7章 士官学校の放課後2

第36話 エロ本?いえ、文化資料です

「こ、これは。なんと」

 マリーン・スパイトフルが呻くように言った。

「あう、あう、あう」

 未冬は赤い顔で、声になっていない。

 士官学校の寮、フュアリ・ホーカーの部屋にいつもの四人が集まっていた。


「上物が手に入りましたぜ、旦那」

 という、彼女の怪しい誘いに乗ったのだ。

 部屋に入るなり、フュアリはベッドの下からその本を取り出した。

「写真集か。なにか珍しいのか」

 のぞき込んだエマはそのまま動かなくなった。


「エマちゃん、エマ。どうしたの?」

 呼びかけてみるが、エマ・スピットファイアは目を開けたまま微動だにしない。

「ああ、これ失神してるね」

 安全装置を作動させるのは彼女の得意技だ。

 だったら心配ない。それより。そんな事よりもっ。


「男の人、ですよね。これ」

「は、は、はだかだよ。はだかで絡み合ってるよ。どういう状況なの」

 ふふん、お子ちゃま共め。フュアリは得意そうに胸を張った。

「知らないの、昔はこういう文化があったんだって。男色、というのだよ」

「わたし、文章でしか知りませんでした。本物って、こう、なってるんですね」

 マリーンも目の焦点が合っていない。ずり落ちるメガネをなおしつつ、震える手でページをめくる。

「あ、鼻血がでそう」

 未冬は慌てて鼻をおさえる。


「それでね、これは男同士だけど、これで女の人と……」

「ええっ、これを。まさかです」

「あ、わ、わたし、知ってるよ。それくらい。だだ、だってわたしはそうやって生まれたんだから」

 人工授精ではなく産まれた未冬は、この時代では珍しい存在だった。

「うろたえるんじゃあないよ。こんなのはまだ序の口さね」

「フュアリさん、口調が変です」


「おい、お前らっ」

 突然、エマが声をあげた。

「おお、安全装置が自動復旧した」

「やかましいわ。なにこれ、セクハラじゃないか。帰るから、わたし」

「想い出を胸に?」

 う、うう。

「全部見ていきませんか」

 う、うん。

 

「と言うことは、教授もこうなってるのかな」

「やめて。想像すると萎えるから」

 未冬の言葉に、うんざりとする三人。

「次から顔が見れません」

「ごめん。自分で言って後悔してる。わたしって最低」


「それで、これ一体どうしたんだ。河原で拾ったとか」

 昔はそんなことが有ったらしいと、噂に聞くけれども。

「だから、これはエロ本じゃないんだよ。学術的資料だもの。ちゃんとしたルートで回ってきたんだ」

 回ってきた?

「そうだよ。だからこれを堪能したら次に回さないといけないんだ」

 いや、堪能って言ってるし。

「おおう、じゃあもっとしっかりと見ておかねば」


「さて、じゃあ次はミハルに回さなきゃいけない。マリーン、持っていってくれない?」

 え、とマリーンが赤くなった。

「わたしがこれを。ミハルさんに?」

「あれ、マリーンちゃん照れてる。あんな情熱的な公開告白したのに」

「いえ、未冬さん。あれは、その、勢いで」


 困ったな、えっちな子だと思われないかな。とか言っている。

 いまさら?

「一緒にあんな本を読んでるんだから、大丈夫だと思うよ」

 気にする理由が分からない。

 マリーンはいそいそと出掛けて行った。


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