「こちらつきだしのポテトサラダです」

 洒落た模様のそば猪口らしき器。その中に、形よく整えられた白いペースト状の塊。ペースト状とはいえ、素材のデンプン粒が適度に残り、ほろほろとした食感を視覚に訴えかけている。

 つきだされたそれを、彼は用心深く観察していた。まるで、そこから何か予測不能のものが飛び出してくるとでも思っているかのような、入念な視線だった。少し持ち上げて、においをかいでいるような仕草さえ見せる。

「……どうしたの」

 少しあきれて彼女が問うと、戦線を見守る指揮官さながらの真剣な面差しでポテトサラダを見つめたまま、重大な告白めいた口調で答えた。

「甘いポテトサラダ、苦手なんだよね」

 拍子抜けする。なんだそんなことか。

 そんな、マッシュポテトのようなぽかろんとした思考を見透かされたのだろう、抗議の目の色が向いてくる。

「ポテトサラダ界の派閥争いを知らないのか? シンプルなマヨネーズ味か、あからさまな甘みを足すか、はたまたコショウで風味づけるか。相当根深い問題だよ、これは」

 知らない。そう正直に告げると、沈痛な表情でその抗争の歴史を語り始めそうだったので、さっさと一口含む。

 それに驚いた彼の顔と、舌に広がった味に破顔して告げた。

「甘くはないわこれ。甘くはないけどさ。……食べてみなよ、たまには無謀になってもいいんじゃない、居酒屋くらいではさ」

 そう言って、そば猪口を見つめなおす彼を後目に、彼女は備え付けの調味料入れを物色する。派閥争いは知らないが、ポテトサラダの定義について彼と議論するのは楽しいかもしれない。そう考えると、このつきだしもなかなか良い酒のアテだと言えそうだった。

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