第9話 探究者




大学構内、壁の前





「・・・・さて、君の見たという現象の再現を始めよう。とはいえ、私が生きてきた中ではそのような現象は見たことも聞いたこともないわけだから、頼りになるのは君の記憶だけだ」



「ああ」



「その時起こった事象をできるだけ具体的にどんな些細なことでもいいから思い出して・・書き出してみるんだ」




「あのとき・・・一瞬で・・・壁が・・・コナゴナに!!」



「・・・・」



孝一はなんだか思い出せなくて恥ずかしくなってきた。



「そうだな・・・それは君の視覚情報だろう。君にはあと4つの測定器官があるじゃないか。例えば音はどうだった?」




「・・・・音はなかった。あんなことが起こったのにほとんど無音だった。・・・そうだ、その時、すごく震えた。周りの空気すべてがビリビリと震えたような気がする」






「・・・・・・そうだ、もっと震えが起こるように壁を殴ればいい」







キロは再び壁の前へ駆けていった。



「・・・」

いや・・・そんなことでどうにかなるようにも思えないが・・・どうにも私には無理としか思えない。


だが、彼ができると思っている。


おそらくこれまであきらめるように言ってきた大人はたくさんいただろう。



それでも彼ができると信じているならば、私は・・・




「水上」


「?」


「握手だよ」

「同じ探究者としての旅を楽しもうじゃないか」


「・・・」

上機嫌な女性の手、その目は憐みや蔑みなどなくどこまでも純粋だった。






【余談】




「潮見せんせー!!!」

「どうした、大勢で押しかけて・・・」


「あの・・・『異世界饅頭』って いただいたじゃないですか・・・」


「ああ」


「それ どこで購入できるか教えていただけないでしょうか!!」

生徒たちの真剣で切羽詰まった態度に・・・物理先生は少し引いた。




「うーーーん」




「・・・・仮に私が答えを知っているとしても・・・君たちには教えないだろう。誰かから聞いた答えなんてつまらないし、肩透かしだ」

女性は いいことを言ったつもりの どや顔 を生徒に向ける。




(ちくしょう・・・やっぱりか・・・)

うなだれるゼミ生たち



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