第6話 母と孝一




母は壁を殴ることを認めない・・・





孝一と母親は仲が悪い。

口をきけばいつも口論になった。



「わかってくれ・・・俺は、壁を殴らなきゃならないんだッ」

(いや、全くわからないのだけど)




夕食

母と孝一は『はたく』の件で喧嘩をして以来、口をきいていなかった。

(・・・最近食欲がないみたい)

「・・・ごちそうさま」




壁を殴り続けて数年間・・・

何の成果もきっかけもつかめないまま、ただひたすらに時間だけが過ぎていく。

近頃の孝一は焦っていた。




今夜も壁に行って殴らないと

・・・はやく・・・はやく・・・壁を破壊できるようにならないとダメなんだ。

こんなところで躓いていてどうする。




・・・



「・・・あれ?」

孝一はめまいを起こして倒れた。




母は孝一をベットに運び込んだ。

「熱があるわね・・・」




「・・・」

ざまあないって思われているだろうか・・・ちくしょう・・・





「・・・あなたがなぜ倒れたか・・・わかる?」

「・・・」

「あなた自身が自分を信じられなくなったからよ。だから自信を求めて無理をしてしまった」



「この世界であなたを信じてくれる他人なんてほとんどいないのよ。・・・・だったら『自分自身ぐらい』は自分のことを信じてあげてもいいんじゃないかしら」



(・・・壁を殴っていいよってことなのか?)

「私は、・・・あなたを信じていないわ、あんな馬鹿なことやめて欲しいって思っている」




「・・・」




「別に信じてくれなくてもいいし」

孝一は反論したあと、いつの間にか寝ていた。




その日を境に何かが変わったかといえばそうではない。

ただ、毎食ご飯は食べるようになったし、夜もしっかり寝るようになった。



壁を殴ることに成果は全くでなかった。



「いってきます」

「早く帰ってくるのよ」



今日も孝一は家を出る。



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