第52話 せっかくなので観察します
「こんなに近くで男の人を見るのは初めてかもしれません」
マリーンは紅潮した顔をくっつけんばかりに、ウェルスを凝視し始めた。
「あの、ちょっと」
ベッドの上で、じわじわと壁際に追い詰められるウェルス。
「じゃあ、さっそくですが。あれを、見せてもらってもいいですか?」
生唾をのみ込んで、マリーンが言った。
「あれって?」
ウェルスはマリーンの視線を追う。その先は下腹部。ウェルスの顔から血の気が引いた。まさか、嘘だろ。その目が周囲に救いを求める。
「うわ、マリーンちゃん、大胆!」
きゃうっ、と未冬が悲鳴のような声をあげる。
「貴重な機会なのです。ここは是非ともお願いします」
真剣な表情で迫るマリーン。他の三人も頷いている。
どうやら、救いの手はどこにも無さそうだった。
「お、お前ら、変態じゃないのか」
キラキラした瞳で首を横に振る少女たち。
「違います。純粋に学術的な興味です」
「生物学、だよね」
明らかに興味津々ではないか。
「「さあ、早く脱いでください」 」
四人の女子は声を揃えて言う。
♡
ベッドの隅でしくしく泣いているウェルスを尻目に、女子三人は満足そうに感想を話し合っている。
「いやー、勉強になったねー」
「これから、小説を読むうえで、すごく参考になります」
「そうだね、モノの大きさはともかく」
はい?
「え、大きさってなに。フューちゃん?」
「いやいや、それは別の機会に、だね」
「ここはどこっ!」
白眼を剥いて失神していたエマが、やっと跳ね起きた。
「くそー、お前らまとめてセクハラで訴えてやるっ!」
ウェルスはパンツを抱きしめて叫んだ。マリーンの関節技から逃れる術がなく、こうやって辱めをうける事になってしまったのだ。
「それでしたら、女子寮に不法侵入したうえに局部を露出したという猥褻行為で訴え返しますけれど」
すっ、とメガネを直し、冷静な声でマリーンが脅迫する。
「そうだね、4対1だもの。これは厳しいかもしれないよ」
「お、おのれ卑劣な」
「……それより、パンツ、穿きなよ」
横目で見ながらエマが提案する。
それから、みんなでお茶を飲んで仲直りしたのだ。ほとんど強制的に、ではあるが。
「ウェルスくん。掃除手伝ってくれてありがとうね」
見送りに出た未冬が手を振る。
「ああ。これからは、ちゃんと自分で片付けるんだぞ」
不貞腐れた顔で彼も手を振り返す。
「うん。でも手に負えなくなったら、また片付けに来てね」
「もう絶対、来ない。来るわけ無いだろっ、こんな所!」
「それから、あの」
「あん?」
もじもじとする未冬。
「見せてくれて、ありがとう。その、……大事なとこ」
「し、知らねえよ。なに今さら純情ぶってるんだよっ」
真っ赤になって、逃げるように去っていく背中を笑顔で見送る未冬だった。
しかし、彼はすぐに足を止めた。
思い詰めた表情で戻ってくるのを見て、未冬は小首をかしげた。
「どうしたの、忘れ物かな?」
「いや、違う。……帰り道が分からない。案内してくれ」
本当に悔しそうに、ウェルスは言った。
「じゃあ、デートでもしようか」
嬉しそうに、未冬は彼の手をとった。
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