11.野望
他領への出撃前。
ルアスが皆の前で演説をかましていた。
指導者というものはよく演説する。
やる事さえやっていれば良いと思うのだが、どうもそういうわけには行かないらしい。
あくびをすると、横に並んでるアイーダに睨(にら)まれた。
俺とアイーダ、その他高貴な指揮官レベルの者は通常の兵士や騎士達とは違い、ルアスと共に軍に向かい合って立っていたからだ。
支配者層は下の者に隙を見せてはいけない。
下々に己の姿を見せ、常に意識させなければならない。とアイーダが言っていた。
「我々がギト家を討ち、聖剣士を召喚したのはひとえに我らに義があるからであると私は考える、神々が、我々に為すべきことを示しているのだ。この混迷するヴェルンガルドを救うため、人々を導くために我らが力を手に入れる必要がある。そして今、神々は我らに新たな聖剣士を与えもうたのはこの私にヴェルンガルドを治めよとの啓示(けいじ)ではなかろうか――」
演説長げーーーー!
もう20分以上は話してる。
校長先生かよ。
要するに「俺が世界征服するのは神の命令だから他家を滅ぼすのはしょうがない」と言っているのだ。
早く終わらないかなあ……。
ふと横を見ると
新参者達が訳もわからない様子で横にならんでいた。
ルアスが召喚した新しい世代の聖剣士達である。
俺の後輩達というわけだ。
「よっす」俺が小声で挨拶すると
「……」
「……」
「……どもっす……」ぺこり。
1人以外は無言で会釈だけ返ってきた。
なんか懐かしいなー俺達もああして緊張してたなーと感慨にふける。
まだそんなに時間は経っていないはずなのに、俺がこの世界に来た日が物凄く昔に思える。
彼らは今日は戦いを安全な場所から見学するに止まるらしい。
俺の代とは違い、じっくり育てる方針のようだ。
アイーダ曰く、最初に召喚した俺たちの損耗率が酷かったので次は手厚くする事にしたとか。
演説が終わると、俺たちはそれぞれ準備に追われた。
そんな中、
「見ろ、宇田。壮観だろう」アイーダが呟き、前の前の軍隊をしきりに褒める。
「まさか空中戦艦まで作るとはなー。どっから金出てんの?」
俺は機械ゴーレム装者に支給された鎧を着なおしながら答えた。
目の前には、あわただしく準備する兵士達、量産された機械ゴーレム群。
そして陸地に鎮座(ちんざ)した大きな軍艦がそびえ立っていた。
だが、目の前にある船は空を飛び、機械ゴーレムを搭載し、機械ゴーレムの母艦として機能する戦艦らしかった。
俺は311で船が陸地に打ち上げられていたシュールな光景を思い出した。
「これもルアス様の才覚による成果だ。我々が働けば、それだけルアス様は我々に富を与えて下さる。ここが踏ん張りどきぞ」
なんかアイーダは自分達の軍隊に陶酔(とうすい)しちゃってるらしく俺の質問が耳に入らないようだった。
今回は空中戦艦ゴラ……ゴライアスというやつに機械ゴーレムを載せて遠くの領地を攻めるらしい。
「沢山働けて嬉しいね、日本人は働き者で有名なんだ。最近は働き方改革なんて言って労働時間を制限しているみたいだが、ここヴェルンガルドには労働基準法なんて無いからね、働き放題だ、昨晩は新型の訓練のおかげで4時間しか寝てないけど気分爽快だよ」
アイーダのピンとした愛くるしいお耳に、俺の嫌味なジョークは入っていないようだった。
---
やる事が無くなって手持ち無沙汰にしていると、知らないおっさんが目の前に来ていた。
「聖剣士、宜しく頼む」
「すいません……誰?」
俺は知らないおじさんの前で委縮した。
オレ、人見知り(美少女以外)、オレ、知らない人、怖い(美少女以外)。
「ルアス閣下より空中戦艦ゴライアスを任されたベガと言う者だ。挨拶は済んだ、では」
ぶっきらぼうな艦長は、軽く挨拶すると空中戦艦ゴライアスに乗り込む兵士達に檄(ゲキ)を飛ばし始めた。
「貴様ら! 戦艦の中なら安全だからと思って舐めるんじゃない。手を抜いたものはその場で空から落とすぞ! 海の上とは違って溺れる苦しさは無いが、死体を野犬に食い荒らされたくはなかろう」
「ベガ艦長! ドーガの装備は――」
「手順通りにやれ! 機械ゴーレムの装備は貴様らの命では購いきれん価値だぞ。特に聖剣士宇田のバランバランに搭載するブレス・ランチャーは慎重に扱え!」
「色んな奴がいるなあ」
「ご、ご主人様、お水を持ってまいりました」
俺の奴隷。
大枚叩いて買った俺の獣人奴隷が、俺の元にやってきた。
「ありがとうミーちゃん」
俺は奴隷から水を受け取った。
「あ、アイーダ様も」
ミーは女騎士におずおずを水筒を差し出した。
俺の分だけじゃなく同僚の分まで持ってくるとは、なかなか気が利く奴隷だ。
「うむ」
「あー肩凝っちゃった、ミーちゃん悪いけど揉んでくれない?」
「はいです」
新妻ならぬ新奴隷は可愛らしく俺の方をもみはじめた。
ああーいい!
やっぱ異世界転生は良い。
己の才覚一つで成り上がれる。
「リアム様のことだが」アイーダが何か奥歯に物が挟まったような言い方をした。
「なに?」
「決してぞんざいに扱うことのないようにな」
「そもそもあいつって何なの? お前ら頭が上がらないみたいだけど」
「繊細な問題なのだ、彼女は、いや彼らはーーー」
いいかけて、アイーダはやはり口をつぐみ、どこかへ言ってしまった。
「なんだあいつ」
「あぅ、あぅ。ご主人様ごめんなさいです、もう手に力が入りません」
「いいんだよ、ありがとう奴隷ちゃん」
「えへへ、むふぅ。ご主人様の手、暖かいですぅ」
おれが頭を撫(な)でると、ほっとしたように息をついた。
ぐふふ、この娘はきっと処女だ。
幸い俺には懐いている。
いつか、手を出してやろう。
そんな事を考えながら、戦争が始まった。
--- ミー視点
ルアス軍の進軍が始まると、ミーは主人の宇田に戦艦内に用意された部屋に戻れと指示された。
主人は機械ゴーレムに乗り、戦闘準備のためミーに一時の別れを告げた。
「非戦闘員は艦内で待機! む、お前は――」
「あ、あの、私は聖剣士様の奴隷で――」
「邪魔にならないよう隅っこへ行ってろ!」
「は、はいです」
ミーは言われた通り、邪魔にならないよう艦の隅っこへ行った。
そして1人になり周囲に誰も居ない事を確認すると、ふところから葉巻を取り出し、火を付けた。
「ふー、従順に振る舞うのも疲れますよ全く」
ハーブ煙草を吸い、リラックスしたミーは白く細い足を投げ出し、窓から外を眺める。
誰にも支配されない至福の時間である。
戦艦はゆっくりと空は上昇し、前進しはじめた。
それに続いて地上では軍馬や兵士達も進軍を始めている。
「あーあーあー……せっかくセットした頭がご主人様のせいでクシャクシャですよ。ご主人、女の事全然わかってないですね。童貞ぽかったし女性と付き合った事無いんでしょうねー」
その時、戦艦がグラグラと揺れた。
慌てて手すりに掴まる。
「大丈夫かなぁ、落とされたりしたら冗談じゃないですよ。せっかく三食昼寝付きの生活を手に入れたのに」
奴隷に身を落としてまで獲得したものを失いたくはない。
自分の主人は少し頭が弱そうだが、上流階級の人間には間違いない。
貴族の懐に潜り込んだ事はまずまずの滑り出しである。
「後はご主人様を通じて出世するだけです。そしていずれ私は貴族の仲間入りをするんですよ、うふふ」
己の美しさは自覚している。
ふわふわの耳、愛くるしい容姿に控えめながらもでる部分は出ている肢体。
低層身分出身の少女にとっては、宇田は己の立身出世の足がかりに過ぎない。
「ご主人様、私のために沢山敵を殺して出世して下さいね♪」
獣人少女ミー・クンリロの野望はここから始まるのであった。
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