1-0-10 トモダチが欲しいだけのマモノ⑩


 三日後。


 そこは、スタンダード公爵領の中でも辺境に属する場所だったが。

 同時に広大な土地、豊富な地下水、栄養豊かな土壌が揃い、農牧地帯として栄えていた場所でもあった。

 麦の一大生産地で、公爵領にとどまらず国家の穀倉地帯と言われていたほか、乳製品の加工業に関しては、他を一歩抜きん出た先進地域だったと言え、商人、旅人の出入りの激しい、そして人口も多い、非常に活気あふれる都市だったのだ。


 それが、どうしたことだろうか。


 かつて都市だった場所は、瓦礫が一面に散乱し、所々で煙が上がっていて、元の面影も皆無。

 乳製品の加工工場として技術の先端を走っていた建物だったものは、もう他の建築物だったものと全く区別はつかない。豊かに蓄えられた麦は燃えて炭化し、牛や馬のほか、様々な家畜たちは、人間と同じく部位として、そこら中にゴロゴロ転がっている。

 所々にある水たまりと同じくらいの頻度で、黒々とした血だまりが地面に貼り付いていて。動いているのは、というより蠢いているのは、屍肉を頬張って悦に至る魔物のみ。

 ・・・諸行無常とは、このことか。

 こんな地獄絵図の真ん中。

 そこでは、此度の悲劇を起こした絶望の魔物が、こんなことしたくなかった、こんなはずじゃなかったと、独り、ただただ呻いている。

 ああ、何という皮肉だろうか。

 友達が欲しかっただけの魔物なのに、一匹の魔物が引き起こしたものでは他に類を見ない、大災害を引き起こすことになろうとは。

 非常に運良く生き残ったごく少数によって、この凄惨で残酷な事件が克明に語られ、一年も経たないうちに「大破壊」と呼称されるようになり、人々の心に深い爪痕を残したのだった。


 さて、そんな地上の様子を、空から楽しそうに眺める存在があった。


「成功です、ふふふ。面白くなってきました」


 頬を吊り上げ、銀髪を掻き上げながら彼女が発するその声は、まさに甘美そのものだった。


「愛しい我が子。この黙示録に、良いプロローグをありがとう」

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