第41話 8人の防衛線

「緊急、緊急! 小型艦に隠れて、敵揚陸艦が侵入! 救援を願います!」

 アミエル・マスタングが普段の冷静さをかなぐり捨て、通信機に向けて叫ぶ。


「マスタング候補生か、状況を伝えろ」

「重装歩兵、3体。通常歩兵戦力は10名程度。うあっ……」


「どうした、マスタング!」

 銃弾がヘルメットを直撃し、アミエルは二階の通路へ落下した。

「アミエル!」

 エレナが援護に向かう。脳震盪を起こしているが、命に別状は無さそうだった。


 マリーンとグリーシャがペアを組み、上から重装歩兵を狙撃する。

 何発も命中しているのだが、すべて装甲の柔構造体に受け止められてしまっている。そしてその銃痕は自然と復元されるのだ。


「効かないのかっ!」

「この銃弾じゃ特殊装甲を貫通できないんです。もっと接近して撃つしか……」

「そのようだね。援護してくれる、スパイトフル?」

「無茶しないでください!」

「まぁ、出来るだけね」


 レッジアの方へと、背を向けていた重装歩兵に狙いをつけた。動力補助機関が背中にあるために、そこが唯一の弱点と言えるのだ。


 急降下し、立て続けに銃弾を叩き込む。

 ぼん、という音と共に火柱が上がった。

 機関部に損傷を与えることに成功したグリーシャだった。しかし今度は彼女に銃撃が集中する。

 マリーンの援護で一旦は上昇したが、空中でバランスを崩す。右肩から出血していた。


「下がって、グリーシャ」

「済まない」

 苦痛に顔をしかめ、港湾ブロック入口で防戦しているエマとフュアリに合流する。

 続いて、レッジアを抱えたマリーンも転がり込んできた。レッジアは目を閉じたままで、口元が血に汚れていた。

「意識がないけど、生きてるからっ」

 マリーンは大きく息をついた。飛ぶのはあまり得意ではないのだ。


 二階からマスタング姉妹が射撃を続けているため、通常歩兵も思うように展開できないでいた。だが、彼女たちも重装歩兵の攻撃を避けながらでは限界だった。

 そしてついに。

「ダメ、こっち弾ぎれ」

 エレナが呻いた。アミエルも黙って銃を振った。ふうっ、と息をつく。


「じゃあ逃げようか、アミエル」

「退却、でしょ。エレナ」

 だけど、あそこまで行けるかどうか。

 銃口が彼女たちを狙っているのだ。二人には、あまりにも遠い距離に思えた。


 入口の方で大きな音がした。何かがぶつかるような音が。

 エマたちが振り返ると、通路の壁にカートが激突していた。それでも颯爽と運転席から飛び降りた長身の少女。

「ごめん、お待たせっ!」

 未冬はカートの荷台を指差した。

「持ってきたよ、対戦車ライフル」


 いかに重装歩兵といえども、対戦車ライフルの銃撃には耐えられなかった。集中砲火で二体とも動きを止めた。そのまま、ばったりと倒れ込む。

 敵兵は重装歩兵を引きずり、揚陸艦の中へ逃げ込んだ。


「まいったよ、武器庫の扉が開かなくてさ。仕方ないから、訓練用のランチャーで電子ロックをぶっ壊しちゃった」

 知らねえぞ。でも、エマは未冬を抱きしめた。


 揚陸艦の中で金属がこすれるような音が響き始めた。

「何か出てくるよ!」

 フュアリが叫んだ。もう、声が嗄れかけていた。


 それは身長5メートルを越える人型の機械だった。

「あれ、何?」

 未冬が唖然としていた。ヒグマのロボット?

「あんなものまで持ってるのか……」

 エレナがほとんどため息のような声で言った。あれは。

「パワードスーツ」


 重装歩兵があくまでも甲冑なのに対し、パワードスーツは動力付きだ。人型の重戦車といってもいい。

「どこかの博物館から盗み出したんじゃないだろうな」

 これもまた、前世紀の遺物と言ってもいいものなのだ。しかし、重装歩兵と比較すると装甲の厚さ、重武装の度合いは数段上だ。


 パワードスーツを前面に押し出し、再度侵攻を開始してくる。

 大口径連装砲が、彼女たちが身を潜める遮蔽物を容赦なく削り取っていった。

「ひやーっ」

「レッジアを下げて。グリーシャも大丈夫?」

 負傷した二人をカートの後ろへ移動させる。

 対戦車ライフルでもパワードスーツには力不足だった。


「未冬、頼むっ!」

 エマが後方へ呼びかけた。

 おっけい!

 エマとエレナの間に砲身が突き出された。未冬が最も愛用する対艦船用ランチャー。

「ちょっと離れてっ」

 二人は慌てて後ろへ下がる。


「発射っ!」

 未冬は、狙いを定めた様子も無く銃爪ひきがねを引いた。必殺の三連射。

 砲弾がパワードスーツに炸裂した。凄まじい炎が吹き上がる。

 士官候補生たちは息をのんだ。


 炎と煙が収まる。パワードスーツは一歩、二歩と前へ進んだが、そこで停止した。

 後部から操縦者が転がり出て、揚陸艦へ駆け込んでいった。

 これで敵は逃げ腰になった。


「逃がすかっ」

 さらに揚陸艦に向けてランチャーを発射する。それは閉まりかけたハッチに命中。

 揚陸艦は大きく口を開けたままになった。これでは潜行はできない。


「撃ってくるぞ!」

 敵兵は逃走をあきらめ、未冬たちの防衛線を突破することにしたらしい。どうやら、やり過ぎたようだ。


 猛攻を受け、士官候補生たちは身動きできなくなっていた。

 これ、やばいよぉ。フュアリが小さく悲鳴をあげた。


 突撃体勢に入った敵兵が彼女たちの目前で、ばたばたと倒れた。

 涙目になった彼女たちは、ゆっくりと頭を上げ港の方を見た。


 外海への開口部から、次々に飛来する人影があった。

「ああっ、戦闘姫ワルキューレ

 正規兵たちが、間一髪救援に戻ってきた。


 女子士官候補生たちは互いに抱き合った。

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