あだばな道中
雨が葉を叩く音がする。自慢の白い足にぬかるんだ泥がもつれる。
どこまであるけばいいんだい。朋友の結い髪はどろりと崩れている。
もうじき。と励ます声も、もう何度目か。
振り返れば、同じようにやつれた娼妓が列をなしている。
止まるわけにはいかない。引き返すわけにはいかない。
それだけ足抜けの罪は重い。
女たちの行軍は死んだようだった。森は雨の音ばかりがした。
空が白み始めたころ、ふと人里の気配がした。
くににかえってきたんだ。紅の剥げたくちびるから次つぎに歓声が上がる。
着物を蹴立ててみなそれぞれに、駆け出した。駆け出した。駆け出した。
駆け出した。
しかし女たちの声はうしなわれた。
石の塔。神殿の柱。崩れた壁。かつて滅んだ遠い文明がそこに遺されていた。
とつくにだ。異国だ。異境だ。ああ。
私は呆然とする。はるか、もはや国には帰れまい。後続の女たちにどう申し開きをしたものか。ここでどうして生きていけようか。
なに、おなじことをするだけさ。座り込んだ朋友の紅がやけに朱く見えた。
夢紀行 ナギラセツ @senka__
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