第10話 古武術道場への誘い
放課後、数学の先生に話しかけられる。
「常々思っていたんだが・・・」
「素手で壁を砕くっていう行為はなんらかの武術の類じゃないだろうか」
「・・・武術?」
「俺はその方面には疎いんだが、空手とかボクシングとかのことだよ」
「そうか、テレビで瓦割りとかやっているし、もしかしたら・・・」
「門外不出の秘拳とか古武術とかあるかもな」
(まあ、ありえないと思うけど)
「・・・」
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孝一は毎晩、毎朝、町内を散歩していた。
散歩?いや修行のためのロードワーク・・
実はこっそりと壁をチェックして吟味しているのだった。
いい壁があったら殴ってみたい・・
そんな衝動に駆られる。
さびれた道場で道着を着て掃除をする女性がひとり・・・
彼女の名前は真田柚葉
身長は中学生の孝一よりも少し高いくらいで、黒髪のショートカットであった。
「おーいユズハちゃん、回覧板だよ」
「どうも」
「それと、最近、この辺りで『かべの前で何かをしている不審人物』が目撃されているようだから気をつけるようにね」
「かべの前で?何をするんです?」
「さー、なにかブツブツ呟いて、壁を殴り続けているらしい」
(怖っ・・・そんな人物・・・いるわけないでしょうに)
夕刻、
夕飯の買い物から帰ってくると
道場の壁に人影が見える。
男子中学生か?
何かブツブツと呟いて・・・
まさか・・・
壁を殴り始めた。
孝一は、女性の影に気づき、
見つかったとばかりに逃げようとしたが、
ぐいと襟を掴まれてしょっぴかれた。
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道場で正座して向かい合って座る。
気まずい・・・
出された安いほうじ茶をすすりながら孝一は弁明した。
「おかしなことは断じてしていない。これは・・・そう、真理の探究です」
ユズハはほうじ茶をすすり、一息ついてこう言った。
「いいから・・・親の電話番号を言いなさい」
「親バレは勘弁して欲しいなぁ・・・なんて」
孝一は事情をすべて説明した。
「話はわかりました・・・全くわからない気もしますが・・・つまりあなたは・・・不良でヤンキーということね?」
「いえ、どちらかというと品行方正な人物をめざしているんですけど」
「夜中に出歩いて、人の家の壁で妙なことをしている品行方正がありますか・・・そう、あなたが不良ということは・・・この道場に入るべきね」
「へ?」
「社会で必要とされていないと感じる不良がこの道場で稽古する内に次第に自分の存在を認めていく、そんな感動するエピソードが必要なのよ・・・この傾いた道場にはね!」
「・・・この道場傾いているんですか・・・」
「ええ、今も門下生ひとりいないわ」
「・・・帰っていいですか?」
「月謝は安くしておくわ、明日もまた来るように」
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