? 」

「斉藤君との馴れ初め」

「誰から? 」

「斉藤君。斉藤君って、いるかいないかわからないような奴だって思ってたけど、以外と押せ押せなんだね」


 愛実は曖昧に笑った。


 斉藤君! なんて話したんだ?!


 本鈴が鳴り、愛実は俊に話しを聞くこともできずに五時間目に突入してしまう。

 今日は先生達の研修があるとかで、珍しく五時間で終わる。愛実は、授業は全く耳に入らず、ただ時計とにらめっこをして、授業が終わるのを待った。


 授業が終わり、終業の会が終わると、愛実は俊の席に走った。

「さい……俊君、ちょっと! 」

「一緒帰る? 」

「あー、そうね、話しがあるの」


 俊は鞄を持って立ち上がり、愛実が後をついて教室を出ようとすると、なぜか女子から歓声があがる。


 いったい、どんな説明を……?


 二人で学校を出ると、マックに向かった。百円のマックシェイクを頼み、横並びの席に座った。別にカップルを演出したのではなく、そこしか席が空いていなかっただけなのだが。


「斉藤君、あなた、どんな説明したのよ? 」

「俊。二人のときから呼びなれてないと、ボロが出るよ」

「わかったわよ! 俊君、なんて説明したの? 」

「別に、俺の一目惚れで、ひたすらアプローチしたってだけだけど」

「それくらいじゃ、あんな歓声はでないでしょ! 」

「どんなふうに告白したのかって聞かれて、愛実は耳が敏感だから、後ろから抱きしめて耳元で囁いた……とかかな? 」


 なんだ、そのイヤらしい言い方は?!


「変な妄想するような言い方止めてよね! 」

「なんで? 愛実、耳弱いでしょ? 耳元で話すと、いつも耳が赤くなるじゃんか」


 俊は、愛実の椅子の背もたれに手を回すと、愛実の髪の毛を耳にかけ、わざと耳元で低く響く声で囁いた。


「だーかーら、昨日理沙ちゃんも言ってたでしょ。セクハラ! 私が耳弱いわけじゃなくて、俊君の声のせいよ! 」


 俊がわずかに耳に触れたせいか、耳がカアッと熱くなる。心拍数もかすかに上がった。


「愛実の耳、可愛くて好きなんだけどな。いつも出してればいいのに。髪の毛アップにしたら? 」


 俊が愛実の髪をかきあげた。


「こら、カップルのフリは学校ででしょ! むやみやたらと触らないの! 」

「えーッ? やっぱさ、日頃から慣れてないと、ボロがでやすいと思うしさ。イチャイチャしなれとかないと」


 愛実は、一瞬そんなもんかと納得しかけ、イヤイヤと頭を振る。


「俊君さ、あなた女嫌いじゃないの? 」


 モテすぎて、てっきり女の子が苦手なんだと思っていたが、俊の愛実に対する言動は、どちらかというと女好き? な感じがする。

「誰が? 俺? そんなわけないじゃん。一応、男の子だから。嫌いなのは、俺の追っかけやってた子達で、あれは女子とは思ってないし。愛実は、あんなんとは違うじゃん。可愛い女の子だから好きだよ」


 俊は髪の毛をかきあげて、とびっきりの笑顔を愛実に向ける。愛実は、一瞬で顔が赤くなった。


 騙されたらいけない!

 俊君は天性のタラシだ。私が好きとかじゃなくて、女の子はみんな可愛く見えるんだ!女の子全般が好きの好きだから!


 愛実は、自分に言い聞かせ、なんとかドキドキを抑える。


「気軽に好きとか言わない! とにかく、スキンシップは禁止。じゃなきゃ、恋人のフリはしないからね」

「気軽じゃないんだけど……。まあいいや、OK、触らなきゃいいわけだ」


 ノータッチねと、両手を広げて見せたものの、俊の距離がいささか近い気がした。


「他には何も言ってないんでしょうね? 」

「ないよ。あまり話してもなと思って。後は想像に任せるよって言っといたけど」


 この声でそんなこと言われたら、どんな妄想をされていることやら……。


「俊君さ、顔出してなくても、声もイケメンなんだから、少し自覚しなさいよ。」

「自覚……してるんだけどな」


 俊は少し納得いかないように小首を傾げ、赤くなりつつ怒っている愛実を見た。  

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