5.チュートリアル戦争

 前回までのあらすじ

 鈴木宇田は異世界の少女のハニートラップにかかりトラック転生を余儀なくされた。

 ヴェルンガルドの一領主ルアス・バルタンは鈴木達を迎え入れ、自らの手駒とするべく機械ゴーレムという二足歩行ロボット、ガンバインを与える。

 宇田は初めて乗ったガンバインでドラゴンを倒し聖剣士として華々しい働きをした。

 前世で童貞だった宇田は巫女リアムとの性行為にドハマリしこの異世界に傾倒しつつあった。



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 ルアスは騎士団を前に演説をかましていた。


「これは聖戦である、罪なき我々の民を殺害し、生活を侵害し、道義なき暴力に溺れたギト家を正し、このヴェルンガルドの地に秩序を回復させる。諸君、我々は悪か、正義か?」


 俺たちはガンバインに搭乗し、馬に乗った騎士やら槍や弓を持った歩兵達の後ろでボーッと突っ立っている。


「正義だー!」

「やつらに天罰を!」

「ギト家の奴らを殺し、その土地を賠償金として貰おう!」


 騎士達が次々と呼応する。


「なんか映画とかで見たわこういうの」


「でも、私達が見ているのは本物ですよ」


 セリカの言う通り、平原を挟んで向かい合っている敵の軍隊は本物だった。

 まるでドラマのように整然と並ぶ甲冑に身を包んだ兵隊達を見ていると、頭がクラクラしてくる。

 互いに1000人ぐらいはいるんだろうか。

 途中まで数を数えたが、飽きて止めた。


「殺し合いになるんでしょうか」

「さあねえ、でもやるしかないだろ?」

「話し合いでなんとか……」

「ガンバインから降りてあっちに行ってみたらどうだ? もしかしたら平和的に解決できるかもよ」

「……」


 分厚い装甲と強力な武器を持った俺たちは一段上にいる。

 そこから降りようとする馬鹿は流石に俺たちの中にはいなかった。


 ガンバイン、俺はこれを美しいと思うようになっていた。

 こっちの世界の鉱物に魔法を込めて練り上げたお手製ロボットだが、その姿は洗練され、まるで白い騎士のようである。


「あー良かった、弓やら槍やらの前に生身で立ち向かうなんて冗談じゃねえよ」


 ぷおー

 ぷおーーー


 と、気の抜けたラッパのような音が聞こえてくる。

 開戦の合図だ。


 俺たち異世界人、聖剣士組は横一列に九体並んで行進し始めた。


「聖剣士殿方、隊列は崩すさず行進されたい」

「はいよ」


 ルアスの女騎士アイーダは唯一の現地人聖剣士だ。

 俺達は彼女の指示に従い動く手はずとなっている。

 そして裏切ったら殺すぞと暗に圧力をかけられていた。



「わ! っとっと」

 他の奴のガンバインが地面にあったでかい岩に躓(つまづ)きかけた。

 ドシン! と大きな音を立て、機械ゴーレムが膝と手を突く。


 近くに居たルアス軍の歩兵が「ぎゃぁ!」と悲鳴を上げる。

 生身の人間から見ればでかい重機が落ちてくるようなものだ、ビビるのも仕方がない。

 当たれば痛いなんでもんじゃない、実際トラックに引かれた俺が言うのだから間違いない。


「聖剣士殿、気を付けて頂きたい。我らの仲間を踏(ふ)みつぶさんようにな」

「す、すいませんアイーダさん」と、まだ俺とあんま会話した事無いおっさんが謝罪する。


 どうも、俺以外の連中はイマイチこの巨大兵器の取り扱いになれていない。

 一番マシなのはセリカだが、他の地球人は飛ぶこともおぼつかず、のたのた歩くのが精一杯だった。

 ぶっちゃけ俺だけ飛んで上から岩でもなんでも投げつければいいんじゃないかと提案したがそれはアイーダに却下された。


 やっぱ、まだ信用はされてないらしい。

「俺が裏切ったら困るもんなー?」とは口には出さなかった。

 信用できないのによく使うよな、だがしかし、それでも使いたいのだろう。

 実際、この巨大人型ロボットの威力は凄まじかった。


「機械ゴーレム隊が敵の陣形を崩す。騎兵隊は側面から、射出と魔法兵は合図で射て」


 ルアス軍の指揮官が指図すると、戦闘が始まった。

 両軍が正面からぶつかった。

 そしてそれは、一方的な戦いとなった。



「ひぃ! う、宇田さん、敵の人が……」


 ふと足元を見ると、ロボットにグチャグチャの肉片がこびりついていた。


「あー潰れてるねえ……」

「こんなの一方的過ぎますよ」


 訂正する、戦いというより殺戮(さつりく)だった。


 俺達聖剣士組は、特に剣を振るう必要もなかった。

 歩いて敵の集団に突っ込むだけで敵がぶちぶちと潰れていった。

 敵の歩兵は陣形を律儀に守り、槍を構えて俺たちに踏み潰されるのを待っていた。

 まるでアリのようだ。

 しばらくすると、流石に巨大な敵に立ち向かうことが愚かだと気がついたのか、歩兵は散り散りに逃げていく。


 勝負にならない、圧倒的な戦力差だ。

 まだ銃すらない中世な世界に、戦車よりでかいロボット使うんだもんなあ。


「戦列が崩れだぞ、騎兵隊、追撃しろ」

 アイーダが指示を飛ばすと、側面の森から馬に乗った兵の集団が飛び出してきた。




「首を吊るせ! 臓物(ぞうもつ)を吐き出させろ!」


 味方の騎兵隊は旗を掲げて敵に突撃する。

 その旗の、紋章という旗の一種らしいが、その旗には"首を釣られる男"の絵が描かれていた。

 ちなみに紋章というのは敵味方を識別するためのもので、その家の家訓みたいな物を絵にしてるとか。

 ルアスの家の家訓は『法と秩序が平和を守る』と言うらしい。

 法を破るものの首を吊るして殺すことが平和を守るんだと。

 どう見ても趣味の悪い紋章だ。


 そして騎兵隊の突撃で完全に崩壊した敵の軍隊は、逃げ惑う人々の群衆となった。


「おーい、これいつ終わるの?」

「ギト家の指揮官、ダギルスを捕らえるまでは終わらん」と、アイーダ。


「つっても、他の人等限界みたいだけど」


「ひっひっひぐ。酷い酷い酷い、こんな事させられるなんて」

 他のガンバインの操縦者は引きつけを起こしたような声を漏らしていた。

 多分、この声はスーパーの買い物帰りに車にひき逃げされた主婦だ、名前は一度聞いたけど忘れた。


「いやぁ、もう嫌やめてぇ!」そして、彼女はとんでもない行動に出た。


「何トチ狂ってんだあのババア」

 主婦は何かメランコリックな気分になったのか操縦席の正面ハッチを開けて外へ飛び出した。

「もう殺す必要なんて無いじゃないの! 戦争はもうやめて!!」

「馬鹿者ぉ! まだ戦いは終わってない、ゴーレムに戻れ! その高さは射手の良い的になるぞ!」アイーダが叫ぶ。



「危ない、荒木さん!」

 セリカが助けに行ったが遅かった。


 どこからかビュッと矢が飛んできたかと思うと

「あがっ」

 荒木って主婦のおばさんの喉に突き刺さった。

「ギギギ、カハーッ、カハーッ、ヒュー ヒュー ヒュー」

 主婦の喉から、空気の漏れる音が聞こえる。

 矢ガモならぬ矢人間である。

 喉を貫通した矢はべっとりと血を纏わせ、刺した彼女の命を絶つ事に成功した。


 ガンバインはその人間が放つ魔力を燃料にして動いている。

 主人を失った機械ゴーレムは前のめりになって倒れ込んだ。


「馬鹿め、何故そんな愚かな死に方ができる、異世界人!」アイーダが毒付く。

「そりゃ素人連れてきてグロ死体見せまくればパニくるだろ」

 正味なとこ、俺も平気と言うわけではない。

 ネットでグロ動画で耐性は有る方だと思うが、臭い発つような戦場の光景には少し辟易する。




 ともあれ、大勢に影響はなく、そのままルアス軍はギト軍を押しつぶし、ほぼ壊滅させた。


 巨大兵器にのった俺と生身の人間、勝負になるはずもない。

 剣でも槍でも弓矢でもガンバインの分厚く硬い装甲を破る事は出来なかった。


 俺がガンバインの持つ大剣を振るうたびに敵兵の臓物が舞い、肉片が剣先にまとわりついた。

 戦いが終わる頃には肉片(ミート)ソードになっていた。


 後に聞いたところによると、これが機械ゴーレムが始めてまともに戦争に使われたという。

 この戦争が、今後の世界の常識を変えた。

 そしてそれは、このヴェルンガルドに凄惨な戦火をもたらす合図となったのだ。


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