第16話 大海灯りは悶々とした日々を過ごす





この私、大海灯りは、たいへん困っている。






彼は今日も壁を殴っていた。

(この前、助けてもらったんだから・・・お礼を言わなくちゃ・・・)




「何あれ・・・」

「ああ、あれは校内で有名な気が狂ってるって噂の・・・」

後ろを通り過ぎた女子の噂話が聞こえた・・・


急に話しかけるのが怖くなった。




私も同類だと思われてしまうかもしれない・・・





私は勇気が出なかった。






家に帰ってベットに仰向けになりながら考える。




直接言えないのなら、手紙にするとか・・・



便せんを用意して机に向かった。



・・・なんだかこれ・・・ラブレターみたい・・・



手紙作戦は保留にした。






$$$






彼は今日も壁を殴っていた。

(・・・お礼が言いたい・・・)



お礼を言っただけで同類扱いされるなんてことはない。

王様だって平民が良いことをしたら「褒めて遣わす」って言うはずだ。




彼を見る。

とても真剣な顔で壁を殴っている。

それにしても・・・

どうして壁を殴り続けるんだろう・・・聞いてみたい気もしてきた。




そうだ・・・

手紙を書くにしても『名前』がわからないと・・・彼が自分宛でないと思うかもしれない。




彼は2年D組のはず・・・

D組に知り合いはいない・・・

ドキドキ・・・なんか緊張する・・・



「ん・・・壁を殴ってる人の名前?・・・ああ、名前は・・・何だっけ?」

「・・・水上孝一って書いてあるね。」





水上孝一・・・水上孝一・・・





その日、家に帰ると

「・・・お帰り」

「ただいま・・・お母さん」


「・・・灯り・・・学校で何か『いいこと』でもあった?」

「・・・どうして?」


「最近、暗い顔ばかりしてたのに、今日はなんだかとても嬉しそうだから」

「・・・そうかな?」



着替えてベットに仰向けになる。

「・・・いいことか・・・」





名前を知ることが出来たから?





なんだか顔が熱くなるのを感じた。

よし、手紙を書こう。

せっかくだし、クッキー焼こうかな・・・キレイにラッピングして・・・




より一層・・・

ラブレターっぽくなってしまった・・・





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