8.聖剣士ガンバイン その1


 日が暮れ、月明かりがルアス城と俺達騎士団や、処刑を一目見ようと集まってきた大勢の見物人の人々を照らす。

 そんな中、ギト家領主の処刑が始まろうとしていた。


 結局、ギトの領主は別動隊のアイーダと米田のおっさん達が見つけて捕まえた。

 俺が襲撃した村は完全に無実だった。

 あの村の人達には悪い事したなぁ。


「見よ! この者を。私利私欲に溺れ民と土地を蔑ろにした為政者の末路を。

神々は見ておられた、そしてこの男にルアスを通して天罰を与えて下さる」


 聖職者が皆を前に演説し、処刑の正当性を説く。

 ギト家領主は裁判にかけられ、死刑を言い渡された。

 ちなみに裁判官はルアスやルアス配下の貴族達だった。

 この世界は日本みたいに司法が独立していないのでその地域の偉い人が裁判官をやる事が多いらしい。





 城前の広場のど真ん中に、首つり台が設置されている。

 そして、敗北者であるギト家の領主が縄を首にかけられて死刑を待っていた。


 俺やアイーダ、召喚組で唯一生き残った米田と言う冴えないおっさんは機械ゴーレムに乗り、それを護衛する。


 この処刑は、ギト家残党に対するパフォーマンスだ。

 領主が殺されるぞ、悔しかったらかかってこいと挑発しているのだ。


 この処刑を止めに誰も現れなければギト家の権威は地に落ち、二度と這い上がってこれないだろう。

 そして止めに現れれば、その残党を俺達騎士団が仕留める。

 そういう段取りだった。


 実に悪役らしい作戦である。

 らしい、じゃなくて完璧に悪人だけど。

 俺もその片棒というか、両棒思いっきり担いでるんだよな。

 ついこないだまで普通の高校生やってたのに、トラックではねられたと思ったらロボットに乗り、首つり処刑パーティーに参加している。

 人生何が起こるか分からんな~。


 自分でも意外だが、現状にそこまで嫌悪感は無い。

 所詮、自分はこの世界の外様(とざま)。

 ここで起きている事は俺には関係ないという心理が働いているのか、どんなに悪いことをしようとリアリティーが感じられない。


 その事実は悪くないと考える。

 こんな殺伐とした世界でセリカみたいに正義感を振り回していたら命がいくつあっても足りやしねぇ。

 だったら、このまま感覚がマヒしていた方が楽だ。


 俺には誰が何しようが関係ないもん。





 ゴーン ゴーン ゴーン


 時を刻む鐘がなり、辺りを照らす松明が燃える。





「時間だ」ルアスが、一言呟く。


 死刑執行の時が来た。


「罪人よ、最期に何か言う事は?」聖職者が問う。


「ルアスよ、このパラディンの面汚しめ。しかし私はお前を哀れに思う」


 もう、覚悟を決めたのか、ギト家の領主は悪態をつき始めた。

 ルアスはそれに対し問う。


「哀れとは?」


「この世界の秩序を乱す貴様に未来は無い。貴様や、その家族、部下達は未来永劫この世界に汚名を残すことになるだろう。国王陛下は貴様の所業を決して認めないだろう、既に他のパラディン達も動き出していよう。お前は終わりだ、ルアス・バルタン。過ぎた野心が身を滅ぼしたな」


「ブフーーーーーー!」俺は思わず噴き出した。


「何がおかしい、異世界の若者よ」領主が俺を睨みながら言う。


「だってさー、あんたはそれ。死んでからあの世でニコニコ眺めてるのかい? 負け惜しみにしか見えないって」


 俺の嘲笑に、ルアスも乗った。



「フッ、クハハハハハハハハハハ!」


 高笑い。

 目は笑っていないが、それは『お前達も笑え』の意である。

 それに、他の兵士達も追従した。


「わははははは!」

「負け犬めー!」

「臆病者の息子はどうしたー!」


 それを見て、ルアスのおっさんは満足そうな笑みを浮かべる。

 暗闇に松明の明かりで照らされた禿げかけた頭が光っている。



「ん!?」


 その時、俺は上空に何か気配を感じた。

 それは、女騎士アイーダや聖剣士米田も同じだったようだ。

 魔力を持ち、機械ゴーレムに乗る俺達だけが感じ取れる、同レベルの存在の感知。

 離れていても、分かるのだ。

 敵が来た。




「宇田、米田。手はず通りだ」アイーダが俺とおっさんに命令する。

「おう」

「は、はい」



 バゥッ!


 破裂音がした。

 するとその場にいた兵士が、言った瞬間ミンチになった。

 粉々になってぶっ飛んだのだ。



「敵は上からだ!」


 兵士達が巨大な照光機のようなものを上にめがけて照射する。

 多数の光の線が夜空に光るビームを投げかける。

 しかし、未だにこの世界の科学技術がよくわからん。

 俺の知らないアイテムが次々と出てくる。


「裏切りの聖剣士セリカのガンバイン、それにゲバラだ!」


 兵士が発見すると同時に、俺にも見えた。

 セリカのガンバイン。

 それと領主の息子が操っているであろうゲバラ。


 前に切り落としたはずだが、セリカのガンバインは脚が修復されていた。

 恐らく、あいつらにも支援者がいるのだろう。





「父上、助けに参りました!」


 ゲバラに乗るヴェイルがゴーレムのスピーカーを使って地上に居る父親に話しかけた。

 その、黄色いゴーレムは大剣と、何か火器のようなものを持っていた。

 あれが火を放ち兵士を焼いたのだろうか。



「来たな、ヴェイル、そしてセリカ!」


 それを迎え撃つ俺。

 はっきりいって負ける気が全然しない。

 体中に力がみなぎっているのが分かる。

 これが聖剣士の力なのだろうか、日々、生きてるだけで己の力が増していくようだ。


 しかし、俺がそうだとすればセリカもパワーアップしているのかもしれない。




「今度は逃がさんぜ、俺の手柄になってもらう」


 ドーガを浮遊させ、ゴォォォっと魔力を背中の推進器から噴射し、ヴェイルとか言う奴が乗っているゲバラに向かう。


「宇田さん、貴方の相手は私です」


 しかし、セリカのガンバインが俺の前に立ちはだかった。





そして、ヴェイルにはアイーダと米田のおっさんがついた。


「宇田さん、もう止めてください! 我々の仲間になって!」

 

 突然、セリカが俺に説得コマンドを使い始めた。


「はぁ? 何言ってんだよ」


「貴方も分かるでしょう、ルアスは悪なんです」


「そんな事俺には関係ないね! 俺はこの世界を楽しんでるんだよ!」


「正気になって下さい、貴方は酷いことをしているんです」


「正気? 正気ってなんだよ! 元の世界みたいに毎日学校に通って爺さんたちの年金を払う労働者になるために勉強するのが正気の生活なのか? ここに居れば俺は特別でいられるんだ、それが異世界転生ってもんだろうが!」


「状況に流されてるだけじゃないですか」


「良い流れもあるッテんだよ。流されて何が悪い」


「っつ! なら、貴方を排除します!!」


 説得が無理と悟ったか、セリカはガンバインで剣を構えた。


「バカ女が! 俺とくっちゃべってる間に先手の利を失ったぞ!」


 セリカめ馬鹿な奴だ。

そう、馬鹿女だ。

 せっかく良い身分を与えられたのに、それを放棄して命を投げ出している。

 俺は戦闘中にも関わらずあいつの体を想像した。

 ハーフらしく日本人離れした凹凸のはっきりしたスタイルに栗色の長い髪、青色の瞳。

 なんとか生け捕りにしたいもんだ。

 そうすりゃぁ……うへへへ。




「うあああ!」


 俺が妄想してると、米田のおっさんのガンバインが敵(ゲバラ)にやられていた。

 ゲバラの大剣が引き抜かれると、ガンバインは浮力を失ったのか墜落し、爆発四散した。


「マジか、おっさんやられるのはえーよ」

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