第42話 キス アンド クライ

 海賊を撃退した士官候補生たちは病院にいた。

 銃弾で肋骨を折る重傷を負ったレッジアの他にも、ほとんどの生徒が負傷していたからだ。ヘルメットで守られていたとはいえ、頭部を撃たれたアミエルは精密検査を受けていた。


「うわ、レッジアちゃんが巨乳になってるっ!」

「これはギブスだ、ボケ未冬」

 彼女はベッドに横たわっていたが、それでも元気そうに笑った。


 手足のあちこちに包帯を巻いているのはユミ・ドルニエだった。

「なーに。この方が女子たちに同情してもらえるのさ」

 ごん、とメイザに頭を叩かれる。

「お前、速いだけじゃ狙われやすいんだよ。いい加減に気付け」

「ふふっ、そう簡単に私のライフスタイルは変わらないよ。可愛いメイザ」

 そう言うと、メイザの背中を抱き寄せキスした。

 うおー、と病室にどよめきが起きた。


 後ろから抱きしめられて、マリーンは振り向いた。

「無事でよかった、マリーン」

 ミハル・タチカワだった。高機動タイプの4人も治療を終えてやって来たのだ。

 マリーンは真っ赤な顔で微笑んだ。


 エマ・スピットファイアとマスタング姉妹がグロスター教官とともに戻ってきたことで、病室の中は包帯女子で一杯になった。


「……皆、よくやってくれた」

 少し鼻声で教官は言った。部屋の中を見回す。

「こうして全員揃うことができて、安心するとともに感動しているよ。だって、悲しい話しは、もう……」

 そこで教官は言葉を詰まらせた。

「もう、たくさんだったからね」

 やっとそれだけ言って、もう一度、少女達を一人一人を見渡した。

「みんな、還ってきてくれて、ありがとう」

 童顔を涙で濡らしたまま、笑顔を見せた。


 ぐしゃぐしゃになった顔を何度も擦り、普段の表情を取り戻した教官は病室を出るときに言った。

「今回の君たちの活躍は、残念ながら学校の成績には反映されない」

 だが。

「校長から感謝の言葉を頂いている。それと、全員に10日間の休暇もな。みな、ゆっくり休め。以上だ」


「いきなり10日間も休暇って言われてもな」

 困惑した表情のエマ。

「だったら、4人で旅行に行こうよ。温泉とか行ってみたい」

「ばか、だってマリーンはミハルと……」

「あ、そうか」

 マリーンは首を振った。

「いえ。わたしも一緒にいいですか。ミハルさんとはまた別の機会に遊びに行きますから」


「だけど、お邪魔じゃないのかな。本当は2人で行きたいんじゃないの」

 フュアリが言うと、未冬は急に真面目な顔になった。

「誤解しないで、フューちゃん。わたしたちは、えっちな事をしに行きたいんじゃないんだよ」


 ☆


「いたいー。エマちゃんひどい」

 頭を押さえ、泣き声をあげる未冬。

「誰もそんな事思ってないよっ!お願い、フュアリ、マリーン。一緒に来て」

「これは、ついて行くしかないね」

「監視が必要かもしれません」


 それから4人は部屋に戻り、旅行の準備を始めるのだった。

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