4:異世界はもう満員です

「……は?」


 我ながらなんと間抜けな声だ。

 ブリュンヒルデは平静に、まるで授業のような口振りで、


「あたし達ヴァルハラはね、死んだ勇者エインヘリヤル達の魂を集めて、いつか来る終末ラグナロクに備えて鍛え上げるための組織なのよ。分かる?」


 ……聞いたことある。なんとかプロファイル。


「で、まあ、訓練の一環として、色々な世界に勇者エインヘリヤルを送り込んで、活躍してもらってたわけ」

「それが異世界転生?」

「そうそう。でもね」


 ブリュンヒルデは急に疲れた顔で、肩を落とす。


「もう勇者エインヘリヤルの頭数は十分なのよ。この前の戦争で十分足りちゃってるっていうか、むしろ救う異世界の方が足りてないっていうか。そもそも地球人口増えすぎ。いくらヴァルハラでもキャパってのがあるし」


 今度は突然顔を上げたかと思うと、そのままグチグチと、


「しかも最近多いのよ。現世でダメだったからコッチで頑張ります! みたいなタイプ。あんまり言いたくないけど、まずは現世で数字出してからにしてほしいのよねー。前線でキルスコア100、指揮官クラスなら20000は超えてもらわないと、やっぱどこ行ってもポストが無いのよ。狭き門なのよ」


 段々世知辛い話になってきたぞ。転職か?


「ええと……死人が多すぎて、転生の……枠? が余ってない、ってこと?」

「そうそう、そういうことなのよ。肝心の終末ラグナロクはいつになっても来ないし、転生待ちの勇者エインヘリヤルは増える一方だし、ヴァルハラは住環境悪いから色々文句も出るし、なんなら犯罪とか起きちゃってるしね? 死後の世界にも治安維持が必要って、もう何なの? お前ら死んだんだから大人しくしてろよ! みたいなさぁ」


 なんかちょっとかわいそうになってきた。

 見た目は『精悍な女騎士!』だけど、言ってることが……お役所っぽい。


「……なんか大変なんだな、ヴァルキリーって」

「ここからがもっと大変よ」


 何故か拳を握りながら、ブリュンヒルデ。


「増えすぎた勇者エインヘリヤルの管理に困ったオーディンのオッサンが、こっちに無茶振りしてきたわけ! 『運命を改竄し、死者を減らすのだ』ってさあ」


 ぶんぶんと拳を振って。


「こちとら『戦死者を選定する者』だっつの! 死んだ後のお世話が仕事だから! 死人減らすとかお門違いもイイ所だかんね!? ね!?」

「あ、う、うん。そうね。大変だね」


 ブリュンヒルデの鬼気迫る表情に、思わずたじろぐ。


 そろそろ分かってきたぞ。

 ブリュンヒルデは、顔立ち自体は凄まじく整っているのに、百面相のせいで妙な愛嬌を漂わせている。

 なんというか……そう、いわゆる残念美人といえばいいのか。あとおっぱいが無い。


「という訳で。現世に直接干渉できないあたし達ヴァルキリーの代わりに、君みたいな転生阻止者フィルギアが必要なのよ」


 ぽん、と肩を叩かれて。


 俺は咄嗟に言葉を返せなかった。

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