「……。」「もう、ネタ切れ?!」

「あの2人なんで来なかったんですかね?」


 冬華は歩きながら言った。


「ま、眠たかったんじゃない。」


「それにしても涼しいよね。」


「夏とはいえ、まだ日も昇ってないですからね。」


「ちょっと寒いぐらいですね。」


 夏海は少し身震いしながら言った。


「あ、冬華プリンが太陽になれば万事解決じゃない!」


 智絵が急に元気にいった。


「「確かに。」」


「あ、そうか! 私が太陽になれば良かったのかぁ!」


「「「「……。」」」」





「あっがり~!」


 苺愛がそう言い天井に向かって腕を上げ、伸びをした。


「この“ババ抜き”1分も持ちませんでしたね。」


「そうだねぇ。なんでだろ?」


「やっぱりチェスの駒はババ抜きに向いてなかったんでしょうねぇ。」


「いや、他にも理由はあるかも。」


「ないです。」


「まぁ、全部の駒合わせて32個。」


「そこから、キング1つないから丁度もう1つのキングがババになって、」


「合計15ペア。その内ポーンだけで16個あるから、」


「ポーンだけで8ペア。つまり15分の8がポーン。まぁ、1番の理由は


「「手札が形だけで判別できてしまうこと。」」





「物足りないね。」


 癒怡が立ち止まり言った。それを見て3人も立ち止まった。


「まぁ、部のツッコミの二大勢力がいませんからね。」


「どうします?」


「じゃあ、ここは妥協して夏海さんにツッコミをやってもらいましょう。」


「なんだよ、妥協って! ……あ。」


「「「決定~。」」」


 4人は再度歩き出した。


「ん~。なんだろ、このハメられた感……。」


「まあ、元ヤンなんだから大丈夫だろ。」


「元ヤン関係ねぇよ! てか、智絵、前貸した1億円返して。」


「貸された覚えがないし、なん……あ。」


 智絵は言い終わる前に夏海の不敵な笑みに気づいた。


「と、このように智絵の方がツッコミが上手いので智絵をツッコミに推薦しま~す。」


「貴様、ハメやがったなぁ!」



「あれは良い反面教師だよ。冬華プリン。」


「どうします?」


 冬華は隣にいる癒怡に向かって言った。


「よし、冬華プリン行ってきて~。」


「で、でも! あの技の封印を解いては……。」


冬華プリン。今こそその封印解く時よ!」


「わ、わかりました!」





「次は何する?」


 苺愛がチェスの駒を箱に入れながら言った。


「文字数無限増加しりとりでもやります?」


「無限?!」


「いや、どうせだし限界に挑戦しません?」


「いいね! 面白そう!」


「りす」


 香枝から始めた。


「す、スズメ」


「めんぼう」


「う、う、植木鉢!」


「ち、チンパンジー!」


「い、い、い?! ……あ、西表島いりおもてじま!」





「夏海さん!」


 冬華は夏海の前に立ちふさがり面と向かった。


「今、ツッコミの覇権をめぐって争ってるところなんだ。邪魔するな。」


「あのぉ、そのことでお話がありましてぇ……。」


 そう言うと冬華は俯いた。


「ん?」


 冬華は顔を上げ、上目遣い夏海を見た。


「私、夏海さんのツッコミ、そして夏海さんがだーい好きだから、夏海さんにツッコミして、ほ・し・い・なぁ!」


 上目遣いで夏海を見続けながら猫なで声で言った。


「ぅっ……。わ、わかったよ!(クッ。言ってること滅茶苦茶なのに……クッソ可愛いじゃねぇか!)あー! 腹立つなぁ!」


「お、怒らないでください、夏海さん!」


 冬華は続けて言った。


「ぬぐぅゎあ~! ……はぁ。はぁ。わかったから! も、もうやめろ!」


 夏海は頭を抱え悶えた。


「お前、外見の割に可愛いのには弱いよな。」


 智絵が溜息混じりに言った。


冬華プリン、もういいよ。」


 癒怡はそう言い、手を1拍叩いた。それと同時に冬華は目をパッチリと開けた。


「はっ! 私は今まで何を?!」


「君はリミッターを解除したんだ。」


「……あれ? 封印じゃなかったですか?」


「……細かいことは良い! 冬華プリン、君は悪の権化である、あいつを倒したのだ!」


 癒怡は夏海を指さして言った。





「あ、あ、……“アパラチア山脈”!」


 香枝が文字数を指で数えた後、言った。


「く?! く、く、く……………………“クリスマスストッキング”!」


「ぐぅ?! ぐ…………“グレートサンディー砂漠”!」


「うっそ~?! もう無理だと思ってた!」


「ふっふっふ~。私を甘く見てもらっては困ります。


「“く”でしょ? く……“空想的社会主義”!」


「ここにきて濁音?! ぎ? ぎ、ぎ…………………………………………。」


「諦めてもいいんだよ~?」


「い、いや、もう少し! ………………………………………“き”でもいいですか?」


「いいよ~。」


「“危険運転致死傷罪”!」


「すごっ!」


「いやいや、“き”にしていただいたおかげですよ。」


「“い”、かぁ……インスタレーションプロジェクト!」


「すごい短時間で出てきますね! 苺愛さんのほうが余程すごいですよ!」


「そろそろ限界じゃない?」


「……ですね。」


「よし、ルール変更! これから15文字以上ならオッケーにしよう!」


「あ、まだ続けるんですね。」


「よし、負けないよぉ!」


「は、はい。(勝てる気がしない……。)」





「いつまで、悶えてるんですか……。」


 冬華がしゃがみ込んでいる夏海に言った。


「さっきと性格変わりすぎでしょ!」


 夏海が突如立ち上がり言った。


「おー、やっと復活!」


夏海なっちゃん急に復活したねぇ。どしたの?」


「いや、なんかよくよく考えると“あれ? いつもの方が可愛いんじゃね?”って思えてきまして……。」


「……で、ですよね? 私はいつも可愛いですよね~。」


 冬華は回れ右をして進行方向に歩き出した。


「そうだよねぇ。やっぱりプリンはいつも通りが一番可愛いよねぇ。」


「あれ? お前……照れてる?」


「え? あ、いや、そんなわけないじゃないですか~。」


「ふ~ん。その割には顔赤いけどな~。ん?」


 夏海は冬華の前に回り込み顔を覗いた。


「あ、赤い? あー私、赤って何かわかりませ~ん。赤ってどんな色なんだろ~。」


 冬華は夏海を避け早歩きで、進んでいった。


「「「(馬鹿だなぁ……可愛い。)」」」





香枝かっちゃん、“か”だよ~。」


「か? …………………………………カナダ安全情報局!」


「きた!」


「え?」


「“く”を待ってました!」


「?」


「いくよ! クルンテープ・プラマハーナコーン・アモーンラッタナコーシン・マヒンタラーユッタヤー・マハーディロックポップ・ノッパラット・ラーチャタニーブリーロム・ウドムラーチャニウェートマハーサターン・アモーンピマーン・アワターンサティット・サッカタッティヤウィサヌカムプラシット!」


「あー、バンコクの正式名称ですね。」


「お、知ってるんだ!」


「まぁ、覚えてはいませんけど。」


「終わろっか?」


「そうですね。何します?」


「ん~……。」


「神経衰弱しません?」


「しかし、トランプはない。ということで


「「チェスの駒でやろう!」」





「あ、プリン帰ってきましたよ。」


 見えなくなるほど先を歩いていた冬華が走って戻ってきた。


「めっちゃ走ってるね。」


「おーーい!」


「「「(お茶……って言ったら絶対しけるなぁ。めっちゃ言いたい。)」」」


「はぁ、はぁ! 大変なんです!」


 冬華は息が荒れた状態で夏海の肩を揺すった。


「どした?! てか、一旦落ち着け。」


「ふうぅ……。ゲームセンターが開いてないんです!」


「「「……えぇ!!」」」


「……よく考えたら、そりゃそうじゃん。」


 智絵が少し考え、言った。


「え?」


「なんでですか?」


「どういうこと?」


「いや、だって今5時前じゃん。」


「「「あ。」」」


「そ、そうか! それを知っててあの2人は来なかったんですよ!」


 冬華が手をポンと叩いた。


「「「「あいつらぁ~!!」」」」


 4人全員が踵を返し、学校の方へ走り出した。





「この神経衰弱、本当に神経が衰弱しそうですね。」


 香枝は机に肘をつき、溜息をついた。


「まぁ、駒を裏返してても転がって表向くからねぇ……。」


「いや、それ以前に裏返ってても形でわかりますよ!」


「やっぱり、チェスの駒はトランプの代用にならないかぁ……。」


 苺愛がそう言い終わると、再度誰も話さない静寂が訪れた。


「……。」


「……。」


「……。」


「……。」


 そんな静寂の中、部室の外から速い足音が聞こえた。


「「(帰ってきた……。)」」


 勢いよく部室のドアが開き、4人がなだれ込んできた


「「「「騙したなぁ!!!」」」」


「「いやいや、勝手に行ったんでしょ。」」


香枝かえまる! 何で教えてくれなかったの?!」


 冬華は入ってきたそのままの勢いで香枝の元に行き、肩を揺すった。


「い、いや、なんとなく……あ!」


「なに?!」


「すごいキレてんじゃん……。じゃなくて、窓の外見て!」


「外?! ただの太陽……日の出だぁ。日の出だ! みんな見てください!」


「うるさいな、見えてるよ。」


 夏海が窓の外を見たまま、少し微笑みながら言った。


「よし、外行こう!」


「「「「「賛成~!」」」」」









「さっきも外にいたのになんか全然違いますねぇ。」


 冬華が校庭のベンチに座り言った。


「あれ? 香枝かえと苺愛さんは?」


 冬華の横に座っている夏海が見回した。


「はーい。差し入れでーす。」


 苺愛と香枝が缶ジュースを3本ずつ持ってきた。


「「「「お~!」」」」


「この中に1本だけおしるこ混じってるから、きを付けてね?」


「「「「え?」」」」


「さぁ、缶の後ろに数字を振ってるから1~6選んでください。ちなみに私らもどの数字がハズレか知りません。」


「「「「じゃあ、だれが数字振ったんだ……」


「先着順ですよ!」


「(こ、これは?!)はいっ!」


 冬華が間髪入れずに元気に手を挙げた。


「3!」


「6!」


「2!」


「じゃあ、1で。」


「私は、4!」


 冬華以外の5人が順番に数字を選んだ。


「え?! 誰もノッてくれないの! ……じゃ、5番で。」


 冬華が口を尖らせて言った


「じゃ、結果発表!」


 苺愛と香枝が数字通りに缶ジュースを配っていった。


「あのぉ、私の缶熱いんだけど……。」


 冬華が缶を配られた瞬間不満そうに言った。


「じゃ、みんな一斉に飲もう! せーのっ!」


 智絵の合図とともに6人が一斉に缶を開け、飲んだ。


「「「「「ぷはぁ~!」」」」」


「ほら~! これ、おしるこじゃないですか~!」


 冬華が頬を膨らませ言った。それを見て、5人一斉に吹き出した。


「ま、たまには、こういうのもいいね。」


 癒怡が太陽を見て言った。それを聞き他の5人も太陽を見た。


「だね。」


「あとは、おしるこじゃなければよかったのに~! なぁんで!」


 冬華は苺愛を揺すりながら言った


「わかった! わかった! 大丈夫! ちゃんと買ってあるから!」


「買ってあったの?! それ、飲み終わる前に言ってくださいよ~!」


「「「「「全部飲んだのかよ!」」」」」

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