6章 地上科VS.飛翔科 二回戦

第30話 問題は解決していません

 未冬は部屋の外が明るい事に気づいた。

 停電はまだ直っていないけれど、艦の外光を取り入れるシステムが作動したのだと分かった。こうやって自然光で目覚めるのも久し振りだ。

 隣で寝ているエマを揺すって起こす。

「あなた、朝ですよ」

「もう。冗談はよせよ、未冬」

 エマは未冬の胸に顔を押し付ける。

「いやん、くすぐったい」


 食堂に行くと、停電中だからこれで我慢して、と渡されたのは軍用携帯食レーションだった。いや、不味くはないのだけれど。

「ちょっと味気ないよね」

 コップの水で流し込む。

 訓練が終わるまでに直ってるといいのに、未冬はため息をついた。


 演習場に集合した彼女らに告げられたのは、新たな訓練の内容だった。

 地上科と飛翔科を組み合わせた部隊編成で二組に分かれる。


「うわ、エマちゃんと別々の組だよ」

 地上科は未冬とフュアリ、エマとマリーンに分けられた。

 高速系と高機動系をそれぞれ半々に組み合わせた飛翔科とともに拠点攻略および防衛訓練を行うのだ。攻撃側、防衛側に別れ模擬戦を行った。


 その結果分かったのは、マスタング姉妹は分割しては駄目だということだった。

 もちろん単独でも並以上の能力はあるが、二人がコンビを組んだ時の攻撃力には遠く及ばない。これにはグロスター教官も苦笑するしかなかった。

 上手くいかないものだな、と。


 そしてもう一人、落ち込んでいる少女がいた。

「当らない…。なんで」

 未冬だった。

 天才的な射撃能力を持つはずの未冬だったが、この訓練での撃墜はゼロ。


「目標物が動いてると駄目なのかな。ちょっと未冬、これ撃ってみて」

 グリーシャは手にした大型ナイフを放り上げた。

 未冬は一発放った。落下しかけたナイフは再び跳ね上がる。

 さらに一発。二発。

 演習場の隅まで飛ばされたナイフにはペイント弾の痕が三つあった。

「すげー」

 一同、感嘆の声をあげる。


「あ」

 何かに気付いたマスタング姉妹が顔を見合わせた。

「未冬。私を撃って」

 アミエルが未冬の前に立って言った。

「え、いいの。大丈夫?」

 アミエルは黙ってゴーグルを付けた。

「さあ、どうぞ」


 未冬は拳銃を構える。すらっとした、いい姿勢だった。

 その銃口が震え始めた。息がせわしくなる。明らかに様子がおかしい。

「未冬?」

 エマが声をかける。

 未冬は、はっとしたように引金を引いた。


「いてっ、何であたしにっ!」

 悲鳴を上げたのは、アミエルの横にいたフュアリだった。


「分かりました。未冬は多分、友達を撃てないんだと思います」

 アミエルの言葉に、エレナも頷く。

「ちょっと、あたしはっ!」

 激怒するフュアリをマスタング姉妹は慌ててなだめる。

「ああ、違う。ごめんなさい。フュアリのは単なる流れ弾だから。友達じゃないって事じゃない」

「そうそう。心配はいらない」

 一方、未冬はその場にしゃがみ込んでいた。


 エマがその頭をぺん、とはたいた。

「何、落ち込んでるんだよ」

「だって、全然当らないんだもん。わたしの唯一の特技なのに」

 ばーか。

 エマもしゃがみ込んで、呆れた声で言った。

「お前さ、これから先、友達を撃つことがあるのか?」

 血の気を失った顔をあげた未冬はぷるぷる、と首を横に振る。

「絶対にない」


 なら、どこに問題があるんだよ。エマは未冬の頭を両腕で抱いた。


「あたしは釈然としないけどねっ!」

 フュアリがまだ怒っている。

「いい、未冬。お昼ごはんのおかず、一つ貰うからねっ。覚悟しときなさいよ」

 言っとくけど、メインのおかずだよ。


 だけど、お昼になっても停電は直っていなかった。やはり携帯食が配布された。

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