第24話 試験型零式ワルキューレ

 士官学校は授業中だった。

 通常の教科なので未冬は居眠りの時間である。試験結果に対する反省も3日程しか続かなかったらしい。


 教室の扉が大きな音と共に開かれた。

「未冬、未冬はいるか!」

 クラス中の視線がその男に集中した。

 「げっ」

 エマ・スピットファイアが声をあげた。彼女の天敵と言ってもいい白衣の男。

「ふえっ?」

 未冬が顔をあげた。よだれを拭いている。

「あれぇ、教授。何してるんですかぁ。授業中ですよぅ」

 そこで気付いた。教官が彼に対して敬礼している。

「エマちゃん。教授って偉い人なのかな」

「……知らねえよ」


「おう、いたか未冬。なんだ幼児体型の小娘もいるではないか。丁度いい、こいつらを借りていくぞ」

 廊下に出るとレオナが待っていた。

「ご免なさい、言いだしたら聞かないのよ」

 渋い顔で頭を下げる。


 二人は学校の応接室に招き入れられた。

 レオナが一枚の図面を拡げる。そこに描かれていたもの。そのイメージは躯幹と腕、そして両脚に装着する分割型の鎧だ。柔らかな曲線で形造られたそれは、艶やかささえ感じさせた。

「どうですか」

 少しだけ得意そうに彼女が微笑んだ。謹厳な印象の彼女にしては珍しい。

「未冬さん専用の、戦闘姫ワルキューレです」


「この前の実験結果が認められてな。これがついたんじゃよ、これが」

 教授が親指と人差し指で丸を作った。

 それを全く無視して、未冬は図面に見入っていた。

 息をするのも忘れている。

「なんて、きれい」

 やっと声がでた。

「これ、誰が考えたんですか……」

 レオナが恥ずかしそうに、ちいさく手をあげた。


「腕と、脚のすねに装着するのは姿勢制御のための補助用です。もちろん武器も装着出来ますよ」

 おおう、未冬が目を輝かせる。

「バズーカ、バズーカ砲は付けられますか」

 レオナは、これにバズーカ砲付けるの?という顔になった。

「え、ええ、もちろん付けられるけど。じゃあ、脱着オプションで検討しておくから」

 未冬はがしっ、とレオナの手を握った。

 うるうる、とした瞳で何度も頷く。


「ただ、ひとつ大きな問題があるのだ」

 深刻な表情で教授が言った。未冬とエマは顔を見合わせる。

「今日はその為に来たと言ってもいい」

 あれを、と教授はレオナに声をかけた。彼女はバッグから取り出したのは。

「メジャー?」

「そうだ。正確な胸のサイズが分からないと密着性が落ちる。そうなると機器への意思の伝達効率が落ちるからな」

 はあ。未冬は曖昧に頷いた。


 えへん。と咳払いをした教授は立ち上がった。

「不本意ではあるが、わしが計らなくてはなるまい。よし、服を脱ぐがいい」

 妙な手つきでかがみ込んだ教授の顔面に、エマの右フックが炸裂した。

 倒れた教授にレオナと未冬が、げしげしと蹴りをいれる。


「じ、冗談に決まっておるだろう。洒落の分からぬ奴らだ」

 よれよれになった教授は腰を押さえながらソファに沈み込んだ。


「名前は、ありますか」

「ん?」

 未冬の言葉にレオナは首をかしげた。

「このワルキューレですけど」


「ああ、仮の名前だけどね。『零号試験戦闘姫』と呼んでいるよ」

 通称、『零戦』かな。

 レオナはそう言った。

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