1-1-6 うた

【少女の視点】


「どうしてこんなところで暮らしているの?」


 美味しいとは言えなかった兎の肉でお腹を満たし、リラックスしながら。茫洋とする瞳で、天上キュートな白い少じょ・・・、少年の目を覗き見る。

 つい言ってしまった。私の村に、この子がいてくれたら、と。

 同情でも欲しいのだろうか。

 この、出会ってからまだ一日も経ってない、かわいそうな天使さまから。

 私の悲しい物語を聞いて欲しくて、でも、話の入り方がよく分からなくて。ふと、頭にいつも唄ってた音楽がカラカラと流れてきて。

 そのフレーズが、口からこぼれ出でた。



  ・・・割れる前の卵は

  すでに「欠片」でもあるんでしょうか


  ここの始まりは

  私たちの先祖


  続く

  私たちの先祖

  ・・・そして私たち


  太陽に恵み受け


  月に抱かれる


  自然は歯車のように

  廻りつくしている


  ように見えても


  無常


  時進み


  いつか私たち

  私たちの子孫


  そしてここは

  朽ち果てる


  この詩も

  皆忘れる


  割れる前の卵は

  きっと「欠片」でもあるのでしょう


  始まりとは

  終わりあってこそ美しいのだから



 ・・・なんか、落ち着いた。

 少し余裕が出てきた。


「・・・今のは?」


 白い天使が、神妙な顔をしながら私に尋ねてくる。

 抱き締めたい。

 が、それは天使が眠りについてからでも遅くはない。さっきみたいに見えない一撃が飛んでくるのはマジ勘弁。

 約束された幸運に分泌される唾液を飲み込み、それまで我慢しなければならないことに歯を食いしばりながら、天使に答える。


「私の村に伝わっていた詩。題名は、『永遠は醜し』。永遠なんてないけど、だからこそ始まりと日常に感謝を。そういう意味が込められている詩らしいわ」


 天使は、「『欠片』・・・」と呟く。

 そのミステリアスさと、外面の可憐さのギャップは、とんでもないものを盗んでいきました。

 私の心です。


「ついこの間まで、私は何も分からないままこの詩を口ずさんでいたわ。みんな知ってたし、みんな歌ってたし。でも、今になって、初めてこの詩を感じるようになった。うん。実感出来るように、触れられるようになった」


 シリアスな雰囲気を壊さぬよう、邪念を理性で押さえ込む。


「永遠はない。それは正しい。でもとても残酷」


 この言葉を聞くだけで、何となく察せたような顔になるこの子は、とても賢い。その幼さであんなに強くて、魔法も私より遥かに使えて、しかも頭がいい。

 でも、それこそが・・・。

 私は続ける。


「そう。私の村は滅びたの。私だけ残して」


 絶叫。

 血臭。

 燃え盛る家々。

 そんな光景が、私の中でフラッシュバックする。


「魔物に襲われて」

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