「ガソリン上越線だよ。」「ハロウィン特別編ね!」

 掛け時計は午後の16時過ぎを指していた。


「はい、今日諸君に集まってもらったのは外でもない、現実ではハロウィンだからだ!」


 智絵ちえが5人に囲まれながら言った。


「「「「「は?」」」」」


「今日は、まだ夏休みだけど?」


「現実の話だ!」


「「「「「……。」」」」」


 5人で顔を見合わせた。


「……現実ってなんですか?」


「ググレカス!!」


 智絵が香枝かえの質問に対して、声を荒げて言った。


「は、はい……。」


「ということで、ハロウィンっぽいことをしたいのですが、何かある人? さぁ、先着順です!」


「はいっ!」


 冬華とうかが間髪入れずに元気に手を挙げた。


「お、どうしたんだい、キャサリン?」


「おいおい、君が先着順って言ったから手を挙げたのになんだいその言い草は?」


 冬華は立って、右手で拳銃の形をつくり、智絵のこめかみに押し当てた。


「はいはい。もういいから。」


 夏海が割って入り、2人を止めた。


「で、冬華プリンは何がしたいの?」


 智絵は、冬華が不満げに座ったのを見て聞き直した。


「軽トラックを横転させたいです!」


「6人じゃ無理だろ。」


「じゃあ、周りの人に『乗れ!乗れ!』って手招きしたらいいんじゃない?」


「じゃあその後、軽トラの上に乗ってダンスしなきゃいけないね。」


「いや、それどっちも横転させた後の事じゃないですか?! 私は横転させたいとしか言ってないですよ!」


「「そこじゃねぇよ!」」


 苺愛もあと香枝が同時にツッコんだ。


「ま、冗談はここまでにして何をする?」


「「「「「「……。」」」」」」


「なにもないなら、ゴミ拾いとかでいいんじゃない? どうせゴミがポイ捨てしたゴミが散らばってるだろうし。」


「「「「「(元ヤン怖ぇ……。)」」」」」


「でも、ゴミがゴミ捨てるって思うと滑稽だね。」


 癒怡が半笑いで言った。


「そういや、あれらを捨てるとすると、何ゴミになるんですかねぇ?」


「粗大ごみじゃない?」


「いや、燃えるゴミだろ。」


「いやいや、廃品回収」


「廃品回収車は軽トラだから……」


「「「「負の連鎖だ。」」」」


「てか、廃品回収と粗大ごみって一緒じゃね?」


「もうさぁ、駅とかにも置いてるような“カン・ビン”でいいんじゃない?」


「ペットボトルがいい!」


「「(意外と闇深いなぁ……。)」」


 ずっと黙っていた苺愛と香枝は互いに顔を合わせ苦笑いした。


「ま、話が脱線したからそのまま続けるけど、私はやっぱり燃えるゴミだと思うんだよね。」


 智絵が全員落ち着いたのを見て、言った。


「「「「「話、戻せよ!!」」」」」


「で、“ゴミの処理”という意見に反対な人~?」


「「「「「……。」」」」」


「手ぇ下げて!」


「「「「「小学生か!!」」」」」


「って、言いながらもみんな手上げてるじゃん。」


 智絵がそう言った瞬間、他の5人は一斉に顔を伏せた。


「いや、だって……。」


「下げてたら……。」


「反対みたいになるし……。」


「ということで、“ゴミの処理”に決定!」


 智絵が遮って言った。


「なんか、さっきの話のせいか……。」


「テロ計画みたいになってるよねぇ。」


 香枝が呟いた言葉に、隣に座ってた苺愛が小声で反応した。それを聞き香枝が吹き出した。


「さ、街中に群がるゴミを一気に掃除するか。」


 夏海なつみが肩を回しながら言った。


「お、夏海なっちゃん、超ヤル気じゃん。」


「「いや、それる気だから!!」」


「よし、さっそく行こう!」


 智絵が自分のカバンを持って、部室を出た。


「ついでにテレビに映れるといいですね!」


「お、いいね、それ。」


「さぁ、掃除、掃除っと!」


 智絵に続き、冬華、癒怡、夏海が部室を出た。


「なんやかんや言っても、みんな割と良い人ですよね。」


 香枝はカバンを背負い言った。


「て、テレビ……。」


 苺愛は座ったまま、呟いた。


「どしたんですか?」


 苺愛は急に立ち上がって、香枝に近寄った。


「て、テレビだよ! なんか、恥ずかしいじゃん! もし、友達に見られでもしたら……ゎあ~!」


 苺愛は香枝を強く揺すりながら言った。


「だ、大丈夫ですよ! どうせ、テレビには映れませんから!」


「そうかなぁ……。で、でも、もしかしたら……。」


「わかりましたよ。私が苺愛さんを守りますから。」


 苺愛はそれを聞き、香枝に抱き着いた。


「……王子様……?」


「違います。」


「よし、行こう! こっちには王子様がいるから安心だ!」


 苺愛は香枝の手を引っ張り、部室を出た。


「だから、違いますって~。」






「では、只今からゴミの一斉処理を始めます。」


 様々な衣服を着た人たちが群がる街の入り口で、智絵は全員集まったのを確認して言った。


「さぁ、やるぞ!」


「「「「お~!」」」」


「待て待て待て!! 迷彩服とヘルメット脱いで、アサルトライフル置いていってください!」


 香枝は、4人に向かって言った。


「そう言ってる、香枝かえまるだって王子様みたいな恰好してるじゃん!」


「あ、ぃや、これは……。苺愛さん、説明してください。」


「試しに着せてみたら予想以上に似合っちゃって……。」


「「「「……ぅわあ!!」」」」


 4人は苺愛の姿を見て、しばらく思考回路が停止した後、大声で叫んだ。


「「苺愛さん?!」」


「どうしてそうなったの?」


香枝かえまる! 私らにツッコむ前にツッコまなきゃダメでしょ!」


 冬華が、覆面マスクを被って手にリボルバーを持っている苺愛を指さした。


「え? もういいかなって思って。」


「で、どういう経緯で?」


「……。これ、苺愛さんの私服だそうです。」


 香枝は苺愛を横目で見た。


「「「「マジで?!」」」」


 4人は少し後退りした。


「そんなわけないでしょ! 香枝かっちゃん、変な誤解を生むからやめて!」


「でも……なんか、今の苺愛見てたら段々、そうなんじゃないかって思えてきた。」


「やめて!」


「まぁ、趣味は人それぞれだから置いといて、私らも全員着替え終わったので、始めましょう!」


「ちょっ


「「「「「お~!」」」」」


 苺愛以外の制服に着替えた5人は手を高らかに上げて、街中に歩きだした。


「ちょっと~!!」


 苺愛は覆面を脱ぎ、走って追いかけた。








「さぁ、我らが部室に帰ってきました!」


 皆それぞれ溜息をつき部室の中の定位置に着いた。


「4時間やったのにキリがなかったなぁ。」


「あ! 気になったことが、何個かあるんですけど……。」


「どしたの、冬華プリン?」


「あ、ひとつは、それです!」


「え、どれ? 制服に黒い覆面というファッションについて?」


 智絵は苺愛をチラ見した。続いて冬華もチラ見した。


「あ、それは、趣味ってことで結論づくじゃないですか。」


「ちがう


「じゃあ、何?」


 智絵は苺愛が喋っているのを遮って言った。


「私ってなんで“プリン”って呼ばれるようになったんでしたっけ?」


「制服に黒い覆面被ってたからじゃなかったっけ?」


「そんな人いるわけないじゃないですか~。」


 冬華が半笑いで言った。


「もうそろそろ私、泣くよ!」


「あー、これしばらくいじられるやつですね。」


「ぅわーん! かっちゃ~ん! 助けて~!」


「大丈夫です。私は味方ですから。」


「苺愛。大切なことを教えてあげる。」


 癒怡が微笑んで言った。


「……なに?」


「苺愛が抱き着いている“そいつ”は根本となった原因だよ。」


「……っ!」


「私、大変なことを言ったなぁと外面がいめんでは反省してるんです。」


「かっちゃん…………ん? 内面は?」


「綺麗ですよ。」


「ん~。ん? ぅん~……ん?」


「どうしました?」


「ん~……なんか納得いかない……。」


「どこがです?」


「いや、私が“内面は?”って聞いて、香枝かっちゃんが“綺麗ですよ”って答えたから問いに対しての答えとしては成立してるんだよねぇ……。なのになんか納得いかないんだよね……。」


 苺愛は考え込んだ。それを見て、香枝はにやけた。


「苺愛さんって頭いいのに、どこか抜けてますよね。」


 冬華は横のソファーに寝ころんでスマホを見ている夏海に言った。


「あれは、“どこか”どころじゃねぇよ。」


「あ、話戻しますけど、なんで“プリン”になったんでしたっけ?」


「あー、冬華のあだ名を決めようってことになって、どうせだし名前通り冬の花から取ろうってことになって」


「あれ? プリンって名前の花なんかありましたっけ?」


「いや、最初冬の花の代名詞とも言える“プリムラ”にしようってなったんだけど」


「4文字は面倒だからって“プリム”になったんだけど、言いにくいって理由で“む”を古文読みして“ん”になった。」


 夏海、癒怡、智絵がリレー形式に説明していった。


「「「めでたしめでたし。」」」


「いや、なにがめでたかったんですか?! まぁ、思い出しました。」


 苺愛はまだ、どこか納得いかないという風に考え込んでいる。


「あ! あと、これは真剣な質問なんですが、なんでこういうハロウィンとかのイベント事があると大なり小なり事件が起きるんですかね?」


「今回の軽トラとか?」


「そうです、そうです。」


「今の日本社会が窮屈だからだろ。毎日、毎日監獄みたいなこの現代社会で生きてたら発散する場が必要になってくるだろ? イベント事とかのときって自分を忘れてはしゃぐじゃん。そのままの調子で、日頃のストレスで切れかかってた頭の中の糸が切れるんだよ。」


 夏海がスマホを見たまま言った。


「「「「「「……。」」」」」」


 それを聞き、全員黙りこくった。部室にはただ時計の針が動く音だけが響いた。


「……。」


「……。」 


「……。」


「……。」


「……。」


「……。」


「トリックオアトリート!」


 長い静寂が続いた部室に急に冬華の声が響き渡った。


「「「「「……。」」」」」


 そしてまた、部室に静寂が訪れた。


「みんな! なんか反応してよ!」


 冬華は5人を順番に覗いた。


「飴、あげる。」


「私からも。」


「あげる。」


「ほれ。」


「ん。」


 冬華は5人全員からもらった飴を口に入れた。


「ほおううほほははひうへふ!」


「飴5個一気に口にいれるなよ。」


「苺愛、これ通訳できるでしょ。お願い。」


「いやぁ、さすがに苺愛さんでも


「まぁ、いつもあんたの通訳してるからね。」


「できるのかよ!」


「んで、味はおいしいか?」


「ん~ああああえふ。」


「ん~まあまあです。」


 苺愛が冬華の通訳を始めた。


「まあ、5個の味が混ざってるもんな。」


「いあ、はんはへんははひはふふんへふお!」


「いや、なんかへんなあじがするんですよ!」


「どんな味?」


「ひんは、はひあいをふへはひはは?」


「みんな、なにあじをくれましたか? 私は、もも味。」


「グリーンスムージー味。」


「わさび味。」


「一味唐辛子入り七味唐辛子味。」


「ドジョウ味。」


 冬華は口に入れてた飴を一気にティッシュに吹き出した。


「いや、苺愛さん以外の皆さん?!」


「でも、まあまあおいしかったんだろ?」


 夏海が半笑いで言った。


「いや、全然ですよ!」


「ティッシュでくるまれた5個の飴はスタッフがおいしくいただきました。」


「いただきませんから!」


「けど、現役JKが口に入れたものだとマニアックな人たちは喜んで口に入れると思うよ。」


「汚いからやめてください! はぁ、はぁ……。」


「お疲れ様。」


 香枝が冬華の肩に手を乗せた。


香枝かえまるは、いつもすごいよ。」


「でしょ。」

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