4.初陣

 

 人型の10個の巨石は、整然と並び俺たちを出迎えた。


「でけぇ、なんだこれ」

「これが異世界人殿方をこの地へ召還した理由だ」

 眼前に巨大なので岩の塊が広がっていた。

 しかし、それはどう見てもただの石では無かった。


「機械ゴーレムと言う、こうして、動かす」

 ルアスの部下の女が、人型の岩石の内部に乗り込むと、岩石は大剣を持って振り上げた。


 五メートルにはなろう巨人はその手を地面に叩きつけた。


 ドカン! という破裂音と共に広場の地面に敷いてあった石畳が砕け散る。


「話の筋が見えてこよう、つまり、異世界人殿方にはこれに乗っていただきたい」

「なぜ俺たちなんだ?」

「我々ヴェルンガルド人はこのゴーレムと相性が悪い、まともに動かす事が出来ないのだ」

「あんたは動かしているじゃないか」

「私のように魔力の波長が合う物は数少ない、異世界人殿方なら大方合うとの教団の方々の教えだ」


 ルアスの女部下はリアムの方を見て、何か苦々しげな顔をしたのを俺は見逃さなかった。


「その、教団てのは何なの?」

「一度に多くのことを知る必要は無い、まず各々方にはこれの操作を覚える義務がある」



「その義務を果たした先に何があるってんだよ!?」

 ジャナムが叫んだ。

「相応の待遇を約束しよう。このゴーレムを動かせるものは貴重である。本来ならば叙任されなければ騎士として扱うことはならぬが、其方らは騎士待遇として召しかかえる」


 召し抱えられたくないんですけどー。

 とは言える雰囲気じゃない。


「断れないんですか?」

「ふん」女部下、いや女騎士は鼻で笑った。

 この女部下はどうやら他の兵士達より一段上の階級にいるようだ。


「あぅ……」

 セリカは黙りこくった。

 昨日の話の蒸し返しを彼等が認めるはずがないと気がついたのだろう。



「おもしれーじゃん。ロボットには一生に一度は乗って見たかったんだ、お台場のアレも立っているのを見るだけだったしな」


 俺は機械ゴーレムの縁に設置された足場を登ると、胴体の内部に作られたゴーレムの操縦席? に入ろうとした、すると技師が遮った。


「構わん、積極的なのは歓迎だ」城主ルアスはこちらを見上げて鷹揚に言った。

「話のわかる王様だなあ」

「異世界人殿、いや、これからは聖剣士殿と呼ばせてもらう。鈴木宇田殿、私に力を貸してもらえるかな?」

「まぁそう急かさないでくださいよ、こっちで就職するかどうかは会社の中を見て見ないとね。でも、最初にブラックなところ見せられちゃったから色々考えないとなー」


 俺は軽口を叩いてみせた。

 勿論、リアムに対するルアスの態度も計算に入れている。


「宇田殿、無礼であるぞ」と、女騎士。

「よい、アイーダ。異世界の聖剣士殿はこの世の作法は疎い、おいおいだ」

「はっ……ルアス様の御心のままに」


 そのとき、鐘がなった。

 ガーンガーンガーン!


「パラディン様ー、ルアス様ー!」

 なんか、兵士の一人が走りながら来た。

「何事か」


「ギト家が飛龍にて奇襲をかけてきました!」

「紋章は掲げておるか!?」

「いいえ」

「ではなぜわかる!?」

「あの飛龍はこの地のものではございません、ゴーザ渓谷産地であることは私の目をもってして見抜いてございます。我が方の飛龍でも野良火龍でも無いとすればかのものはギト家の飛龍に間違いございません」


 その時、爆発音と叫び声が聞こえた。

 城の反対側から何が燃えるような煙と喧騒が上がっている。


「アイーダ! 聖剣士の矜持を示せ!」

「はは、ルアス様」


「異世界人殿方、この世界で生きていきたくば聖剣士となり己の価値を示して見せよ」


 どうやら他の人らもそれぞれ思うところがあったのだろう。

 一晩じっくり考えて腹が定まっているようだった。


「お、俺はやるぞ」

「私も、死にたく無い!」


 俺達異世界人達は次々と並んでいるガンバインに乗り始めた。


「アイーダ、騎士の名にかけてこの者らを率いて見せよ」

「ははぁ!」アイーダは大仰に返事をした。


 そして俺たちに向かって

「敵は上だ、飛べ!」と言い放った。


「どうやって飛ぶんだよ、つかこれ飛ぶやつなのか?」

「感じろ、そうすれば飛べる」

「おっおっお。飛ぶぞこれ、マジで飛ぶわ」


 浮遊感。

 見ると、地面がグングン離れて行ってる。

 つか、これ航空力学的に大丈夫なのかよ。


「うああい!」


 ドズシン! と音がした。

 他の奴のガンバインが飛んだ直後に落下したのだ。

 同時に、兵士や雑用係達の悲鳴が聞こえた。


「修理士を踏み殺す奴があるか馬鹿者ぉ!」アイーダの怒鳴り声が聞こえる。

「初心者どころか今初めて乗った奴に無茶いうな」

「感じろ、そのままに動け!」


 阿鼻叫喚である。

 誰かのガンバインの下敷きになった人が叫び声をあげていたが、少しすると静かになった。

 この機械ゴーレムと言う奴が何キロかは知らないが、自動車よりは遥かに重いだろう。

 その体重を一身に受けて無事ですむはずがなかった。

 落ちたガンバインとか言う機械ゴーレムが立ち上がると、ぺしゃんこになった人の死体が見えた。

 何故死体とわかったのかと言うと口から内臓をぶちまけていたからである。



「おえっぷ」

 セリカの吐き音が聴こえた。

 どうやら操縦席から他の機械ゴーレムからの音も拾えるらしい。

「おぇええええええ! ごぷっごぷっごぷっ、おぇええええええ!おぇええええええ! おっおっおっ。ふぅ、ふぅ、ふぅ」

「大丈夫か?」

「す、すいません。朝食べた物全部戻しちゃうおええええええええ! えっえっえっ。だって、人が、人があんな風に潰れて……うぇええええっ! うぁえええええっ……」


 セリカのゲロの生演奏は恐らくガンバイン全てに聞こえている。

 誘爆した他のガンバイン搭乗者から嘔吐の音が聴こえるまでは間がなかった。

 俺は、美少女のゲロならともかく知らないおっさんのゲロ音は聞きたくないと思った。





---




 俺はすぐガンバインに慣れた、なんか夢の中で飛んでる時の感覚だ。

 思えば動く。

 難しい操作は必要ない、自分の体の延長戦の感覚で動かせる。


 他の奴等は動かすのもやっとという感じだ。

 俺、ちょっと才能あるかもー。


「魔王様、ガンバー」

 下でリアムが手を振っていた。

 俺はガンバインの手を振って返した。


「迎撃するぞ、付いて来い!」


 アイーダの要請に応えられたのは俺とセリカとジャナムしかいなかった。

 他の奴らは歩いたり動かしたりするのが精一杯で空を飛ぶどころでは無い。


 上空にしばらく飛んだところでアイーダが叫んだ「飛龍だ、必ず仕留めろ!」


 おいおいまじかよ、マジでデカいんだけど。

 飛龍、つまりドラゴンはガンバインと同じくらいかそれ以上に大きかった。

 その巨体の上に人が乗っているのが見えた。

 やっべ……あっちの方が強そうじゃん、ロボットよりドラゴンの方が欲しいんだけど。


「ギト家め、最大戦力を繰り出してくるとは大胆な。初手で我等を滅ぼすつもりか、見くびられたものだな」

 アイーダが呟くと同時に視界が真っ赤になった。

 なんだ? 何が起こってる?

 ガタガタガタと、ゴーレムが振動し、地震みたいだ。


「宇田さーーん!」セリカの声がする。

「え、なになに?」

「大丈夫ですか?」

「いや、大丈夫っつか……目の前が赤いんだけど、後めっちゃ揺れてる。何これ、画面の故障?」

「あの、あの龍が火を……」

「ガンバインの装甲なら問題ないはずだ、飛龍のファイアブレスにも耐えられる」


「ざけんな、早く言え!」

 俺は急上昇した。

 すると、視界がひらけた。

 ドラゴンを見るとめっちゃ巨大な火が口から出ているのが見えた。

 つまり、俺はドラゴンから火炎攻撃を食らっていたのだ。




「クッハーーー!」

 ジャナムのガンバインが剣を振り上げ、変な声出しながら突っ込んだ。


「はぅぅ、はぁ! はぁ!」


 ジャナムの激昂とセリカの萎縮がガンバインを通して伝わってくる。


「待て、迂闊に突っ込むな」


 あっと思った時には遅かった。


 ジャナムのガンバインの背中に生えている翼のような物が折れたかと思うと、ジャナムは墜落していった。

「助けてくれー! 宇田、せりかー!」

「いや、どうやって?」

「あー!」

 ジャナムのガンバインはそのままクルクルと回りながらゆっくりと落ちていき、見えなくなったと思ったら、地上がパッ!と明るく輝いた。


 要するに、墜落し地面に激突し爆発した。

 死んだのである。


 は? マジで?

 もしかしてこのロボット、結構脆い?

 ツーことは、俺も殺されるんか?


 その瞬間、俺は沸騰した。

 殺らねば、やられる。


 その時、ドラゴンが叫んだ。


『ギィヤァァァァァスッ!』

 

 殺せ、やるんだ。

 そうしなければ生き延びられない。

 俺は剣を構えた。









---




 その後のことは覚えていない。

 気がついた時にはロボットから降りて叫んでいた。


「ドラゴンスレイヤー! ドラゴンスレイヤー! 聖剣士宇田!」


 人々が、俺を賞賛する。

 兵士達、メイドや雑務を担う一般人達も。


 俺はその声を無視してリアムを探した。

「魔王様ーすてきー」

 リアムの腕を取り、城内へ入っていく。

「まおー様?」


--


「あっあん、あん。魔王さまぁ」

「ふっぐっふっ!」

 リアムの嬌声と、俺の荒い息だけが自室の中に響く。

 どうしても、我慢できなかった。

 俺は生き残った。

 俺には才能がある、あっちの世界じゃどう足掻いても得られない特別な才能が。

 今日この時点で、俺はこの世界で生きていくことを決めていたのかもしれない。


「ぐ、うぅ!」

 快感が最高潮に達すると、俺はリアムの腰を掴み、抱きついた。

 やばいこれ、死ぬ、気持ち良すぎて死ぬっ!

 自身の熱量がリアムの体内に移行すると、俺は失神するように倒れこんだ。






 ジャナムの死体は見つからなかった。

 ガンバイン事爆発し、完全に蒸発したらしかった。

 あいつは元の世界に帰れたんだろうか。

 それとも……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る