30:倍返しではまだ足りない

「で、収穫は?」


そう問いかけてくるブリュンヒルデの金髪には、まだ寝癖が残っていた。

しかもファンシーなパジャマ姿だし。

コイツ、マジでさっきまで寝てたのか……もう夕方だぞ。


「エザワ・シンゴは勇者エインヘリヤルに相応しい男みたいだ。チートや魔法もなしに十一人殺して、十二人目も狙ってるって」

「えー、それはそれは。素人が、戦争のない時代に十一人! 天才だねえ。探せばいるんだなあ、原石が」


何故か嬉しそうに、ブリュンヒルデ。

相変わらず戦乙女ヴァルキリーの倫理観はズレている。

サイヤ人みたいな思考回路だな、ホントに。


「誰の首級をあげたの? まさか子供じゃないよね?」

「同じサークルの同級生を五人、大学OBの社長を一人、チンピラ四人、ヤクザを一人。全員男。特にチンピラとヤクザは武装して待ち構えてた。しかも、ご丁寧に全員拷問してから殺したらしい。社長なんか、焦げてない肌の方が少なかったってさ」


聞いてるだけでげんなりするような殺しっぷりだ。

話している時は、さすがのシノブさんも顔色が悪かった。


「ますます逸材だねぇ。なんでそこまでやったんだろ」

「復讐、だそうだ。エザワの恋人は、今回の被害者達に暴行された後に殺されたんだと」

「憎しみ。うんうん、本物の戦士だねぇ」


戦闘民族、恐るべし。

俺はうんざりした気分で、クローゼットを開ける。


「で、その、十二番目の標的っていうのは、どんなヤツなの」

「一番手強いヤツ」


クローゼットの中には、相変わらずコスプレグッズが満載。

俺のじゃないぞ。優香さんの趣味、らしい。怖くて本人には聞いてないけど。


「えー、軍人? 格闘家?」

「惜しい。でも、似たようなもんかも」


まあ普通かな、と言える服から、一体どこで着るんだというコスプレ衣装まで。

有象無象をかき分けて、掘り返したのは。


「……あー、警官ね」


帽子から革靴まで、一式揃った警察官の制服。無線に防刃ベストも。

どこから仕入れたんだよ……と疑問に思うが。


「チンピラコスプレの次は警官コスプレか……癖になりそうだな」

「優香ちゃんが聞いたら、喜びそう」


おいよせやめろブリュンヒルデ、俺のピンク妄想は百八まであるんだぞ。

てか、どうせなら優香さんにも婦警の格好をして欲しい。その場合は俺は犯罪者ということに……あ、でもどっちがいいかな、逆パターンもありだな、俺が警官で優香さんが犯罪者ポジションとかで、


ごほんごほん。

やめよう。関係ない話だった。

……そういう妄想エピソードはいつか別の機会に披露しよう。


「まあでも、コスプレは最後の手段だ。まずは警察より先にエザワの居場所を突き止める」


エザワ・シンゴの死亡時刻は、はっきりしてる。

これは時間との勝負だ。

でも、これだけの犯罪をやってのける男だ。万が一、自力で死の運命を覆さないとも限らないけど。


(それはそれで、俺にとっては困るんだけど)


俺が介入して死の運命を退けないと、『変革力』は手に入らない。

本人が使ってしまうと、余剰分が排出されないんだそうだ。


「エザワは負傷してるらしい。万が一、怪我が悪化して死んだりしたら、最悪だ」

「えっ、もうそのレベルなの? ちょっとちょっとスクルドさん、仕事遅いんじゃないー?」


とはいえ、おかげで行方は探しやすくなった。


怪我人はそう遠くへは行けない。

十一人目の死体が見つかった場所がキーになる。


シノブさんのクローンスマホ――申し訳ないけど、仕事用のスマホも電子複製コピーアンドペーストさせてもらった――から、情報を割り出し終えると。

俺はまたしても、チンピラライクなスカジャンを羽織る。


「行くぞ、ブリュンヒルデ」

「はいはーい」


ペガサスにまたがって、俺達は目的地へ出発した。

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