10.獣人奴隷


 俺は休日に、リアムと領内の街を散歩していた。

 

「やっぱ異世界だなー、オークやらリザードマンやら人間じゃねーのも普通に歩いてるし」


 俺は物珍しくて田舎者ようにキョロキョロする。



「えへへたのしーね、魔王様」


「なあ、その魔王様ってなんなの?」


 俺はリアムに質問するが


「えへへー」


 何度聞いてもはぐらかされるのだ。

 こいつは一体何者なんだろう。

 この世界に来てから暫く経つが、正体がいっこうに分からない。


 まあいいや。

 なぜ俺を召喚したのか、魔王の意味はなんなのとか、知りたいことはいろいろあるが、無理に聞き出す必要性も最近は感じなくなってきた。

 もう元の世界に帰りたいという願望はだいぶ薄れた。

 いつか教える気になったら聞けばいい。


「美味しい蕪(かぶ)だよ、甘くてとろけるよ」


「お二人さん、果実汁はどうだい! ほっぺが落ちるほど甘いよ!」


 街は商人や出店で活気があった。

 実写ドラマに出てくるような、見るからに中世ファンタジーな街だ。

 大通りは左右に店が立ち並び、往来は雑多な人々で溢れかえっていた。


「巫女様」


 通行人がいきなり頭を下げてきた。

 俺にじゃなくて、多分俺の腕にしがみ付いてるリアムに対してだ。


「巫女様」

「浄財を……」


 すれ違いざまに、人種、種族問わず、頭を下げて来たり硬貨を渡してくる人達がいた。

 人間だったり、オークだったり、頭部から耳が生えた獣人だったりするが、20人に一人ぐらいが頭を下げながら、ボソッとつぶやくように挨拶してくるのだ。


「お前マジでなんなの。怖いんだけど」


「リアムは偉いんだゾ」


「俺は?」


「魔王様はもっと偉いんだゾ」


「じゃあそれ寄越せよ」


 俺はリアムが受け取ったお金を根こそぎ奪い取った。








「これもルアス様の覇道の成果の一つだ。物流の中心がこの街に移行しつつある。経済の発展はこの世界を豊かにするだろう。ギト家が安穏とのさばり通行税をこの光景は無かった」


 と……後ろからついてきてるアイーダが力説する。

 いきなり喋り出すからびっくりした。


 そういえば、アイーダ(俺のお目付け役)も一緒に来たいと言うので連れてきたのだ。

 俺は軍にとって重要な地位に居るが、まだルアスに完全には信用されていないという事らしい。


「それはいいけど、顔大丈夫?」


「問題ない」


 とはいうが、アイーダの綺麗な顔に少しあざが出来ていた。


「女の顔に傷をつけるなんて悪いやつだなあのおっさんも」


「ルアス閣下(かっか)の行為は正当なものだ、私はそれだけの失敗をした。多数の機械ゴーレムを失ってしまった……」


「はぁーそっすか」


 アイーダはあの後しこたまルアスから罵倒され、殴られた。みんなの見ている前で。

 プライドはずたずただろう。



「ねぇー、こいつ邪魔」


「なんだよリアム」


「魔王様とリアムのデートなんだよ、こいついらない」


「俺はお前の方が要らねぇよ?」


「びぇえあえ!」


 リアムは泣きながら走って去っていった。


「俺は釣った魚に餌はやらないのだ」


「宇田、お前は酷い奴だな」


 それに、今日は一つ目的があったのだ。

 それには余計な奴には消えてもらった方がいい。

 リアムはああ見えて嫉妬深いオンナだ。

 これからやろうとすることには高い確率で反対するだろう。


 それは


「よっしゃ、邪魔者がいなくなったし奴隷買いに行くぜ」


 異世界転生と言えば、奴隷だ。

 奴隷を獲得する事が、異世界生活を始めるうえで肝要なのだ。

 俺の小宇宙(コスモ)がささやいていた。


「奴隷なら城にもいるだろう。お前の身の回りの世話はメイドがやっている」


「うるせぇ、異世界転生したんだから奴隷買わないでどうするんだよ、奴隷がいない転生なんて転生じゃない。奴隷市場はどこだ?」


「奴隷市場はないが商人が定期的にクナン地区で商売をしているぞ。特に今週はギト家の奴隷や身代金を払えなかった兵士達が売られている」


「よっしゃーー!!」


 俺はダッシュした。

 転生してからはじめての本気ダッシュだった。



---奴隷市場


 緑色の肌をした人型の怪物は


「おで! 力とゆい!」


 と言い、檻の中からつばと涎を飛ばした。


「くっせぇ、オークマジくっさい。風呂入れよ」俺は鼻をつまんだ。


「旦那、こいつは良いオークですよ力も強くて働き者だあ」


 奴隷商人はそう言いながら、オークのケツを鞭で叩いた。

 オークは「ンギィ!」と言いながら身震いする。



「いや、そういうのが欲しいんじゃない。分かるだろ?」


「こいつは去勢してるんで大人しいですよ。ほらっ」


 奴隷商人はオークのケツの穴に棒を突っ込んだ。


「がひぃ!」屈強なオークは嬌声を上げた。


「ひぃ」俺は悲鳴を上げた。


「きっとお気に召しますよ。こいつは頑丈だから何本でも咥え込みます、ご希望であれば歯を抜いて差し上げます、ただしその場合は流動食しか口に出来なくなりますので耐用年数は落ちますが――」


「お気に召しますよ、じゃねーよ!! 何が悲しくて怪物(モンスター)の尻穴(ア〇ル)に突っ込まなきゃならねーんだよ!! 聖剣士舐めんなよ!」


「げ、旦那。あの噂の聖剣士ですか。ひゃあ、お見それしました。ではとっておきをご紹介しますよ」



---


 奥まったところに案内されると、そこには1人の美少女がいた。


「こいつは掘り出し物ですよ」


 目の前には、頭に耳の生えた少女が震えて身をすくませている。


「ほう、他の客には出さないのか」


「へへへ、聖剣氏様は特別ですよ。あなた方が戦争しまくってくれりゃ沢山商売道具が手に入る寸法でさ。これはささやかなお礼ですよ」







 お礼と言う割には普通に金を支払わされたが、とにかく獣人奴隷は手に入った。


「み、ミーと申します。宜しくお願いします旦那様……」


「もう大丈夫だよ、俺が助けてあげたからね」


 俺はイケメンボイスで彼女をねぎらった。


 大当たりだ。

 つぶらな瞳、小さい頭、ふりふりの尻尾、もふもふケモ耳。

 どこからどう見ても美少女獣人奴隷である。

 やっべ、マジでこの子が俺の所有物になるの?

 超嬉しいんだけど。


「奴隷の首輪と縄はオマケしますよ」と奴隷商人。






「魔王様、どれーかったの?」


「うおっ、いたのかお前」


 いつのまにかリアムが後ろにいた。

 割と神出鬼没だなこいつ。


「丈夫そうな子でよかったね。きっと死ぬまで沢山働いてくれるヨ!」


 平然とミーを物扱いするリアムに、俺は背筋が凍る思いだった。

 やはり、異世界人の人権感覚は我々人権意識の向上した現代人とかけ離れているのかもしれない。

 奴隷の縄を握りしめながらそう思った。




「聖剣様、代金はこのようになります」


「領収書くれ、経費で落とすから」


 結論をいうと趣味で買った奴隷は経費で落ちなかった。

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