第29話 停電の夜に
どん、と地響きのような音がした。
未冬とエマはそれぞれのベッドの上で跳ね起きた。
「なんだろう、今の音。攻撃かな」
「それにしては警報が鳴ってない。っていうか、灯りが消えてるぞ」
天井では非常灯がボンヤリと光っていた。
「停電、だ」
二人は廊下に顔を出した。彼女らの他にも、何人もが同じように外を伺っているのが見える。この辺り一帯が停電しているらしい。
「何だろう、珍しいよね」
未冬が住んでいた地区では、数年前に電気回路の故障とかで停電した事があった。その時は半日くらい停電したままだったけれど。
「ああ、未冬、エマ。びっくりしたよ」
となりの部屋からフュアリが顔を出した。そのふたつ隣がマリーンの部屋だ。彼女もパジャマ姿でやって来た。
「マリーンちゃんのパジャマ、可愛い」
「あ、ありがとう。でも、未冬さん。いつもそんな格好で寝てるんですか」
フュアリもそれを見て吹き出した。
「変かな、この着ぐるみ型の寝袋」
緑色の恐竜型で、しっぽまで付いている。手足の先の爪はともかく、背中にもトゲがあるので、寝るのには向いていないように見える。フードを被るとギョロ目の恐竜の出来上がりだ。
「か、かわいい♡」
フュアリとマリーンは歓声をあげた。
「こいつ寝相が悪いから、風邪引かないようにわたしが選んだんだよ」
「エマの趣味か。でも、どこでこんなの売ってるの」
「そうだ。みんなで、おそろいにしようよ」
「それは嫌です」
「みなさーん、停電の原因が分かりましたよ」
管理人さんが大声で報せてくれる。
「ジェネレータの故障らしいので、復旧までちょっと時間がかかります。自分の部屋に戻りなさい」
はーい、と少女達は部屋に戻っていく。
ただ、ユミ・ドルニエの部屋には大勢入って行ったような気がしたが。
「すっかり目が冴えちゃったね。どうしよう」
「勉強でもしろよ」
へへっ、暗くて無理だよ。そう言うと未冬はエマのベッドに入ろうとする。しかも恐竜姿のままで。
「えい、邪魔だっ」
蹴落とされる。
「ひどいよ、エマちゃん。ぐすん」
「うるさい。来るなら恐竜は脱げ」
空調が止まっていて少し寒い。二人はしっかり抱き合っていた。
「暖かいね、エマちゃん」
「まあな」
ふふっ、と未冬は笑う。
「なんだよ、未冬。その笑いは」
「決めたよ。わたしエマの赤ちゃん産む」
ぶっ、とエマがむせた。
「お前、何言ってるんだよ。わたし達は学生なんだぞ」
未冬はエマの髪を優しく撫でながら、くすっと笑う。
「もちろん将来の話だよ。いいでしょ」
「それは……」
エマは考え込んだ。
「だったら一つ条件がある」
「なにかな」
「わたしも未冬の赤ちゃんを産むから」
ふぉっ、と未冬は声をあげた。
「いいよ。一緒に子育てしよう」
ぎゅっとエマを抱きしめる。
男性が極端に少ないこの世界では、人工授精の方法として、冷凍精液を使う以外に、他の女性の遺伝子を使用することが可能になっていた。遺伝子操作によるこの方法は現在の主流になっていた。
「だけどこういうの、世間では死亡フラグって言うらしいぞ」
「何それ。心配しなくても、わたし達にそんなものが適用される訳ないじゃん」
未冬は屈託なく笑った。
確かにそれは一番あり得ない展開だった。エマも安心して未冬を抱きしめた。
「暖かいな、未冬の身体は」
エマは彼女の耳元でささやいた。
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