血肉を捧げ食ますは外道かされど畜生か 09

 自転車を引いて倖姫が戻ってくるの見て、比与森家の門の前で待っていたノウィとポルカが眉を寄せた。

「この臭い――そんなアホな」

「倖姫、墨臭いよ」

 若干傷ついた自転車を無言で片づける倖姫にとノウィがにじり寄る。

「怪我してる?大丈夫?」

 尚も心配するノウィの胸倉を倖姫は掴んだ。

「なあ、ノウィ――腹減ってるか?」

「……うん」

 見下ろしてくるノウィの、微かに開かれた口に綺麗に並ぶ臼歯をじっと見つめる。

「なら全部食べていいよ」

「え―っ、でも」

「食べろって言ってるんだ!!」

 突然発せられた怒号に、ノウィが目を見開いて体を硬直させた。

「なに……?倖姫……こわい」

 倖姫の瞳は憎しみでぎらついた光を放ち、その表情は決死の覚悟に満ちている。

「どうしたんひいさま?墨染の袖にまた会ったんか?とりあえず落ち着きなや。な?」

 ポルカが倖姫をノウィから引き剥がす。それでも倖姫はノウィを挑むように睨み続け、呪いのように低く響く声を漏れさせる。

 ノウィはただ驚き大きな体をちじこませて、変貌した愛しい胙を怯えた目で見つめていた。

「骨一つ残らずに俺を食え、腕でも、足でも、腸を引き摺り出して食い尽くせ。だから、だから、だから……!!」

 目が赤いのは憎しみの炎のせいだけではないのだと、ポルカは気付いた。沢山泣いたのだろう、真っ赤に充血した目が痛々しいほどに見開かれている。

 歯を食いしばり必死で倖姫は何かに耐えていた。ポルカの腕の中でぶるぶると震える倖姫を、思わずポルカは抱き締める。だが、それも倖姫の心を、決意を押し留めるだけの力はない。

「――だから、墨染の袖を皆殺しにしろ!!一匹残らず、全部、全部だ!!」


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