15.拷問


 俺は誘拐され、どこか知らない暗い牢屋へぶち込まれた。

 その後、ずっと拷問を受け続けていた。


「ぐああああ!?」


 俺は両手両脚を拘束され、無理やり立たされた状態で鞭を受けていた。


「さっさと異世界ゲートを開く方法を吐け、聖剣士宇田」


 緑色の肌をした怪物みたいな奴が俺に話しかける。

 多分、亜人種のオークだ。

 口から牙が生えてるから分かる。


「し、知らねえ。たとえ知ってても今すぐ吐く! 知らねえもんは知らねえんだよまじでいてええええ!」


「ちっ、意外と口の硬い野郎だ」


「硬くない、シフォンケーキよりフワフワだって。マジで知らねえんだよ、トラックに轢かれたらこの世界に飛んできたんだ」


「飛んできた? てめえやっぱ知ってんじゃねえか」


 また、鞭を振るわれた。


「言葉の"アヤ"だよいちいち言葉尻とんなカスオーク! っでええええええええ!」


 かれこれ何時間もこうやって鞭で打たれたり、尋問されてりしている。


 どうやら俺は聖剣士をどうやって地球からここへ運んでくるか知っていると思われてるらしい。


 とんだ見当はずれである。

 知ってるのは俺じゃなくてリアムの方だ。

 方法を知りたいならリアムを誘拐するべきだった。


 しかし、リアムが誘拐されなくてよかった。

 あいつがこんな拷問をされなくてよかった。

 女の子を大事にするのはイケメンの条件だ。


「よし、次は爪を剥がすぞ」


 ベリッ!

 俺の左手の小指の爪が剥がれた。


「ぎええええ! やっぱ話す! リアムだ! 俺を召喚したのはリアムって女だ!」


 やっぱ痛いのやだしリアムに責任を取ってもらおう。

 すまんリアム。

 でも俺悪くねえよな? 俺をこの世界に連れてきたのお前だし、お前が俺に全部話してたら俺はこんな痛い思いをしなくて済んだ訳だ。

 つーかむしろお前が悪い。

 俺被害者だし!


「リアムって娼館に一緒にいた、あの黒いドレスを着た女か?」


 ……そうだといえばよかった。

 言ってしまえば楽になる。

 言え……言え!!


「ばーか、ルアスに決まってんだろカス。ガハハハ!!」


 ああ、俺のおばかさん、

 おばかさああん!

 直前でリアムの胸とあそこと尻を思い出してしまったのだ。

 俺は釣った魚に餌はやらないが、他人に横取りされるのは嫌なのだ。


 そして、俺はこの後も拷問続けられてとってもイタイイタイなのであった。



---




「ギイャイええええおあがかーーー!!!」


「さて、そろそろ終わりにするとするか」


「ま、まてよ。何するつもりだ?」


「そりゃ分かるだろ? お前を返すわけにはいかない。またあの機械ゴーレムで騎兵千騎分の働きをされちゃ困るからな。お前ら聖剣士は強すぎる、この世界にいちゃいけないんだ。敵ならば特にな。かと言ってお客様としてもてなすわけにもいかない。なあ、分かるだろがよ聖剣士さんよ」


「待て、殺すな。殺すなよ、お前ら後悔するぞ」


「覚悟を決めな、お前も散々人を殺しただろう。お前さんの番が来ただけさ」


「わ、分かった。身代金を払うぞ、すげー額だぞ。ルアスから大金をもらってるんだ、一生遊んで暮らせるぞ」


 金の話をした途端、オーク達は目の色を変えた。


「ほぅ……詳しく話を聞かせろよ」


 グハハ、馬鹿者どもが、あっさり買収されやがった。


---



「ははは、あんた話のわかる奴だなあ」


「お前もな、良い取引ができた」


 俺は拘束を外され、椅子に座ってワインを飲んでいた。

 傷ついた箇所は手当てしてくれた。

 まだ牢屋の中にいるが、助かったも同然だ。

 すっかり俺は誘拐犯と仲良くなっていた。


「じゃあそろそろお暇するかな」


「ああ。約束の金は後日受け取りに行く」


「聖剣士に二言はない」


 バカが、金なんて払うかよ。

 脱出したらお前ら全員皆殺しにしてやる。


「よし、じゃあ。解放しようか」


 背中に圧迫感。

 ん?


 視界が、歪んだ。


「がっ」


 倒されたのだ。

 なんだ、どうして?


「んー、どうもお前ら貴族は俺たちのことをバカだとでも思っているのかな」


「ば、バカな真似はよせや、話の決着はついただろう? 解放しろよ」


「ああ、聖剣士宇田。お前さんが俺たちを馬鹿だと見下して悦にひてり、リラックスしている様子を見させてもらったよ。実に楽しい見世物だった、自分が安全圏にいると誤解し調子を取り戻した馬鹿野郎(おまえ)を見るのは最高だった」


「がう」


 猿轡(さつぐつわ)を噛ませられた。


「そして、この後自分に起きることを知らないアホを見ながら笑いをこらえるのは大変だったよ」


 別の男が、剣を持ってきた。

 おいまさか。


「お前は少し謙虚になった方がいい、俺が教育してやる。お前の母親の代わりにな」


 嫌だ嫌だイヤダ、やめてくれ、それだけはたのむから。

 だがもごもごと布を噛むばかりで声にならなかった。


 ビュン!

 という音がしたとおもう。

 そして、ゴロンと、転がった。

 俺の左手がクソ汚いドブネズミが這う床を転がっていた。


 熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い

 激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛

 痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛!痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛



 猿轡が外された。



「!!!!???? アああああAAAAあああぁ…………ぎぃやぁぁぁああああああああああああああああああああ!」


「ひゃははは、すげー鳴き声」


「ああああああああああああああああああああああああ! 俺の手、俺の――ア"""""!!!!!!」


 俺の悲鳴が、ひびいた。

 嗚咽が、後悔と呪詛と懇願が漏れた。


「お、お前らぁ、お前らぁ……絶対に、絶対にぶっころしてやる、絶対後悔させてやるぅううううう!」


 よくも、よくも、俺の手を、薄汚いビチグソ野郎ども。

 必ず殺してやる、ゴーレムの足で踏みつけて念入りにすり潰してスープみたいにしてやる。


 俺は目の前の男たちを呪いながら意識を失った。



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