第47話 「出雲大社」で縁結びだ

「これが、この周辺の観光マップだ。食事が終わったら行ってみるといい」

 旅館の若女将こと、リョーコ・グロスター教官がパンフレットをくれた。

「日本、ですね」

 未冬が興味深そうにのぞき込む。彼女のルーツになっている国だ。その重要文化財などが移築されているエリアなのだった。


「出雲大社の分社もあるぞ。縁結びの神様だからな、私もよくお参りしたものだ」

 懐かしそうな表情のリョーコだった。

「でも独身だよね。教官って」

「なんだか、今ひとつ説得力が……(あくまで個人の感想です!)」

 四人は顔を寄せ合って小声で相談する。


「うん、なんだ?」

 彼女の無邪気な笑顔を見ると、結構です、とは言えなかった。

 下手なことを言えば、このまわりを10周くらい走らされそうだし。

「いえ。あの、時間があったら行ってみます」

「ああ、そうしろ」

 満足そうにうなづくと、お茶の準備を始めた。


 そこは空母の中の異世界だった。

 出雲大社、都市空母分社とでも言おうか。


 まず彼女たちを出迎えたのは白く輝く大鳥居だった。一番上の横木の部分が、このフロアの天井に食い込んでいる。

「うわ……大きい」

 四人とも絶句した。

 これって艦の構造材の一部なんだな、我に返ったエマが呟いた。


 その下をくぐり抜ける。はぁー、と上を見上げたままだ。

 そこからは緩やかな上り坂になっている。

 石畳の両側にはお土産まで売っていた。

「ええい、未冬。帰りに買ってあげるから、早くこい」

 いい匂いの誘惑に後ろ髪を引かれながら、勢溜せいだまりまでの坂を登り切った。さっきの大鳥居ほどではないが、ここにも大きな木造の鳥居がある。


 そこから先は、少し見下ろすようになる。彼方まで続く小石の敷き詰められた参道の両脇は松林になっていた。ここからが本格的に神域らしい。

「本物の松の木だよ、これ」

 フュアリが太い幹を触って驚いている。


 歩き続けると、正面に神社が見えてきた。同じ空母の中とは思えない、荘厳な雰囲気が漂っている。

 巨大なしめ縄をかけた拝殿の前に、厳粛な面持ちで立つ四人。

「ああ、なんだか心が浄化されそうだよ」

 ため息まじりに未冬が言った。

「浄化されて、消えて無くなるなよ」

 エマの言葉に、えへぇ、雑菌じゃないよ、と笑う。


「あれっ、この先天井がないですよ」

 見上げたマリーンが声をあげた。フロアの天井が拝殿の付近で途切れている。

 四人は拝殿の横に回った。

「はあっ?」


 神社の上空は3フロアほどの吹き抜けになっていた。

 そこへ、木の柱に支えられた長い階段が一直線に続いている。

 その、さらに上には。

「神社だ。あんな所に神社がある」

 神社の本殿が、高みから彼女たちを見下ろしていた。


「古代の姿を復元したのだそうです」

 案内板を読んだマリーンが教えてくれた。

「ちなみに、あそこへは立入禁止だそうですけど」

「行かなくていいよ、あんな高いところ」

 エマがぶるっ、と身体を震わせた。

「ツリーハウスみたいだね」

「それは、ちょっと失礼かもしれないけどな」


 看板に表示された参拝の作法を、見よう見まねで行う。

 気分的にはしっかりとお参りをして、四人はまた旅館へ戻ってきた。

「教官の分までお願いしてきましたよ」

「おお、それはありがとう」

「却下、って天の声がしましたけどね」

「なにーっ」



 士官学校では、グロスターを除いた教官たちが集まっていた。

 この空母を統括する『百人委員会』通称、”元老院”からの情報が届いたのだ。


 先日の海賊襲撃事件の全貌が明らかになった。

 捕虜となった海賊たちの証言によると、大規模な統一勢力によるものではなく、一時的に同盟を結んだ海賊集団が個々に攻撃を仕掛けたものらしい。

 それが図らずも陽動作戦の様相を呈し、軍港の弾薬庫を狙った一団の侵入を許すことになったのだった。


「海賊の言うことなので、どこまで信用していいのか分からないですけどね」

 アセンダー教官が肩をすくめた。

「でも統一行動をされると、厄介なのは確かです」

 これからも、あの子たちの力を借りることになるのでしょうか。

 彼女は浮かない顔でつぶやいた。


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