第7話 数学の先生



ただ、教えを乞う。

ただそれだけのことが多感な男子中学生には難しい。



加えて、孝一は壁を殴ることを秘匿することに何かしらの優越感を持っているようで そのあたりも事をややこしくしている原因だった。

壁殴りを始めてもう何年か経過している。流石に孝一にも焦りが出てきた。




孝一は中学時代、数学の成績があまり良くなかった。

放課後、担任の数学の先生に愚痴を言われる。


「水上は、帰宅部だろうに・・・」

「つまり、暇だから勉強しろと言いたいんですね・・・」

「よくわかっているじゃないか」


「俺は・・・『はたく』を完成させるのに忙しい」

「はたく?・・・あー、いつも壁の前で何かしているアレか」




そして 誰もがこう言う 「その行為に意味があるのか」と




「あれは、練習というか、まだ何も掴めていない状態だから・・・」



「・・・・まだ できていないことを恥じる事はない。お前たち生徒はまだまだ発展途上なんだから・・・」



予想もしない返答が返ってきた。




大人は何でも知っている存在だ。たとえ インターネットに載っていないことであっても、大人である先生ならば知っているかもしれない。




「先生、先生は大人なので、『はたく』について何か知っているんじゃないですか・・・」



(ここで無下にするのも・・・)



「確かに先生は、お前のそれについて知らない。だが、知ってそうな大人を紹介することはできる」

「・・・マジですか」

孝一の眼が輝きだした。

「その人物を紹介してやってもいいが・・・そこまでやる義理も義務もないしなぁ」



「わかりました。次の数学のテストで100点を取ります」


「言うねぇ、交渉成立だ。期待しているぜ」




$$$





初めは頑張ろうと そう決意したが、孝一の頭は数学を受け入れようとしなかった。



1日、3日・・・テストまでの期日はどんどん過ぎていく。



「おーおー苦戦してるなぁ・・・」

「・・・・」

「数学は・・・辛いか?」

「・・・・」



「・・・・」

「・・・」




「辛いなら・・・それは水上にとっての壁だと言えるんじゃないか?」

「・・・」

「本物の壁を壊すんだろ?・・・じゃあ、これくらいの壁、乗り越えてみろよ。」




ちょっと・・・卑怯な言い方だったかな・・・






(・・・・・壁か・・・・言ってくれる・・・)





目の前に・・・壁があったら・・・どうする?




$$$




定期試験後、

先生は答案を返す。

「・・・努力賞ってところか・・・」



「・・・ち」

結局、そのテストで満点を取ることはできなかった。

・・・けれど先生はその人物を紹介してくれた。孝一はそのひとを今でも物理先生と呼んでいる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る