33:再びのフリーフォール
槍度島武志。
それがシゲの兄貴が教えてくれた名前だった。
彼が憎々しげに語る所によると、槍度島は控えめに言って大したクズ野郎らしい。
「お目溢しと引き換えに、ウワマエをハネよる。……スジモンより、よっぽどタチが悪いわ」
四方津市警の生活安全課に所属する槍度島刑事は、ヤクザ達の違法活動を見逃す代わりに、裏社会でやりたい放題。
駅前の繁華街でも、相当幅を利かせてた、とか。
タダ飯、タダ酒、もちろんエロスなサービスもタダで。
(これぞまさに汚職警官、って感じだな)
それでいて警察内部では目立ったトラブルも起こしていないのだから、世の中腐ってる。
もちろん、今回の連続殺人事件の捜査線上に現れたことで、だいぶマズい立場に立たされているみたいだけど。
(……それも当然だよな)
ごく普通の女子大生への集団暴行を見過ごす、どころか、暴行の輪に本人も加わってたって言うんだから。
だいぶ穏当な表現を使うとしても、黒焦げになるまで感電させてやろうかと思う。
「……この情報を教えたら感謝するかな、エザワ」
「どうだろ。ゴリゴリの復讐者が、よく知らない高校生が仕入れてきた話に取り合うと思う?」
思わない。ネットのゴシップにしか聞こえない。
まあ取り急ぎ、親切で素直になったヤクザ達をほったらかしにして。
俺は、改めて槇田医師の後を追った。
今度は慌てず、ペガサスに乗る。
エザワ・シンゴを探している俺と会った彼女が行く所は、一つしかない。
(エザワの潜伏先。やっぱり知ってたんだろ、センセー)
槇田センセー、よっぽどエザワに入れ込んでいるみたいだな。
深入りするなって言ったのに。
「とにかく、ヤクザ達に先回りしなきゃ。急ごうブリュンヒルデ」
「余計な時間食ったからね……飛ばすよ!」
さっき、ヤクザ達にクローンスマホを奪われたのが痛かった。
ハイエースと一緒に粉微塵になったのは良いが、それ以前にシゲの兄貴達が他の連中と連絡を取っていたらしい。
「畜生、やっぱりヤバいよな。エザワは怪我してるし、何よりセンセーがいる」
「結構なハードモードよ! 相手何人いるの? って感じだし」
いくら
何より、センセーが危ない。
クソ、ヤクザの車見つけたら、全部雷落としてやろうか。
「だから目立つの禁止だって言ってんでしょ! ほら、もう見えてきたから!」
槇田医師が向かった先は、槇田動物病院から車で十分ほど(ペガサスなら三分)。
バブル華やかなりし時代に建てられた広大な団地。
今や住民達は姿を消し、残されたのは寂れ朽ちた住宅群のみ。
「ほら、見えてきた! あの敷地よね? エザワくん達はどこ!?」
「えーと……あそこだ!」
見つけた。
黒塗りの車が数台向かっていく先。
迷路のように入り組んだ団地の中心部。
「よしッ、じゃあ清実ちゃん――」
「ちょっと待てッ、もう突き落とすのは無しな!」
ブリュンヒルデが振りかぶった腕にしがみつく。
この前やらされた六百メートルの自由落下、マジでおしっこ漏らしそうだったんだからな!
「ええい、じゃどうすんの!」
「いや、そこはほら、もうちょっと近づいてからゆっくり降りるとか」
「いきなり人が現れたらおかしいでしょ! 目立つの禁止!」
いや、高空から降ってくるのも、十分おかしいだろ。
危うく銀河連邦の一員になるところだったからな、俺。
「四の五の言わない! 一刻を争うんでしょーが!」
有無を言わさないブリュンヒルデの腕力。
ゴリラじみたパワーで、俺はあっさりと空中へと放り出され。
「だっ、やめ、わああああああぁあぁぁぁぁあぁぁぁあっ!!!!」
きりもみしながら、マンションの窓へ飛び込んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます