第45話 乙女の秘密はお湯の中

「美味しかったねー」

 食事の後片付けをした後、四人は部屋に戻り、満足のため息をついた。


 普段食べている野菜と同じようなのだが、何だか違う気がした。

「実はこれはね、最上層の自然農場で作られたものなんですよ」

 一緒に夕ご飯を食べながら、女将さんが教えてくれたのだ。

「人工の光と栄養を含んだ水でも十分美味しい野菜は出来ますよ。でもね、地面に生えて、太陽の光を浴びて育った野菜は、どこか違うと思いませんか」

 四人は何度も頷いた。

「だから、料金もそれなりに頂いてるんですけれどね」

 にんまり、と笑う。

 何だか、すべてが台無しな気がした。


「結局、人も野菜も大地が必要なのかねえ」

 フュアリがまた、おばさんっぽい感想を呟いた。


 部屋にはいつのまにか浴衣が用意されていた。サイズも色も各種揃っている。せっかくだから別々の色にしようという事になった。


 紅の花柄はエマ・スピットファイア。

 淡い水色はマリーン・スパイトフル。

 パステルグリーンはフュアリ・ホーカー。

 ピンク中心の柄のものは未冬。


「四人揃って、地上科戦隊フォー、えっと、フォー…」

「ちょっとは考えてから喋れよ、未冬」

「フォーチュンズ!!」

「なんだそれはっ」


「フォーチュン・レッド、みんなでお風呂に行こうと思いますけどっ」

「分かったから、戦隊ごっこは止めろ」

「流石に、ちょっと恥ずかしいです」

 フォーチュン・ブルーこと、マリーンはいたたまれない表情だ。

「そうかな、わたしは結構良いと思うけどね。よし行くぞ、フォーチュン・ピンク」

「おう、フォーチュン・グリーン!」

 あははは、と肩を組んで大浴場へ向かう。

 他に誰もお客さんがいなくて良かったよ、エマとマリーンは顔を見合わせた。


  ♨


 脱衣所に効能書きが掲示してある。

『塩化ナトリウム泉 効能:筋肉痛、傷の痛み、内臓疾患 云々』

「要するに成分は、海水ってことだね」

 フュアリが妙に納得した顔で頷いた。


 浴室に入った彼女たちは度肝を抜かれた。

 星空が見えたのだ。

 そして、夜の海も。

 しばらくして、それは壁と天井、全面のモニターへ映し出された映像だと気付いた。

「ああ、でもすごい開放感があるね」

「でも外から見られてるみたいで緊張しませんか?」


「ふん、見たければみせてやろうじゃないか」

 フュアリが腰に手をあてて浴槽の横で仁王立ちになった。もちろん全裸だ。

 エマが散々ぺったんこだの、幼児体型だのと言われていたが、フュアリはそれを凌駕していた。

「フューちゃん、かわいい。まるでベビードールだよ」

 確かに、『膨らみ』とか『くびれ』からは一切無縁の体型だった。

「あそこも、つるつるだし」


 えへん、えーっへん。エマが大きな声で咳払いした。

「ば、ばか未冬。危ない発言をするなっ。どこかの偉い人から怒られたらどうする。そこは少し修正してくれっ」

 未冬も自分の発言の危うさに気付いて慌てている。

「え、ああ。そ、そうだね。お、お肌もつるつるだし、でいいかな」

「ま、まあいいだろう」

 んん?フュアリは首をかしげた。

「でもね、うちの家族はみんなこうだよ。生えてこないみたいなんだよ」

 下腹部をぺんぺん、と叩く。

「フュアリっ、それじゃフォローした意味がないだろうがっ!」


「だけど、こうして並んでみると、未冬の裸って普通だな」

 お湯に浸かりながら、真面目な顔でエマが言った。

 む、と未冬はエマを睨んだ。

「あのね、大好きなエマちゃんの言葉だけれど、それは傷つくかもしれないよ」

「いや、でも」

 エマはマリーンの方を見た。

 他の二人も、自然とマリーンの胸元を見る。

 おおう、とうめき声に近いものが漏れ出た。

 マリーンは慌てて両手で胸を隠す。


「そう。確かに絶対的なサイズでは未冬には敵わないだろう。しかし、元の身体の細さからすると、それは衝撃的な大きさなのである。そしてその美しさは他の追随を許さないのであった!」

「エマさん。わたしの胸について、詳細に解説しないでくださいっ」

「それが、おとなしめの彼女の容貌と相まって、何とも言えないエロスを醸し出すのだーっ」

「だから、やめてぇーっ」


「マリーンはもちろんだが、フュアリの裸の破壊力もおそるべきものだな。その筋の人にはたまらないだろう」

 うんうん、と未冬もうなづく。

「そう。実にマニアックな魅力だよね」

「沈めるぞ、お前ら」

 フュアリが本気で怒りそう。両手を拡げて立ち上がる。

「そっちもちゃんと見せろ。いや、触らせろ」

「きゃーっ♡」


 ♪


「あー、疲れたー」

 上気した顔で三人が大きく息をつく。

 最後に集中攻撃された未冬が、うつぶせで湯船に浮いていた。


「せっかくだから、裸でしか出来ない話しをしないか」

 エマが乱れた髪を直しながら言った。

「ああ、自分たちの恥ずかしい話しとか、ですね」

 未冬をひっくり返しながらマリーンが頷く。

「女子バナだね、修学旅行っぽーい」

 復活した未冬が嬉しそうに言った。確かに、彼女は恥ずかしい話しには事欠かなそうだ。


「わたしからで、いいかな」

 手を上げたのはフュアリだった。

「いまは遠くに住んでいるお兄ちゃんの話しなんだけど」

「ほう、ブラコンの告白ですか」

 茶化すエマ。


「うん。わたしたち、いわゆる、あれなんだよ」

 フュアリは真っ赤な顔で俯いた。

「いけない関係になったのがばれて、引き離されちゃったんだ」


 おーい、いきなりぶっちゃけ過ぎだろっ。

 未冬とエマ、マリーンは凍りついた。

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