第17話 大海さんを勧誘する
放課後、
孝一はいつものように学校の壁を殴っていた。
ヤジが聞こえた。
「やーい、やーい、妖怪壁殴り」
「・・・小学生みたいな からかい方 しないでください・・・ユズハ師匠」
ユズハは校庭の壁の上に飛び乗る。
辺りを見渡し感慨にふけっているようだ。
「中学校か・・・懐かしいわね・・・あの頃の私は清楚で可憐だったなぁ」
(・・・今は?)
「それにしても・・・孝一君がクラスで浮いているというのは事実のようね・・・廊下ですれ違う時、女子が微妙に距離をあけるもの・・・」
「・・・気づいても言わないで欲しかったです」
!?
こっそりのぞいていた大海とユズハの目が合う・・・
大海はびっくりしてその場から逃げていった。
「・・・今、可愛い女の子がじーっと私を見ていたわ・・・」
(・・・美しい私に見惚れていた?)
(・・・すごく見当違いなこと考えてそうな顔してるな)
「ああ、あんな感じの可愛い子がうちの弟子になって欲しい。さあ、ナンパして来い、孝一」
(女子に距離あけられてるって言った後にその命令は酷過ぎる気がする)
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びっくりした・・・あの女の人は誰なんだろう・・・
なんだか少し嫌な気分になった。
まさか嫉妬だろうか・・・
悠馬君のことでクラスのみんなが怒ったのは、
こんな気持ちになるからだろうか・・・
胸が苦しい・・・
翌日は、大雨だった。
気温もぐっと下がって肌寒かった。
下駄箱から傘をさして帰るところで水上君の姿が見えた。
雨に打たれてもなんともないように壁を殴り続けている。
水上君は・・・すごいな・・・雨なんてもろともしない・・・
私もあんなふうに強くなれたら・・・
大海さんは孝一に傘を貸そうか迷ったが、そのまま帰ることにした。
やはりこれは・・・『恋』だろうか・・・
異性が気になる思春期特有の・・・
水上君を見ると・・・ドキドキする・・・かっこいいとかではなく・・・
『この人社会的に大丈夫だろうか』というドキドキかもしれないけれど・・・
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大海はその日ついに決心する。
(・・・もういいや、恥も外聞もすべて投げ捨てよう)
恋とか惚れたとか関係ない。
このままお礼を言わないのは人として駄目なんだ。
ただお礼を言う・・・それで終わり・・・
明日からは他人としての生活が始まる・・・ただそれだけ・・・
昼休み
決意の目をした女子が孝一の前に立ちはだかる。
孝一はたじろぐ。
「・・・あ・・・あの・・・」
「・・・わたし・・・2年A組の『大海灯り』っていいます」
「・・・?・・・俺は2年D組の水上孝一だけど」
「い・・いつも・・助けてくれて・・・あ・・ありがとうございます」
・・・助けた・・・助けた?
「ああ、あのときね。あった、あった」
(・・・覚えてないんだろうな)
「・・・そういえば、『壁ドン』の間違えを指摘してくれて、こちらこそありがとう・・・」
(・・・全然釣り合ってない気がする。)
「水上君は・・・すごく強いね。・・・わたしもあなたみたいに強くなれたら・・・」
(・・・だったら)
・・・
「あの良かったらなんだけど・・・俺は『真田流』って武術を習ってて・・・門下生が少ないから勧誘しろって言われて」
「・・・」
大海は嬉しい気持ちがどんどん湧いてくるのを感じた。
大海「・・・わかった。行く」
「だよな・・・いきなり そんなこと言われても困るよな・・・」
(ん・・・今なんて言った?)
孝一はあまりの二つ返事に困惑した。
「・・・あの・・・もう少し悩んだ方がいいんじゃ・・・」
「・・・大丈夫」
大海の大きな瞳が孝一をじっと見つめる。
(・・・なんなんだこの子)
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その日家に帰ると
「・・・お帰り」
「ただいま・・・お母さん」
大海は母に抱き付く。
「・・・どうしたの?灯り・・・」
「お母さん・・・お願いがあるの・・・私・・・道場に通いたい。」
母は優しい眼で娘を撫でる。
「今日は・・・何か『いいこと』があったのね」
「うん、すごく『いいこと』があったんだ」
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