9.聖剣士ガンバイン その2

 

 ドーガの大剣とセリカのガンバインの大剣がぶつかり合い、轟音(ごうおん)と火花が闇夜を照らす。

 なんだか不思議な気分だ、こないだまで味方だったはずの同郷の女と今は殺しあっている。

 だが、不思議と違和感は無かった。

 まるで、台本通りのようにしっくりくる。


「おっ? なんか前よりパワーアップしてるな」


 軽口を叩くが、実際あんま余裕は無かった。

 負ける気はしないが、軽く転がせる程度の相手でもない。

 俺の方が完全に圧倒していると見積もっていたんだが……。


「馬鹿にして、私も聖剣士ですよ」


 鍔迫り合いでジリジリと押される。

 マジか、セリカが強くなってる。

 いやそれもあるがドーガのパワーがあまり出ていない気がする。


 馬鹿野郎、何がパワーはガンバインより上だ、ポンコツじゃねーか。

 こんなゴミゴーレムよこしやがって!

 俺の足を引っ張るんじゃない。


「ふざけろ!」


 俺の怒りに同調したのか、機体が震え、ガタガタと軋み出した。


「覚悟してください!」


「オラァ!」


 ドーガの足で、思い切りセリカを蹴り上げる。

 仰け反ったガンバインの隙を見逃さず、そのまま袈裟斬りにした。


 ガンバインの大剣ごと腕を切り落としてやった。

 いや、腕しか切り落とせなかったのだ。 

 完全に決まったと思ったのに、セリカめ、やはりパワーアップしている。


 だが勝負はついた。

 武器を失った片腕の相手に負ける方法は無いだろう。


「うぅっ」


「ぐへへへ」


 さて、どう料理してやろうかと思案していると


「聖剣士殿、お助け下さいー!」


 地上の兵達がうるさい。


 見ると、いつどこから入り込んできたのか多数の敵兵がこっちの軍と入り乱れて争っていた。

 なるほど、先に機械ゴーレムでこの場を引っ掻き回してから残党軍を投入して領主をとりもどす作戦だったのか。


 バギィ!


 アイーダのガンバインも大剣を弾き飛ばされて劣勢極まりない。

 やられるのも時間の問題だろう。

 俺が援護しなければ、地上部隊かアイーダはほぼ確で死ぬ。


「ちくしょー」


 あいつら使えねー!

 俺はセリカを見逃して仲間の援護に行く他なかった。


「今日は見逃してやる、次は必ず仕留める。そのでかい胸を洗って待っているんだな」


「洗うのは首ですよ」という突っ込みを期待していたが。


「次こそは貴方達の事を止めて見せます」


 と捨て台詞を残してセリカは戦線を離脱していった。





---




 セリカを除いたギト家残党軍は、俺の援護で勢いを増したルアス軍によりあっさりと鎮圧された。

 そして、残った唯一の機械ゴーレムゲバラを倒すだけとなった。




「ボロボロやんけ」


 アイーダのガンバインは既にボロボロだった。

 旧式の機械ゴーレムであるヴェイルのゲバラに圧倒されていた。


「何をしているアイーダ、その程度の相手に!」


 ルアスが言い放つと、


「うあああああああああ!」


 アイーダは叫びながらゲバラに飛び掛かった。

 あかん、これ返り討ちに遭うパターンや。


「やめぐぇぺ――」


 止めとけと言いたかったが、噛んだ。


「ずおっ!」


 ゲバラの操縦者は大した奴だ。

 後の先、とでもいうのだろうか。

 下段に構えた大剣を振り上げると、アイーダのガンバインの右半身を斬り飛ばした。


「おのれ! 若造め! ……それにしてもアイーダめ、目をかけてやっていたのに情けない」





「ほんじゃまー、次は俺とやろうか」俺が出て行こうとすると


「まだだ、まだやれる。宇田、邪魔をするな!」


 アイーダは難色を示した。


「いや、普通に負けてるじゃんお前」


「まだ負けていない」


「無理スンナ」


「旧式の機械ゴーレムに負けては私のルアス様に立てる面目が無い」


「このまま一方的に嬲られて負ける方が立場なくなりそうじゃね」


 アイーダのガンバインは地上にいるルアスに顔を向ける。

 あのおっさんが何を考えているか俺には分からん。

 が、面白そうな顔をしていないのは確かだった。

 元々初めて会った時からぶっちょう面だったけど。


 恐らく、アイーダ的には主人に対する何か思いがあるのだろう。

 この女騎士は、戦士としての側面と戦士達をまとめ上げるリーダーとしての立場がある。

 俺には知ったこっちゃないが、俺とそう変わらん年なのに大変そうだな。


「……グッ……わかった、お前に任せる」


 アイーダが渋々引き下がった。





「あいよ、じゃー大将。俺とやろうぜ」


「異世界から呼び寄せた聖剣士、確かウタとかいう男か。セリカの友なら見逃してやらないでもないぞ」


「別に友達じゃねーけどな」


 セフレにはなりたいけど。


「退け、お前に大義は無いだろう。ルアスの筆頭騎士(ひっとうきし)を倒した僕に敵うと思うか?」


「やってみなきゃ分からんだろーが。人、見た目、判断する良くない」


「覚悟しろ、後悔しろ、懺悔しろ。貴様のような軽薄な男に私の信念が負けることは無い、他の異世界人の後を追うがいい!」



 俺とヴェイルの決戦が始まった。




---




「バカな……強い……強すぎる……」


 両腕を切り落とされたゲバラは立っているのもやっとだった。


「セリカのガンバインの方がもっと強かったなー」


 とどめの一撃。

 ドーガの大剣で下段を横なぎに斬る。

 バキョ! っという乾いた音と共に、ゲバラの両脚もその胴体から離れていった。

 ズシンと重量感のある音を立てながら、ダルマになったゲバラが地に仰向けとなる。


「はい、おしまい。お前弱すぎ。中身出てこいや」


 両手両足を切り落としたゲバラを、蹴飛ばして転がした。

 全ての機能を喪失した機械ゴーレムは主人たるヴェイルを吐き出し、その役目を終える。



「がっ!」


 ヴェイルは操縦席から飛び出して地面で受け身を取るも、俺との戦闘中に傷ついたのか既にボロボロでまともに動ける状態ではないように見えた。


「ち、父上、申し訳ありません。今お助けしますから……」


 領主の息子といえば王子様も同然だろうに。

 地面に這いつくばる姿は惨めなものだった。

 敗軍の将というのは哀れなもんだなぁ。


 仲間の死体と俺たちの視線を受けながら、ギト家最後の希望は最後の力を振り絞って地面を這いずり、父であり領主の元へ向かう。


「ヴェイル、おおヴェイルよ。すまぬ、このような結末をお前に迎えさせることになろうとは。無念だ、ああ無念だ。この地で果てるは無念」


 縛られ、首を括られ処刑を待つ領主は、一族の非運を嘆いた。


「父上、今お助けしますから……」


 もう完全に終わってるのは誰の目にも明らかだ。

 だが二人の心は繋がっているのか、名前を呼び合い励まし合う。


 まるで、映画のワンシーンのような悲劇に目を背けたくなる。


 普段は血に飢えた狼のような残忍な兵士達でさえ、父と子の哀れな場面に何か心を打たれたようだった。


 場が湿り出したところで、ルアスは処刑を執行させた。


 こうして、ギト家は領主と長子を討たれ完全に滅んだ。


 ルアスはギト家の領地と領民を完全に吸収し、我が物とした。

 ルアスが平定したギト家の領地はさらなる財産と軍事力の糧となる。

 それは、ルアスのヴェルンガルド世界に対する野心と野望がまた一歩前進した事を示した。





「アイーダめ、目をかけてやっていたが……」


 アイーダはその醜態を責められ、これまでの立場より若干ルアス家内での地位を落とす事となった。

 そして、それは俺がルアス家の家臣(かしん)として躍進(やくしん)する事にもつながる事を意味していた。

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