第27話 夢みるアンドロイド
「こんな噂知ってる?」
士官学校寮での夕食時、フュアリが身を乗り出して言った。
「またかよ。も、もう驚かないからな」
エマの頬がぴくぴく、と動く。
以前の幽霊話しでは醜態を晒してしまったから、警戒を強めている。
未冬とマリーンがそんなエマを見ながらニヤニヤしていた。
「さあ、聞かせてみろよっ」
ふふっ、と笑うフュアリ。
「実はね、うちのクラスにひとり」
「う、うん」
「アンドロイドがいるんだって!」
エマはきょとん、としている。
「あれ、驚かないんだね」
フュアリは不満そうな顔になった。
あの、と、エマは不思議そうに言った。
「アンドロイド、って何」
アンドロイド、知らないのっ?
フュアリは素っ頓狂な声をあげた。
他の二人を順番に見わたして、あれ、と首をかしげる。
「もしかして、知ってるの、わたしだけ?」
「それって、ロボットの事ですか?」
マリーンが、FAQにもありそうな質問をした。フュアリは腕組みをして、さらに片手で額を押さえる。
「うん。大きく言えばロボットの仲間、なんだけど」
うーん。これは少しショックだ。
自分が常識だと思っていることが、他人には全く通じないとは。
「分かった、あれでしょ。足にロケットエンジン付けたりとか、胸からミサイル出せちゃう人の事でしょ」
「未冬よ。お前、どうしても改造されたいらしいな」
エマと未冬。この二人にも、若干ついていけないのだが。
「それは、強いて言うならサイボーグ」
基本的には、アンドロイドはロボットの仲間になる。その中で、人間そっくりな外見をしたものを特にアンドロイドと呼ぶのである。あくまでヒューマノイド型の機械なのだ。
対してサイボーグは、人間がベース。改造人間とか呼ばれることもある。これも、改造の度合い、例えば人間由来の部分が脳だけになってもそう呼ぶのか、議論はあるところなのだが。
他に、オートマトンとかいう言い方もあるらしい。
「アンドロイドには電気羊、だからオート『マトン』なのかな」
エマが首をかしげる。だが、それにマリーンが異議を唱える。
「いやいや、電気だったら、『ラム』のほうがそれっぽいと思います」
未冬は呆然としている。一体、何の話だっちゃ?
「え、で。そんな子がうちのクラスにいるんですか?」
マリーンが眉を
「うん。なんだか秘密裏に製造されて、うちのクラスで実証試験してるんだって」
へー。三人は同時に声をあげた。
「それ、誰か分かってるの。ねえ、フュアリ」
彼女は首を横に振った。
「特徴はね。射撃とか機械みたいにすごく正確で。まあ、機械だから当然なんだけどもね」
「ほうほう」
確かにいっぱいいるな。それだけだと。エマは頷いた。
「エネルギー消費を抑えるために、普段はあまり動かないとか」
あれ。エマは右手をあげた。
「わたし、知ってるかも。射撃が天才的で、授業中居眠りしてエネルギー消費を抑えてる奴」
三人の視線が未冬に集中した。
「いやいや、それはないでしょ」
マリーンが笑って手を振る。
「そうか。わざわざ、こんなポンコツ造って何の役にたつのか、って話しだよね」
「違いますよ、フュアリさん。わたし、そんな事言ってないです」
「はは。でも、それはそうだよな」
そこで未冬が困惑顔で言った。
「あの。なんだかわたしだけ、話しについて行けてないんですけど」
「そうそう、そのアンドロイドは無表情で成績もいいらしいよ」
「最初に言えよ。全然、未冬じゃないじゃん」
あはは、と四人は笑う。
「でも、じゃあ誰なのかな」
「17人目の生徒、なんじゃないですか」
マリーンが言った。
「ああ、
みんな知ってるメンバーの筈なのに、数えると一人多い、とか。
「それって、私の話ですか」
急に後ろから声を掛けられて、エマが小さく悲鳴をあげた。
立っていたのは。
「ミリア・カーチスです。話すの初めてだったかな」
肩までの髪はきれいな栗色。大きな瞳の割には表情がない。訓練ではミハル・タチカワの組に入っていた。確かに成績もいい。
「そうだ、ミリアちゃんもよく寝てるもんね」
「お恥ずかしい」
台詞の割には、全然照れた様子もない。
「なぜでしょうね。人間味がないという事でしょうか」
自嘲的に言うのだが、表情は変わらない。
しばらく話しをして別れたのだが。
「人間だよね。普通に」
「ちょっと、無愛想かもしれないけどな」
「えーっ、可愛いよ、あの子」
その中で、マリーンだけは少し考え込んでいた。
「でも、どこか……」
食堂の出口で、ミリア・カーチスは振り向いた。四人をじっと見詰める。
眼窩の奥で、微かな機械音がした。
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