第37話 無駄な努力など無いのだ
深夜、士官学校の寮内を緑色の恐竜が荒い息をつきながら徘徊している。
そんな噂が、恐怖と共に語られていた。
「いや、それって、未冬だろ」
朝食を食べながらエマが言う。フォークの先をくるくると回しながら。
「うん、わたしだね。多分」
未冬は大盛のライスを頬張りながら、頷く。
「何やってんの、そんな時間に」
フュアリに訊かれ、えへ、と未冬は笑う。
「わたしもね、眠れない夜があるのですよ」
「授業中、寝てるからだよね」
最近は頑張って起きてるよ。不満そうな未冬だった。事実、これ以上成績が下がったら追放されかねないのだ。
「ダイエットなんだって」
呆れたようにエマが言った。マリーンが眉を寄せて、未冬のトレイを見た。
「それにしては、明らかに消費より供給が上回ってるような気がするんですが」
なぜ大盛りにしているんだろう。
「そんな事ないよ。運動するとお腹が空くんだから」
意味ねぇー。エマがため息をついた。
「よしっ、みんなでダイエットしよう!」
未冬は勢いよく立ち上がった。
他の三人は意外にテンションが低い。冷たい目で、未冬を見上げる。
「なんで」
そういえば、みんな割と細身だ。これは誘っても無駄かもしれない。
「零号機のためでしょ。頑張ってくださいね」
マリーンが両手を握って激励してくれた。なんて優しいんだろう。ちゃんと分かってくれているのだ。
「ありがとう、マリーンちゃんの言葉だけで頑張れるよ」
そうなのだ。何となく、減量した方がいいのかな、そう思ったのだけれど。
「ああ。あれは……」
エマが遠慮がちに言った。
「体重というより、飛びたいという意思の方が重要なんだ。100Kgくらいの重しを付けても普通に飛ぶと思うよ」
技術開発部で零号機の調整に携わるエマの言うことだから間違いないのだろう。
「えーっ、そうなの? 早く言って欲しかったんだけど」
未冬は勢い込んで、お替わりをもらいに走った。
「なんじゃ、小娘。お前」
タンク教授は未冬をしげしげと見詰めた。
「久しぶりに見たら、えらく太ったではないか。まあ、実は、わしはその方が好みなのだがな」
にっ、と笑い親指を立てる。
鳥肌がたった。
いやだっ。やっぱりダイエットするっ!
未冬は誓いを新たにしたのだった。
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