13.ガッシュ領の戦い その2




---宇田視点





「オラオラオラオラ! オラオラオラオラ!」


 俺は新型機械ゴーレム、バランバランの左手に装備されているブレス・ランチャーを使った。

 銃のような形状をしているが、放たれるのは銃弾ではなく炎だ。


 地上に放射された赤い波は、敵の兵士をなぎ倒し、攻城兵器をバラバラに分解した。


 悲鳴が聞こえる間も無く、兵士は蒸発する。

 燃え盛ることすら許されないほどの高温である。


 もう自分の手で人を殺すことに完全に慣れてしまった。

 慣れたといっても機械越しであるから殺した感覚は鈍い。

 だが、確実に殺人者としての経験を積み重ねている。



「ご機嫌な機体だ。装甲もスピードもパワーもドーガとは違うぜ」


 ドーガとは性能が違う。

 グレーで不気味に光る、大鷲を思わせる顔つきの機体は俺の新たな手足となって敵を地獄に叩き落していた。



「宇田、ガンバインを見つけたか? セリカがガッシュに協力しているらしい。見つけ次第殺せ」


 アイーダが背中にタッチして直接話しかけてきた。

 ゴーレムに乗っていれば遠隔会話も可能だが、直接触れ合った方が声の通りが良い。


「物騒な事言うなよアイーダちゃん」


 アイーダはドーガに乗っていた。

 もうルアス軍にガンバインの替えは無い、全部ぶっ壊れるか部品行きになった。

 今の軍ではガンバインの代わりにドーガが主力となっている。

 つまり、この戦場でガンバインで行動している者がいればそれはセリカしかいない。


「新型を拝領したのだ、働きで忠誠を示せ」


 新型機のバランバランはアイーダではなく俺に与えられた。

 一騎当千巨大兵器の受領。

 それは政治上の意味を持っている。

 今ではアイーダより俺の方が筆頭聖剣士としてふさわしいと誰もが噂しているらしかった。


 内心、忸怩(じくじ)たる思いだろう。

 だが、アイーダはそれを表に出さなかった。

 そのハードボイルドさは嫌いではない。

 クールな女だ、いつか仲良くなりたいものである。性的な意味で。


 その時、俺の機体が揺れた。


 見ると、下方に敵兵が隠れていた。


「攻城兵器か、器用に当ててくるものだ」と、アイーダ。


 バリスタ、とかいう名前だったか。巨大な弓矢の兵器を使って俺に射撃したらしい。

 しゃらくさい、そんなものが俺(バランバラン)に通用するはずは無いだろう。


「はぁ? 死にに来たのかよ、だったら地獄を見せてやるぜ!」


 俺がドラゴンブレスをバリスタに向けた瞬間、アイーダが叫んだ。


「宇田、上だ!」


「どわっ!」


 間一髪。

 ガンバインの必殺の一撃を俺は避けた。

 セリカは脳天から俺を真っ二つにするつもりだったらしい。


「来たな、ガンバイン。今日こそお前の最期だぜ」


「宇田さん、アイーダさん。もう止めてください」


「馬鹿の一つ覚えだな。言いたいことはそれだけか! セリカ、いや聖剣士ガンバイン」


 アイーダが叫ぶと、ガンバインとドーガが切り結んだ。

 魔力の粒子が二体がぶつけ合う大剣から吹き出す。

 この世界の物理法則がどうなってるか知らん。

 が、巨大な魔力同士がぶつかりあうと、激しく発光する。


「む、セリカめ、また魔力が上がっているな」


 見れば分かる、既にセリカのガンバインはアイーダを圧倒していた。

 孤剣を振るう環境が力をつけさせたのか、セリカに才能があったのか、ガンバインを完全に使いこなしているせいかはわからないが。

 明らかに力をつけている。


 二体の巨大な鉱石が光り輝く。

 集中した二人の魔力が魔法鉱石を通して激しく発光しているのだ。

 

 ギギギ……ギギ……


 俺はあえて手を出さず眺めていた。

 俺が横から攻撃したらセリカ、死んじゃうだろうし。

 アイーダも俺に助けを求めないという事はタイマンで倒すつもりだったのだろう。

 最近良いところないからなぁ。


「私ではもう敵わないとでも言うのか、聖剣士とは言えここまで私がコケにされるなど!」


「もーいーよ。アイーダ、下がれ」


「私に命令するな!」


 あかん、かなり熱くなってる。

 やっぱ最近自分がパッとしないところを気にしてるっぽい。

 俺は一計を案じた。

 アイーダが傷つかず、この場を離れる理由を。


「それよか、城が落ちるぞ、間に合わなくてもいいのか」


 バランバランの手をガッシュ城の方向に向けて言った。

 既に、落城は決まっているようなものだが、アイーダにこの場を去る言い訳を与えてやりたい。

 このままやりあえばどちらかのおっぱいが死ぬ。

 それは避けたいのだ。





「わかった、この場はお前に任せる、必ずガンバインを仕留めろ」


 アイーダのドーガが去ると、俺とセリカだけが空に残った。


「現金な奴……さぁー邪魔はいなくなったぜ。この領地には手応えのある奴がいなくてな、このバランバランの性能を試させてもらうぜ」


「随分余裕なんですね、本気を出さなくていいんですか」


「んな事したらお前死ぬじゃん」


「貴方に負けはしません」


「まぁいいや、遊ぼうぜ」





---セリカ視点




「そらそらそら、どうしたどうしたぁセリカちゃんよぉ!」


 宇田の新型ゴーレムによる攻撃は苛烈だった。

 ガンバインの大剣より巨大なハルバードを軽々と振り回し、自分のの大剣に攻撃を加えてくる。

 その、槍と斧が一体化したような武器は先端に刃がついている。

 宇田は巧みにそれを操り、攻め立ててくる。


 宇田が何か武術を習っていたという話は聞いた事が無い。

 ならば、生来持っているセンスだけで操っている事になる。


「くっ……!!」


 防戦一方になる。

 ハルバードを躱し、凌ぎ、回避に専念する。

 反撃の余裕はなかった。

 それどころか、受太刀をするだけで大剣が軋む。

 明らかにパワー負けしていた。


「新型やべー! めちゃつえー! ガンバインよええええ!」


 違う、ガンバインもパワーアップしている。

 ただそれ以上に宇田の力も増していた。

 欲望に生きる男はその邪悪な力をますます増幅させ襲ってくる。




 勝機があるとすれば、宇田の隙を突くしかない。

 どうやらこの男は自分を殺すつもりは無いようだ。

 手加減されている悔しさはあるが、今、持っている手札を使うしか活路は無い。


「そこっ!」


 バランバランのハルバードの猛撃が大振りになった一瞬の隙をついて、大剣で突きの一撃を放った。


 しかし


「そ、そんな」


 バランバランはあっさりと巨体を横にずらし、突きを回避した。

 大鷲を思わせる灰色のゴーレムの顔は、まるで笑っているようだった。


「見え見えだわな、セリカは対戦ゲームとかしなさそうだもんなー。なんか狙ってるのすぐに分かったわ」


 見切られていた、その時には遅かった。

 ハルバードがガンバインの頭部を捉えた。


「奴隷二号ゲット! ハーフ最高ぉぉぉ! ふぅううううう!」


 やれれると思ったその時、


「んがぁ!」


 バランバランが何かに被弾した。

 ハルバードの軌道がそれ、ガンバインは九死に一生を得た。


「誰ダァ!?」


 ウタの気がそれた。

 ガンバイン恐るるに足らず。

 その油断がウタの注意を半死半生の目の前の機械ゴーレムより未知の敵への注意を引いた。


「なんだ、ただのオークかよ」


 地上部隊の亜人兵達。

 確か、セリカとも顔を合わせたことがある。

 ガッシュは戦力をかき集めるために傭兵団を多数雇い入れていた、その一部隊だろう。


「へっ」


 が、セリカが状況を打開するほどの時間が稼げたわけではなかった。

 宇田は地上部隊を無視するのも無理は無かった。

 既に強大化した宇田の魔力は機械ゴーレムのマジックバリアを強化し、兵器の矢ですら傷つけることは叶わない無敵の存在となっていたのだ。


「今日から俺の奴隷になってもらうぜ。安心しろ、同じ日本人のよしみだ。ルアスに処刑はさせん」


「奴隷ってなにをするんですか?」


「そりゃあお前、あれだよ、ほらあれだよ。うへへへ」


 下卑た笑い声にセリカは己の将来を見た。





「セリカ殿! 逃げるのだ!」


「がぁ! またかよ!」


 ゲバラが背後からバランバランを切りつけたのだ。

 一体、誰が。いやセリカには分かっていた。


「ガッシュ閣下!」


「私が時間を稼ぐ、逃げて反ルアスの火を絶やさないでくれ。この世界にはガンバインと聖剣士セリカが必要なのだ」


「全然効いてねえぞ一般人が! 魔力の質が低すぎるんだよぉぉぉ!」


「そ、そんな」


 バランバランは背後からの一撃をものともしないタフさだった。


「うらぁ!」


 宇田の反撃で、あっという間にガッシュのゲバラは半壊する。


「逃げろセリカ殿。私と、民の死を無駄にしないでくれ」


「この死に損ないが! 望み通り死ねぃ! あ、逃げんなセリカ、おおい。奴隷にするってのは嘘だから、友達からはじめよう。セックスフレンドって知ってる? おいこら待てー!」


「ごめんなさい……! すいませんガッシュ閣下、私の力が足りないばかりに」


 セリカは逃げた。

 領主の死を無駄にしないために。

 



「貴様にセリカ殿は追わせん。食らえぃ! 邪悪な聖剣士よ、ヒロイックストライク!」


「何かヘロヘロストライクだこっちはパイスラッシュだオラァ!」



 セリカのガンバインの後方で轟音がする。

 どちらが破れたのかは見るまでも無かった。

 

 




「宇田さんは、あの人は強すぎる……私ももっと聖剣士として成長しなければ」


 越えるべき、超えなければならない目標の打倒を誓い、セリカは戦場を離脱した。




 

 この日、ガッシュは聖剣士宇田に打ち取られ、ゲバラ隊も全て駆逐された。

 城は落城し、その全てはルアスの手に落ちた。

 そして新たな領土を獲得したルアスはさらなる力を得る。


 聖剣士と機械ゴーレムを利用したルアスの電撃作戦はヴェルンガルド王国諸侯に決定的な意識の変革をもたらした。

 人間の部隊は機械ゴーレム一体にも敵わない。

 要なりは機械ゴーレム、機械ゴーレムこそが戦局を左右する決定的な武力である。

 諸侯は各地で機械ゴーレムを作り始める。


 そして多数の機械ゴーレムを葬った宇田の力はヴェルンガルドに鳴り響き、ルアスの擁する暴力と恐怖の象徴として語られていった。


 聖剣士宇田は領主殺し、ロードスレイヤーとして名を馳せる。

 だがそれが悪名と名声を合わせた諸刃の剣となることを宇田はまだ知らなかった。


 そしてルアスもまたその急激な拡大と義無き暴力の行使が諸侯の反発を招き、多数の敵を作る事となった。

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