29:餅は餅屋、殺人犯は警察

 エザワ・シンゴ、二十歳。男性。

 四方津市内に住む大学生。独身。


 そして現在、指名手配中の連続殺人犯。

 実に十一名もの人間を惨殺し、それでもなお逮捕に至っていない。

 今、日本中が注目している男。


「そう。その彼について、居所を知りたいんですよ」

「……ふざけているのか。君は」


 触れただけで切り裂かれそうなほど鋭い視線だった。


 彼女は、ウノハラ・シノブさん。

 四方津市警に勤める刑事である。怜悧冷徹な捜査官にして、愛しい妹のためなら容疑者の私刑も厭わない超武闘派シスコン。


 一応言っておくと、まあ美人は美人なんだけど、どちらかと言えば研ぎ澄まされた抜き身の美しさ、というか。ライダースジャケット似合い過ぎというか。

 まあ余計なこと言うと殺されると思う。てか殺されかけたし。


 いつも人の出入りが絶えない四方津駅の待合室でも、彼女は静かに喋る。


「突然連絡をよこしたかと思えば。どうして私が、君にそんな情報をリークすると思ったんだ」

「まさかと思いますけど。あの時の動画・・・・・・、シノブさんが持ち帰ったのが全部だと思ってます?」


 向けられる視線の温度が五度下がった。背筋がゾクリとする。


「脅すつもりは無いんです、マジで。ただ、こっちも結構切羽詰まってて」

「……君は、何が目的なんだ?」

「別に、誰かを傷つけたり、苦しめたりしたい訳じゃないです。金が欲しいわけでもなくて。ただ、人生をやり直したい、というか」


 異世界チートのんびり田舎暮らしの末に奇祭ハーレムフェスで村おこし、とか言えるわけがない。


「話がつながらないな。私達姉妹をつけ回したと思えば、次は連続殺人犯を追い回す。それが君の人生と、どんな関係がある」

「風が吹くと桶屋が儲かるでしょ。それと同じです」


 さらに視線が冷たくなった。怖い。


「……君は、妹を、エリカを救ってくれた。あの殺害予告の男も救おうとした。エザワも、そうなのか?」

「そうです。と言ったら、手がかりを教えてくれますか」


 シノブさんの視線が、少し揺れた。


「……市警は今、ヤツを追ってない」


 なんだって?


「捜査してない? 指名手配犯なのに?」

「理由はいくつかある。だが、一番の理由は、ヤツが『どこにいるか』は問題ではないから、だ」


 なんだなんだ、回りくどいな。


「……次に誰が狙われるか、知ってるってことですか」


 シノブさんは小さく頷いた。まるでそれを認めたくないみたいに。


「ヤツは、ただの衝動的なシリアルキラーじゃない。殺しは全て計画的だ」


 なるほど、ますます恐ろしい転生候補者だ。ブリュンヒルデも喜びそう。

 仮に転生しても、普通にチート無しでやっていけるんじゃないか?


「つまりエザワ・シンゴには目的がある、と?」


 シノブさんは、手に持っていた缶コーヒーを一口飲んで。


「……復讐だよ」

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